正しい画を求めて6⃣ いちばん大事なのは基礎。

それでは実際のHDRモニタの校正を取るフローを見てみよう。

まずLUTをどのように適用するかだが、ハードウェアキャリブレーション対応機や外部LUTがある場合は、作成したLUTをそちらにインストールすることになる。
外部LUTを使用する場合は信号レベルを考慮したLUTでなければならないので注意して欲しい。データ用のLUTをリーガル信号に当てても合わないし逆も然りだ。
ハードウェアキャリブレーションモデルはモニタメーカーが出す専用の校正ソフトや、Colourspaceなどの業務用ソフトでなければLUTのインストールが出来ないので必要に応じて購入する必要がある。
非ハードウェアキャリブレーションモデルや外部LUTがない場合は、WindowsであればDWM LUT GUIがあればLUTの導入が容易だ。

今回はハードウェアキャリブレーションや外部LUTではなくDWM LUTを前提として話を進める。
DWM LUTでは任意の3D LUTをWindowsのDWMに当てることができる。

WindowsのHDRモードは、ICCなどを適用していなければ相手のモニタがST2084/rec.2020を正しく出力可能なリファレンスとして見えている。
実際にはモニタ側でマッピングがかかりモニタなりの表示となっているが、これを3D LUTを使って性能の範囲内で適切に表現環境を作ってみよう。

余談だがHDRのメタデータをEDIDから取得したりDolby Visionに対応することで今後校正が困難になりうる可能性がある。
例えばマッピングをEDIDの輝度情報から設定したとしても、そのマッピングがどの程度適切なのかは極めて怪しいからである。
PQ規格にきっちり沿ってることを前提にしたシステムになるであろうが、実際のモニタはそうなってることはほぼない。
モニタ側で適宜マッピングがかかっているので補正が二重にかかりおかしなことになるのが容易に想像できる。
Dolby Visionに関してはまともなマッピングになっていることはほぼ望めない。かつ彩度マップは行われないこともあり、より悪くなる事が多いという認識だ。
特にマッピングが関わってくるHDRにおいて、校正としてやるべきことはモニタの逆マッピングによる正規化と最適なマッピングの付与だけであり、それが今回紹介するワークフローである。

使用するのはDisplayCalとArgyll CMS、madTPG。
比色計はi1D3(現モデルはCOLORCHECKER DISPLAY)で十分だ。1000cd/m2を大幅に超える機材を使用しているならPro plusモデル(2000cd/m2までカバー)が必要だ。
なおOEM版でも構わない。こちらはX-riteの校正ソフト用のライセンスがついていないだけでスペックはPro plus同等となる。

分光測色計も併用することが望ましい。こちらは以前の記事でラボグレードのものをいくつか紹介したが、DisplayCal(Argyll CMS)に対応するものはJetiの1211や1511が最上位となる。KleinのK10-Aと併用すればより高精度な測定ができるだろうと思うが、ここまで用意するならColourspaceの導入も推奨したい。
JETIも良いがColourspaceならばColorimetry Researchも候補に入ってくるだろう。
とはいえ通常はi1Pro2/3で十分だ。初代モデルは推奨しない。状態のいいものが今更入手できるかということもあるが、輝度上限が300cd/m2に制限されるためだ。

機材とソフトが用意できれば、まず比色計の補正を行う。
今回はi1Pro2とi1D3(rev.B)を使用する。
DisplayCalを立ち上げ、Tool→Correction→Create Colorimeter Correctionで比色計補正ファイルの作成を立ち上げる。

Typeは高精度に行う場合はMatrixが良い。今回はMatrixを前提とする。
Minimize xy chromaticity difference有効を推奨する。
CCMXを作成するにはまずi1Pro2でRGBW四色を計測する。
hi-resモードの使用をするか選択出来るので、ここでは高分解能モードを使用する。
計測modeにはLCDを選択しておく。
この際注意したいのがObserverの選択だ。CIE2012-2を使用することでメタメリック障害を回避することが出来る。
勿論今後更に優れた等色モデルが登場すれば、Argyll CMSのサポート次第そちらを採用することを推奨する。
i1Pro2のセルフキャリブレーションを行った後、モニタを計測したならば、これがリファレンスとなる。次は比色計で同じモニタを測定する。
測定が終わればCreate Colorimeter Correctionのボックスをクリックし、比色計補正ファイルを保存する。
アップロードするかのダイアログが出るが、CCSSはともかくCCMXは補正を設計するのに使用した比色計専用になるためアップロードしても使い道がない。

比色計の補正が完了すれば一旦DispCalを終了する。
計測パッチやLUTの設計の前にホワイトと輝度マップを補正するからだ。
この補正はDispCalで行うよりもHCFRを用いたほうが良い。
File→Newで新規作成をし、測定機器にi1D3を選択する。

次にMeasure→Sensor→Configureで比色計の設定を行う。
DisplayTypeから先程作成したCCMXを選択する。
ObserverにはCIE1931-2を使用する。作成したCCMXはCIE2012-2で計測されたモデルだが、使用する際のObserverはCIE1931-2となるので注意が必要だ。
測定時間は0.5秒以上が良いだろう。
さらにMeasure→ParametersでNumber of grayscale levelsを40以上にする。
十分な精度をもとめるなら100にするのが良い。

次はGeneratorだ。
DispCalもHCFRも標準のTPGはHDRに対応していない。
madTPGであれば対応しているのでGeneratorの設定でmadTPGを選択し、かつOSD、HDRを有効にする。
disable video LUTは必要に応じてオンオフを切り替える必要がある。

ここまで行えばあとは計測するだけだ。
なおHCFRであれば白色点の変更も可能だ。D65が標準だが、必要に応じて買えても良い。例えば写真の現像をするならばD50にするのもよいだろう。
なお、メタメリック障害の克服にCIE2012-2を使用しているが、実のところこれだけでは不十分となる場合がある。
これについてはいずれ解説するとしよう。

白色点が決まればMeasure→Gray Scaleか、F2を押して計測を始める。
確認のダイアログを押せばパッチが順次表示され、計測結果が得られる。
測定が終わればAdvanced→Export→Measure to XLS formatで計測値を出力する。

出力した計測値からRGB補正と輝度マップの補正を行う。
4K HDR anime channelで以前紹介した補正用のエクセルファイルがあるのでそれを用いると処理が早いだろう。

このファイルではマッピングの設計を行う事ができる。今回はDispCal測定前の輝度マップの正規化を目的としているので、st2084規格に合わせるようマッピングを行わない設計にする。
低輝度域、高輝度域の補正を行うかどうかは状況次第ではあるが、近年の高性能モデルであれば補正を入れたほうが良い結果になることが多い。

ファイルではDaVinciのcube形式の1D LUT、LightillusionのVCGT形式、VideoEqualizerなどで使用するVCGTいずれも変換出来るので、必要な形式で出力、LUTを適用し、再度グレースケールを計測する。
推奨はDaVinciの1D LUTとして出力し、DaVinciで3D LUTに変換してDWM LUTで適用する形だ。

3D LUTでホワイト補正を取った状態で再度計測しよう。この際DispCalでCCMXを新たに作り直すことを推奨する。CCMX作成時から白がズレているからだ。
CCMXを作成し直して計測すると、わずかだがまだ誤差があることがわかるだろう。
膨大な計算から算出される補正でもわずかな誤差が残るが、誤差の補正を繰り返せばある程度容認できるまで追い込みが可能だ。
具体的には再度DaVinci用の1D cubeを作成し、作成した1D cube→先程適用した3D LUTの順にLUTを重ね、3D LUTとして出力する。
これで最初に作成した校正LUTに、更に誤差を補正する処理をかけることが出来る。
この際重要になるのはLUTの順番で、必ず作成した1Dが先になる。

経験上このフローを2~3回繰り返せば十分な補正が出来るが、更に精度を高めたい場合、例えばDaVinciで1Dを当てる際に、キーを設定し0.5~0.6程度にしてやることで、補正の処理を弱めることが出来る。
この方法だと繰り返す回数は増えるが、補正を弱めることでより細やかに処理を進められるので必要に応じて試してみると良いだろう。
十分なグレースケールの精度と輝度マップの正規化が出来ればこの工程は完了だ。ここからDispCalの3D LUT用の計測を行い、出力したLUTに対して今回のフローでグレースケールバランスの精度を高めてやることで、最良の結果が得られる。

逆を言えばたかが一度測った程度で作られるICCのシステムでは、到底正しい白など望めないこともわかる。
ICCで校正した(はずなのに)モニタの色が合わない、という声を聞くことが多いが、ICCは彩度を調整出来ないし、そもそも求めるものに対し十分な1D補正ができていないだけだ。そんなものは到底校正と呼ぶべきではないだろう。

次回はDispCalを用いた3D LUT用の測定とLUT設計を見てみよう。

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