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アニメーター志望におすすめのアニメ⑥:数分間のエールを

最近、公開されたアニメ映画の中で、アニメーター志望におすすめのアニメを紹介するなら『数分間のエールを』を挙げたいです。

『数分間のエールを』は、新進気鋭の映像制作チーム「Hurray!」と『ラブライブ!』などの有名作品の脚本を担当してきた花田十輝によるアニメ映画です。「この時代にモノづくりを志す全ての人へ」とある通り、アニメーターに限らず、クリエイターを志す全ての人がターゲットとなっています。

とはいえ、ストーリーそのものは、モノづくり系やお仕事系アニメの王道をゆくスタイルで、特別新鮮な学びは、個人的にはありません。それよりも、アニメーター目線で言えば、映像表現で大きな学びがあります。

『数分間のエールを』は、料金無料の3DCG制作ソフト「Blender」を中心に映像が制作されているセルルック3DCGアニメです。一方で、手描きアニメ的な演出も多用されていることから、手描きアニメと同じような感覚で視聴できます。

『THE FIRST SLAM DUNK』を皮切りに、多くの人がセルルック3DCGに対して違和感を感じなくなっていますが、時代は既に次のフェーズに突入しています。それは、セルルック3DCGと手描きアニメのグラデーションです。

例えば、最近放送されている『ガールズバンドクライ』は、メインの登場人物をセルルック3DCGで描く代わりに、背景やエキストラは手描きにすることで、予算削減及び手描きアニメの質感向上に成功しています。
同じく『数分間のエールを』でも、セルルック3DCGを中心としながらも、見せ場では漫画的な表現を取り入れることで、手描きアニメらしさを高めています。考えてみればわかることですが、3DCG空間上に平面の一枚絵を描くことは、理屈的には可能です。

今、アニメ作家が考えなければいけないのは、セルルック3DCGと手描きアニメの間にあるグラデーションの棲み分けです。セルルック3DCGの中に、どのように手描きアニメの要素をミックスさせられるかが、トレンドになっているように思えます。
もちろん、『ダンジョン飯』を代表するTRIGGER作品のように、セルルック3DCGとは真反対の映像表現で攻めるのもアリです。

2020年代は、セルルック3DCGにフォーカスするだけでなく、手描きアニメの温かさとセルルック3DCGの正確性のバランスポイントを見つけることが重要で、そのフェーズは既に2022年ごろから本格的に始まっています。この流れについていくことがアニメーターにとって重要ですし、アニメ好きの方も、その点を意識しながらアニメを視聴していくと、学びが多いでしょう。

何よりも驚きなのは、無料ソフト「Blender」で、これほどまでのセルルック3DCGを作り出せるという事実です。公式サイトによると『数分間のエールを』は、メインの3人のクリエイターによってほとんど映像が制作されたとのこと。Blenderを始めとする3DCGソフトの利点は、手描きアニメに比べて圧倒的に人手をカットできる点に尽きます。それはつまり、より安価に、より作家性を追求できるということです。

正直、素人の私目線では『数分間のエールを』と『THE FIRST SLAM DUNK』で、質感の品質においては大差ないように見えます。それほど3DCG制作の進化のスピードは、劇的に速いのです。

次回に続きます。


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