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P.A.WORKSとDMM.comの蜜月関係:メガヒットを狙う気がない理由

2024年夏アニメの放送が開始され、定番の続編から、話題の新作まで、様々な作品が放送されています。

その中で注目を集めているアニメスタジオと言えば、P.A.WORKSです。

というのも、今期は『真夜中ぱんチ』『菜なれ花なれ』『天穂のサクナヒメ』の3作品を公開しているのです。これは従来のP.A.WORKSでは考えられないだと言えます。

一方で近年のP.A.WORKSの動向は、他のアニメスタジオとは一線を画します。というのもP.A.WORKSは、各大手企業のように売り上げを最大化させるわけでもなく、京アニのように自社IPに強いこだわりがあるわけでもないからです。

とりわけ不気味なのが、2020年代に入ってからDMMと協業するケースが増えたことです。

P.A.WORKSの制作方針

ここで一旦、P.A.WORKSの制作方針を振り返ってみます。

P.A.WORKSは、2000年に富山で設立された企業で、現在も富山に本社オフィスを設置しています。

2008年には初の元請け作品である『true tears』が放送。それから2010年代前半に『Angel Beats!』『花咲くいろは』『TARI TARI』『凪のあすから』などのヒット作を連発。PAブランドが確立されていきます。

私の個人的な感想も含めれば、P.A.WORKSは「温かいアニメ」を作るスタジオだと感じます。心が温まる感動的な作品づくりが、P.A.WORKSの最大の特徴だと言えるでしょう。
ここで取り上げる「感動」とは、涙腺崩壊の類ではありません。感動ポルノではなく、あくまでも心を温かくするような感動が、PA作品にはあります。

また、P.A.WORKSは可能な限り内製しているものの、外部のアニメーター(特に監督)を積極的に取り入れているのも特徴です。キャラクター原案は、その時々の注目イラストレーターに依頼するので、作品によってキャラデザが大きく異なります。この点は、京アニと明確に違うポイントだと言えるでしょう。

DMM.comの経営方針

DMM.comは、レンタルビデオ店を経営していた亀山敬司が1999年に設立した企業で、国内でも早い段階で動画配信サイトをスタート(アダルトビデオ事業も)。

それから「DMM FX」「DMM英会話」などの主力事業が立ち上げられ、現在に至ります。

アニメ関連事業で言えば、2013年にスタートした『艦これ』や2017年に設立されたDMM picturesなどが有名な事業です。

これまでのDMM.comの動向を見ると、FANZA、DMM証券などの主力事業で得た資金を元手に、様々な事業に投資しているのが特徴です。

アニメ関連事業に関しては、ゲームも含めて確実に業績を伸ばしており、もはや主力事業だと言っても過言ではありません。

一方で、他の大手企業とは異なり、DMM.comは未上場なので、ある程度好き勝手できるのも特徴です。

これが、DMM.comのアニメ作りに大きな影響を及ぼしていると思われます。

そしてDMM picturesが初めて担当した作品が、PA作品の『有頂天家族2(2017年放送)』なのです。

アニメスタジオのオンラインサロン『P.A.SALON』

P.A.WORKSとDMM.comが本格的に絡み始めたのがいつ頃なのかは外部から判断しづらいものの、やはり見過ごせないのが日本初のアニメスタジオのオンラインサロン『P.A.SALON』です。プラットフォームはDMMオンラインサロンが用いられています。

価格帯が月1,000円から3,000円であることから、オンラインサロンというよりはファンクラブに近いものの、近年は会員主導のプロジェクトも増えています。

このサロンでは、現在放送中のアニメの裏側が覗けたり、PA作品の特別壁紙が配布されたりするのが目玉で、ブランドを確立できているP.A.WORKSだからこそできるサロンです。

会員数は現時点で344人で、誤解を恐れずに言えば、この344人がP.A.WORKSの上客だと言えます。

一般的にアニメビジネスは、アニメをほぼ無料でばら撒いて、ごく一部のお金をたくさん払うオタクを可能な限り増やすことで、収益を伸ばします。
ほとんどの人は『鬼滅の刃』は見るだけですが、中には原作漫画を読もうとしたり、グッズを大量購入したりする人もいます。このようにお金を払ってくれる上客によって、アニメビジネスは成り立っているのです。

そう考えれば、アニメスタジオとオンラインサロンの相性は抜群ですが、アニメ作品の多くは、版権の問題で自由に取り扱うことができません。その中でP.A.WORKSは製作委員会と上手に交渉しながら、過去作品をサロン内で引っ張り出すことに成功しているように思います。

そして、DMM.comとの提携作品が増えれば、それだけサロン内で作品を使いやすくなり、サロンでできることがもっと増えます。

余談ですが、2022年ごろくらいに私もP.A.SALONに入会していた時期がありました。会員で自主的に動けると思っていましたが、想像以上にファンクラブ的な要素が強かったため、退会することに。ただし現在は、会員が自主的に動くケースも増えているようです。

P.A.WORKSの作品が好きな人や、オンラインサロンに興味がある人は、試しに入会してみていいかもしれません。

DMMの水族館が舞台の『白い砂のアクアトープ』

P.A.WORKSとDMMが本格的にアニメを作り始めた第1作目が『白い砂のアクアトープ』です。本作は水族館で働く女の子を描いたストーリーで「水の描写」や「働く女の子」など、見るからにP.A.WORKSと相性抜群なテーマとなっています。

そんな『白い砂のアクアトープ』ですが、製作委員会にはDMM pictures(DMMのアニメ事業部門)が参加しており、表記の順番を見る限り、DMM picturesが主導権を握っているのは間違いありません(P.A.WORKSも参加しています)。

そして『白い砂のアクアトープ』で登場する水族館のモデルが、DMMかりゆし水族館なのです。

当館は2020年5月にオープンしており、『白い砂のアクアトープ』が2021年放送であることから、言わば『白い砂のアクアトープ』はDMMかりゆし水族館のプロモーションビデオのようなものです。実際に私も『白い砂のアクアトープ』をきっかけに、DMMが水族館を運営していることを知りました。

ここで、P.A.WORKSとDMMの共通点が1つ見えてきます。それは、ニッチなテーマを取り扱うということです。

これまでにP.A.WORKSは「水族館」だけでなく「旅館(花咲くいろは)」や「地方創生(サクラクエスト)」や「競馬(ウマ娘)」など、ニッチなテーマを突いた作品を作ってきました。同じくDMM.comも2010年代後半から、IT企業とは思えないほどの多領域で、ビジネスを立ち上げています。

『白い砂のアクアトープ』は、テーマはもちろんのこと、ストーリーも大衆的とは言えない(感動ポルノじゃない)のですが、それでも企画が通ったのはDMM.comの力が大きかったはずです。おかげさまで、心温まる作品が出来上がりました。

亀山会長がパトロンになった『駒田蒸留所へようこそ』

P.A.WORKSとDMM.comは、TVアニメだけでなく劇場版にも手を出しています。『駒田蒸留所へようこそ』です。

『駒田蒸留所へようこそ』は、ジャパニーズウイスキーをテーマにした作品で、主に長野県が舞台となっています。劇場アニメが公開された当時は、コラボ商品としてジャパニーズウイスキーが販売されていたのが懐かしいです。

ジャンルとしてはお仕事系アニメに該当するので、P.A.WORKSらしい作品に仕上がっています。

本作の見どころは「仕事に対する考え方」にあると思うのですが、それ以上に私は、エンディングのクレジットに注目しました。「製作」がDMM.comしか記載されていないことから、DMM.comによる単独出資作品であることがわかります。
また、これはあくまでもDMM.comであって、DMM picturesではありません。そして「企画」には亀山敬司会長が記載されています。つまり『駒田蒸留所へようこそ』は、亀山会長単独の作品と言っても過言ではないのです。

私は本作のクレジットを見て、P.A.WORKSとDMM.comが蜜月関係にあることを悟りました。

『菜なれ花なれ』のテーマは”応援”なのだが……

2024年夏クールでP.A.WORKSは3作品公開していますが、その中でDMM.comが製作に参加しているのは『菜なれ花なれ』です。

本作はチアリーディングをテーマにした作品です。1話を視聴した段階でP.A.WORKSらしさがビンビンと伝わってきます。

3DCGと手描きアニメと背景のコンポジットも秀逸なので、映像表現も楽しめます。

チアリーディングを題材にしていることから「応援」がテーマなのは間違いありません。そして「応援」と言えば、私は「クラウドファンディング」を連想してしまいます。

DMMはクラウドファンディングサイトを直接運営していないものの、海外支援向けの「DMM STARTER」など、何かとクラファンに縁があります。

もちろんオンラインサロンも「応援」というテーマに合致します。

P.A.WORKSとDMMはメガヒットを狙う気がない

冒頭でも述べた通り、P.A.WORKSの制作方針は、ほかのアニメスタジオとは一線を画します。簡単に言えば「お金」に執着がないのです。しかしその割に、アニメオリジナル作品をたくさん制作していることから、ただの元請け会社でないのも事実です。何かしらの信念の元で経営しているように見えます。

特に近年は、作品の傾向を見ても、メガヒットを狙う気がないことがわかります。メガヒットを狙うなら、それこそ『ウマ娘』を制作し続けたり、感動を煽ったりすればいいわけで、しかしP.A.WORKSの作品は、良くも悪くも刺激が抑えめなのです。
もちろん、会社としてやっていく以上、ヒットは狙っていると思いますが、大衆に認知されるメガヒットには全く興味がなさそうです。

そしてもっと奇妙なのがDMM.comです。通常、ITなどの他業種がアニメ事業に参加する場合、そのほとんどがメガヒットを狙いにいきます。サイバーエージェントによる『ウマ娘』やバンダイナムコの『ラブライブ!』が代表例です。

また、優秀なアニメスタジオとの提携が決まったら儲け物で、有名なIPを引っ張ることで収益の最大化を狙います。その傾向が顕著なのが『鬼滅の刃(ufotable)』や『まどマギ(シャフト)』のアニプレックスです。最近はサイエンスSARUも東宝に飲み込まれ、そのあとに『攻殻機動隊』などの有名IPの制作が決定しました。ほかにも、名だたるアニメスタジオのほとんどは、どこかしらの大企業と癒着しており、それなりに有名なIPを、それなりの資金で作らされます。

しかしDMM.comは、P.A.WORKSに有名IPを強要しません。それどころか、ニッチを攻めることを勧めているように見えます。でないと水族館やジャパニーズウイスキーを題材にしたアニメ作品が誕生するわけがありません。

つまりP.A.WORKSとDMM.comは、メガヒットを狙う気がないのです。

P.A.WORKSとDMM.comのそれぞれのメリット

P.A.WORKSがDMM.conと関係を続けるメリットは、資金面にあります。やはりP.A.WORKSは全盛期に比べたら作品がヒットしていないのは否めず、京アニのように製作委員会をある程度掌握できているわけでもないはずです。お金に余裕が全くないのは想像に難くありません。

一方のDMM.conは、アダルト事業などが安定して利益を生み出すうえ、おそらく借入額も少なく、亀山会長が株式を全て保有しており、その亀山会長が従業員に大きな裁量権を与えているため、お金を好き勝手に使えます。アニメ制作費の数億円程度の捻出は余裕な上、DMM pictures単体でも利益が生まれていることから、相当の余裕があるでしょう。

これが、他の大企業との大きな違いです。

例えばサイバーエージェントは、ゲーム事業が利益の大部分を占めることから、アニメが生命線になりつつあります。バンダイナムコやDeNAも同じ状況です。放送局に関しても、アニメ事業ぐらいしか成長の余地がないことから、遊べるだけの余裕はありません。そして、アニメ業界を掌握しつつあるソニー(アニプレックス)も、家電企業からエンタメ企業へと完全にシフトしており、その中心にはアニメがあります。

それがDMM.comの場合、アニメビジネスに依存していないことから、作品作りで大きな余裕があるのです。別にメガヒットを狙う必要はなく、純粋な気持ちで「おもしろいアニメ」を作れます。
もちろん、DMM picturesとしては、アニメ事業として一定のノルマがあるのでしょうが、『駒田蒸留所へようこそ』のクレジットを見て分かる通り、おそらくDMM.com全体としては、アニメで遊べるだけの余裕があるように思えます。

そして、そんなおもちゃ道具(誤解を恐れずに言えば)としてP.A.WORKSは最適なパートナーだと言えるでしょう。品質が極めて安定しており、ブランド力もありながら、純粋にクリエイティビティを追求するアニメスタジオです。DMM.comにピッタリのパートナーだと言えます。

P.A.WORKSとDMM.comはどこへ行く?

「最近のアニメはつまらない!」と感じた方、一定数いらっしゃるのではないでしょうか。理由はいくつかあるかもしれませんが、少なくとも現代アニメが「利益至上主義」に支配されているのは間違いありません。『鬼滅の刃』も『ソードアート・オンライン』も『ぼっち・ざ・ろっく!』も『まどマギ』も『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も、あらゆる有名作品で「利益」が透けて見えます。

もちろん、利益がなければアニメが作れないのは事実です。だからアニメ関連企業は、今後も利益をそれなりに追求して、アニメを作らなければなりません。

一方で、最近のP.A.WORKSの作品からは「利益」が見えないどころか「意図」や「方向性」も見えません。特にDMMが製作に参加している作品で、その傾向があります。

きっとアニメ業界は、数多くのレポートにある通り、これからも順調に成長し、ソニーやバンダイナムコなどの企業が潤っていくのでしょう。そんな未来は誰もが簡単に予想できることです。

一方でP.A.WORKSとDMM.comがどこに向かうのかを推測するのは、良い意味で困難です。全く分かりません。未知です。

未来が、よくわからないところに眠っていることは、歴史が証明しています。全人類がスマートフォンという名のコンピューターを所有する時代を、どれだけの人が予測できたでしょうか。当時はオタクのモノだと思われて敬遠されていたコンピューターが、世界を丸々変えたのです。

ただし少なくともP.A.WORKSの未来で1つ言えることは「メガヒットを狙うことはないだろう」ということです。利益至上主義や売上拡大とは違う路線をP.A.WORKSは突き進むのだと思います。そのパートナーとしてDMM.comは最適なのでしょうね。

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