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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2021年9月の記事一覧

ガソリンスタンドの男:博士の普通の愛情

もしかしたら結婚するのかもしれない、と思った女性がいた。20代の初めの頃だ。彼女は悪く言ってしまうと東京近郊の平凡な家庭で育ったミーハーで、部分的には苛立つことが多かった。何かと言えば、「それ、有名だよね」と言った。僕はそのたびに、「有名じゃないと価値がないの」と聞き返していたが、まずいことを言ったという顔もしない。 ミーハーというのは、自分の自信のなさの表れだよ、と言ったこともある。そのときはかなり頭に来ていたからひどいことを言った。僕が友人と一緒にいるカフェにたまたま彼

DAY, THREE, WEST:博士の普通の愛情

青山の国連大学の前で「ラウラ」に出会った。彼女に西麻布に行く道を聞かれたのだ。僕も六本木に向かう途中だったので一緒に歩こうと提案した。ブラジルから仕事で数ヶ月の出張に来ているというラウラは、少しだけ英語ができて、僕もたいして英語ができるわけじゃないから会話の理解度がちょうどよかった。 ラウラは青山通りから骨董通りに入るところにある標識をスマホで撮っていた。僕が何を撮っているか聞くと、「こうしておくと憶えるから」と言って、はにかんでいた。「DAY, THREE, WEST」と