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『話の話』を記述する(その24~テーブルクロス)

 さて閑話が長くなった。もとの『全画面分析の記述』にもどろう。
 画面の続きを見ていこう。カットとしては「永遠」のシーンがミノタウロスのぎこちない縄跳びシーンで終わったところ、一瞬の暗闇が挿入された後である。

 シーンは変わり、夜闇に浮かぶ集合住宅を背にして、野外に横に長くテーブルクロスが敷かれ、風にあおられている。

クロスがあおられることで下に見えるテーブルは、間に合わせでくっつけたような・幾つもの机をつなげて出来ているのがわかる。クロスの上にはいくつものビンなのか水差しなのか、筒状で先端がすぼまった容器がいくつも乗っている。風にあおられたクロスはくねりながら上空を浮んでいく。容器たちは落下するものもあれば、落下することなくクロスに底がくっついたようにしてクロスと一緒にあおられて、そのまま姿を消してしまう。

 改めて見ることに注目すれば、机をつなげて出来たテーブルとその上に敷かれたテーブルクロスは、画面を横一線に横切っている。誰もいない。宴の後なのだろうか。
 そういう物語的解釈・余韻も大切だが、「見る」ことに徹したとき、画面に対し横一線に貫く造形は、さきほどまで見ていた「永遠」のシーンの、土堤の横一線の造形を引き継いでいることは注目すべき点だろう。
 そしてもうひとつ、テーブルクロスの前面には、無数に走るジグザグ線がフィルター状に透かすように映っていて、それが小刻みに・乱暴に動いている。
 恣意的な解釈を差し挟んでしまえば、波乱の印象がうかがえる。このジグザグ線の模様はあおられて宙に屈曲するクロスの動きや吹きつのる風(の音)とシンクロしているようにすら見える。つまりランダムな動きではないようなのだ。だとすれば驚くべき作画能力が発揮されているのではないだろうか。

 クロスは強くあおられて、テーブルの上から天へと、折れ曲がりながら空中に飛びすさろうとする。空中に浮かび屈曲するクロスにへばりついていた水瓶は落下したりして、消えていく。
 屈曲して宙に浮かぶクロスは背後の集合住宅を透かして動いている。曲りくねって宙を飛ぶクロスは画面の左側へ進み、カメラはクロスの移動に合わせてパン(左移動)をする。そのとき大気のマチエールを思わせる(ジグザグ模様とは別個の)模様が透かし見えている。
 さらに画面の左側に独立したジグザグ模様が風が吹きつのるように動いている。カメラは集合住宅の端を右にして、左には街灯一本が立つような構図になって移動を停止させ、クロスは住宅と街灯のちょうど真ん中を曲がりくねり・回転しながら奥の方へ進み、フェードアウトしていく。
 一本だけで立っている街灯は、照明がとどくあたりに虫たちが盛んに・ちろちろと点滅して飛んでいる。

 ここで撮影技法のことを言わねばならない。
 クロスの上を半透明な形でジグザグ模様が走っていた。この半透明にする効果のことを言っておこう。
 一般にこれは「二重露光」と言う。アニメでは今回のようにモノや背景の上に半透明に別のモノが映り込むときに使う技法だ。
 このカットの場合、背景とその上にクロスが動いているのを撮影する。そしてフィルムを元の箇所まで戻して、今度はクロスの上にジグザグ模様のセルを置いて撮影する。すると背景は1回目の0.5の濃度と2回目の0.5の濃度を足して2回分の撮影で1.0(通常分の濃さ)で撮影されるが、ジグザグ模様は0.5回分の濃さ、つまり半透明になって撮影されるのである。

 そしてこのカットがややこしいのは、クロスの上にジグザグ模様が半透明になって映っているだけでなく、画面の移動をして背景の奥へと向かうときに半透明になって消えていく。つまりクロスも二重露光の状態に入るのだ。
 ジグザグ模様がクロスの上で半透明になりながら、クロス自体も背景の上で半透明になっているのだ。この技法を詳細に説明する力が論者にはないので、正確な技法的内訳を言えない。
 これはまたの機会に撮影の専門家に話をうかがわないといけないだろう。論者の宿題にしたい。


(その25へ)


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