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魔女の宅急便@ほぼ全画面分析~その13

前回分(12)はこちら


【301】ここからは心理の綾がものをいう、ウルスラとのシーン。
正直凝った表現が多いわけはないので、『全画面分析』は難しい箇所。

ウルスラのちょっと野暮ったさのある凸凹したシルエットは『耳をすませば』に通じるものがあるように思うのです。


【302】ウルスラの家に行くことになったキキ。お留守番のジジが恋人のもとへ。ここ【屋根が中間】になって【手前・中間・奥】の3層構造になっていますね。ジジが奥にいて、恋人が手前側にいます。空間処理がいちいち巧みですね。



【303】バス乗り場に向かうふたり。
カット頭とカット尻をくらべてみると、実は『横イチ』(横一直線)な構図ではなくて、左へカメラがパンすると(つけパンと言います)、若干【奥方向へ】とふたりが向かっているのがわかりますね。カット頭では横の姿だったのに、カット尻では背中を見せてますものね。


【304】これ、バスが発着するということは、本筋にはあまり登場してこなかった『街の中心部』をふたりは歩いていることになりますね。
人物や車、バイクのセルの造形がみどころ。
特に右端の奥のテーブルにのった灰皿だけがセルになっていて、宮崎さんのこだわり【なにを背景にし、なにをセルにするか】が感じられます。



【305】ここは『つけパン』なので(ジブリのセオリーにしたがって)人物の動き(歩き)が「2コマ打ち」になっていて『リミテッドがやわらかく変化』していますね。
歩く軌道もゆるく楕円を描いている。ウルスラが大股で歩くのでキキが急ぐように歩幅を進める。
つけパンなので特殊な作画用紙も必要ですし、それ以外にもいろいろ力量を問われるカットのようにも思えます。



【306】バスが何台も停まっていて、ふたりが道を横切るきわから新たなバスが左手から画面に進入してくる。
画像をすみずみまで点検して欲しいのですが、モブ(群衆)の描き込みが半端じゃないです。
先行するカフェの客たちといい、そういう多彩な人物の描き込みが得手なアニメーターが担当していますね。



【307】で、新たなバスが左手から画面に進入した瞬間、
①手前~左手前から入って来たバス
②中間~道を横切るキキ
③奥~ウルスラと停まっているバス
と、【3層構造】が『いままでにない・新しい形で・出現する』様が提示されています。
つまり3層構造の新機軸。
新しいバリエーションだったので、ぼくも一瞬分析に困惑しました。



【308】バスの車内。ここもモブ(群衆)が丁寧に描き分けられていますね。
宮崎さんは絵コンテを描きながら『ここは誰々にやらせよう』とか考えていたのでしょうかね?
そして画面がほぼ『全セル』ですね。舗道と壁の煉瓦以外すべてセル。
女の子以外の人物すべて止め絵というのが大胆な省略画法。この作画上の見切りがすごいですね。



【309】ここもすごいカット。
バスが発進して、背景が動く。
動作主体(バス)の視点から視ているので、動作主体が動くと、動き出すのが周囲であるかのように見える錯覚。
ただこの観点は、実写でも言えること。
アニメ固有の魅力となるといったい何と言えばいいでしょうか?

ここは実は迷いどころ。
ちゃんと分析しているか、自信がありません。でもひとつ言えることは、普通のアニメの画面は、①背景=固定
②セル(人物)が固定された背景の前で動く
のが通例ですが、この画面ではそれが逆転している面白さがあります。
背景画がぐらっと揺れること自体が面白いのだと思います。



【311】バスは橋を渡ります。ひろく河が広がり、背後の島状の土地が展開します。
手前に橋の縁が『背景動画』(背景を動画・セル画として処理する)ですね。繰り返し表現です。
橋が動画としてレイアウトされているだけでセルアニメとして安心感がありますね。



【312】この画面の見どころも3層構造。
①まずキキの、少し憂いを帯びた表情の造形。
②それから背後を動いては去っていく『街灯』が『背景動画』として処理。黒のトレース線が目立たないよう処理されているので、背景にうまく溶け込んでいます。
③そして背景画がバスの侵攻に合わせ奥まっていきます。



【313】憂いを帯びて放心してしまうキキに対して、ポジティブな面へ・現実へと引き込んでくれるウルスラ。
キキの表情の変化がいいですね。
こういう『現実救済』がドラマとしては安易なのですが、虚構と割り切って接するべきでしょうね。
この安易さを現実に求めると『ジブリをこじらせ病』はつらくなる。



【314】ウルスラが差し出す球形のガムがつかみ切れず、手からこぼれそうになるキキ。
球形な造形って、アニメとして、なぜ心ひかれるものがあるのでしょう?



【315】橋を渡る、バスやトラックたち。
橋げたにかかって隠れてるバスやトラックのパーツはブックで処理されていて、完全な形では描かれていません。

ついでですから、「ブック」と「組み線」の基礎的おさらい。

ブックで処理した場合
組み線で処理した場合
画面の見え方、変わりましたか?



【316】バスの線路である幹線道路を下りて、丘をあがっていくキキとウルスラ。
ここは『運動の複数性』ですね。
①『斜め奥』方向へと・立体的に遠ざかっていくバスの背
②『直角方向』へと斜面をのぼっていくふたり。
運動のレイアウトが、いちいち素晴らしいですよね。


あ、すごいこと気づいた。
①3層構造と②複数の運動性は、ある類似性にもとづく差異だったんだ。

①3層構造とは、運動同士が『層上で並行関係』に関係にある。
②運動の複数性は、『運動同士が・並行関係にない』。

そっかそっか。



【317】斜面をのぼるふたり。
リュックを背負うウルスラを背後から押してやるキキ。
運動の重みを感じさせる『作用と反作用の視せ方』ですね。
押すキキの力感だけでなく、押されて背を反らすウルスラの造形も細かい。



【318】斜面をのぼって台地へ出たふたり。解放感のあるショット。
ここも3層構造。
①奥~背景
②中間~見えないのぼり坂から現れるふたり
③手前~台地
『魔女』はこういう『坂を利用した・3層構造』が後半に多く登場しますね。



【319】丘の台地に出て、吹き抜ける風を感じるキキ。
髪やリボン、ワンピースがひるがえります。
当たり前のことですが、アニメって『徹底的に人工的な表現』なんですよね。
そのアニメが『なぜか誰もが・自然を志向する』って、意外と不思議な・倒錯的な現象ですよね。フレデリック・バックとか。



【320】ウルスラのヒッチハイクと同じ動作を表現するキキ。
ここは『違う存在が/同じ動作をする』=『同じもの/違うもの』表現のバリエーション。
ふたつの画像の間には別カットが挟まって、いわゆる『同ポジ』(同じ背景を使う)なんですね(続)

同ポジって、『同じ背景を使うから・省力表現である』と言われることが多いのですが、そうでしょうか?
この場合、同ポジを使うことで、キキのヒッチハイク動作をする・しないの『違い=コントラスト』の演出が効いているのです。


今日はこのへんにします。
「その14」をまたどうぞ。


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