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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2020年5月の記事一覧

銀の指輪「3」:博士の普通の愛情

青山にある大型書店に行ってみた。 リリーが言っていた作家の名前を本棚から探す。かなり多く彼の本が並んだエリアがあったから、実績のあるベテラン小説家なのだろう。 ある時期から僕はフィクションをまったく読まなくなっていた。作り話に没入できないのだ。もう十年以上になるだろうか。本と言えばノンフィクションばかり読んでいる。この地球上で様々な問題が起きているのに、それを解決もせぬまま空想にふけっていてもいいのだろうかと思ってしまうのだ。まあ、僕がノンフィクションを読んだからといって

銀の指輪「2」:博士の普通の愛情

「最近、旦那と会ったの」 「いや、電話では話したけど、彼とは会ってないよ。外出は自粛しているし、この近くでやっている仕事以外では、滅多に人とは会わない」 「へえ。そうなの」 リリーが持っているのは、僕でも知っている高級ブランドのバッグだった。 「あのね。できれば片桐さん、もうこのホテルに来るのをやめてくれない」 「どうして。何か困ることがあるのかな」 「面白がってるでしょ。私が男と来るのを知ってから来てるでしょ」 何か適当な言い訳をしようと思ったが、あきらかに図