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ミドリと会う:博士の普通の愛情

「あ、ミドリちゃん。久しぶり」
「ユウくん。久しぶり」

ミドリとは仕事場が近いのだが、会うことは滅多にない。たまたま来たカフェの窓際の席にミドリは座っていた。

「ここに座れば。あの彼女とうまくいってるの」
「まあね。いろいろある」
「お姉さんが聞いてあげようか」
「歳が同じで学年がひとつ上、ってだけだろ」

僕がミドリに最後に会ったのは3年前だったか。彼女と焼き鳥屋に行ったら今日のように先にいたミドリに会った。あの時も「ここに座れば」と言われた気がする。彼女は人見知りで、僕の友人にはほとんど会ったことがない。そのひとり前の彼女がとにかく誰とでもすぐに仲良くなる社交的なタイプだったのでギャップが大きかった。「ユウの彼女に会ったことがあるやつは誰もいない。本当に実在してるのか」と仲間たちはよく言っていた。

「いろいろって何よ」
「まずコーヒーを飲ませてくれよ。慌てるな」
「彼女、人見知りだよね。あの時もあまり話せなかった」
「うん。極度の人見知り」
「うまくいってないの」
「そんなことはないよ。でも最近知らなかったことがいくつかあってさ」
「そっか」
「一度、結婚していたんだって」
「それを今頃聞いたの」
「そう。聞かれなかったから、と言ってた」
「変わってるよね」
「あと、子供がひとりいて旦那さんが育ててるんだって」
「マジか」
「僕はそういうことを別に気にしないから、って言うとどんどん出てきた」
「まだあるの」
「アダルトビデオに出ていて、その契約で制作会社やプロダクションともめたから友人に紹介された暴力団の人に話をつけてもらったらしい。で、その人と結婚して子供ができたんだって」
「濃いわあ」
「で、離婚して現在に至るって感じ」

ミドリも軽い気持ちで聞いたんだろうけど、僕の話がヘビー過ぎたんだろう。無言でカフェオレを飲んでいる。

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「ごめんね。面倒臭い話しちゃって」
「いや、それはいいんだけど、ユウくんはそれで幸せなの」
「どうだろうなあ。正直なところ、まだ知らない話が出てくるんじゃないかって不安はある」
「大変だね」
「まあ、過去のことだからね」
「過去かあ。便利な言葉だね」

ミドリは窓の外を見ながらそうつぶやいた。

スマホに電話がかかってきた。彼女からだ。近くにいるのでここに来ると言う。

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。