二次創作『こんのゆめ』

昨晩、不朽の名作『こんとあき』の「こん」が夢に出て来ました。こんな話でした★

二次創作『こんのゆめ』

あれから20年。
あきちゃんは、都会で一人暮らしをしている。
ぼくは、実家のあきちゃんの部屋で暮らしている。
置いて行かれたのかって?ちがうよ。留守番という重大な任務を全うとしているんだ。さびしくないよ?だいじょうぶ、だいじょうぶ。

いまぼくは、一人でさきゅうまちに向かっている。そういえばこの電車のドアにしっぽを挟まれたっけ。あのときもぼくは、子どもっぽく騒いだりなんかしなかった。だいじょうぶ、だいじょうぶ。

さて、今回はおばあちゃんの家に直行だ。よくわかんない犬にエンカウントする砂丘に寄ったりはしない。
「おばあちゃん、ただいま」
「おかえり。久しぶりね。尻尾が痛むって聞いたけど」
「うん」
「どうしたの?」
「わからない。ちょっと糸がほつれてるから、このせいかも」

ぼくがそう言うと、おばあちゃんはしばらく黙っていた。

「どうして黙っているの?」
そう聞くと、おばあちゃんは唐突に言った。
「私の腰、曲がっていて痛そうでしょう?」
「えっ。うん。あれから20年も経ったし」
「だけどね」
「うん?」
「全然痛くない」
「えっ、そんなに曲がっていても?」
「こんなに体の形が変わっちゃっても、全然痛くなんかないことがあるのよ。」
「あ」
そういえば昔、ぼくの腕がほころびてきちゃったときも、痛くなかったんだよなあ。ぼくがそのことを思い出したのを察したおばあちゃんが、別の話題を切り出した。
「あなた」
「うん」
「ぬいぐるみの自分が何故しゃべれるのか、考えたことある?」
あきちゃんやおばあちゃんだけじゃなく、電車の車掌さんもお弁当屋さん、他の乗客、みんな、きつねのぬいぐるみであるぼくが立って動いてしゃべっていることに、何の疑問も感じていなかった。それがなぜなのかぼくにはわからないかったし、知ろうとすると急におそろしい不安がこみあげてきた。

「あなたが、絵本の中、想像の世界を生きるぬいぐるみだからよ」
おばあちゃんがそう言うと、ぼくはつとめて冷静を保って聞いた。
「本当の世界を生きる存在じゃないっていうこと?」
「そうね」
ぼくは声を詰まらせた。簡単には受け入れられない、厳しい事実だった。

「お風呂入る?」
おばあちゃんはぼくにそう言った。
「うん」
その方が、何が何だかわからない気分が、少し落ち着く気がした。

お風呂に入りながら、昔のことを思い出した。お風呂は嫌だった。あのときは「いやだ、いやだ」って言えたけど、20年経って大人になって、嫌なことも「嫌だ」と言えなくなった。あきちゃんが家を出て行くときだって「本当に大丈夫?」と言うあきちゃんに、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言ってぼくは強がった。

いまぼくは、想像の世界を生きる存在であることを知った。つらくて、ぼくはお風呂で泣いた。初めてお風呂に入ったときのように、「いやだ、いやだ」と言って。

お風呂から上がると、おばあちゃんはタオルとドライヤーを持って待っていた。
「想像の世界はね」
「さっきの続き?」
「本当の世界では敵同士のはずの動物が協力しておおきなかぶを抜いたり、カタツムリが4日間かけてカエルに手紙を届けたり、何でもありの世界よ」
「ふーん、そうなんだ」
おばあちゃんは続けた。
「あなた、いくつになった?」
「うーん、にじゅう、何歳だろ。伊達にあきちゃんの誕生に立ち会ってないからさ」
ぼくは得意げに言った。
「えっと、ちがうの。現実の世界の話」
「え?」
「絵本が出版されたのが1989年。33年経つわ。あなたもおばあちゃんもあきちゃんも、今年で33歳よ。」
「現実の世界では、そんなに経つの?」
「そう。現実の世界に生きていれば、おばあちゃんはもう死んじゃってるわ。想像の世界だからこそ歳を取らずに、あなたもわたしも現実の世界に笑顔を与え続けてきたのよ。」
そう聞くと、少し誇らしい感じがした。
「なんだか想像の世界の存在も、それはそれで悪くない気がしてきた」

「想像の世界の大先輩。そうね。外国の人が描いたワンちゃんはこう言うわ。『心の問題から目をそらすのは簡単さ。身体が少し痛めばいいんだから』」
「それって」
「怒り、不安、恥。人は、負の感情が自分の中にあることを拒む存在なの。身体の痛みに意識が向いている間は、そういう感情を意識せずに済む。つまりね」
「ぼくの身体の痛みは、心が原因?」
「かもしれないわね」

ぼくは、想像の世界の存在だ。何となく気づいていたんだ。でも、現実の存在じゃないことを認めるのが不安で、目を背けてきた。もう、大丈夫。受け入れることができる。さあ一歩を踏み出そう。

待てよ?さっきおばあちゃんは「想像の世界の存在は歳を取ったりしない」って言ってたけど、だって実際にぼくもおばあちゃんもこうして20年の歳月を経たから尻尾が痛んだり腰が曲がったり・・・そう思ったら急にぼんやりとしてきて・・・目が覚めた。あぁぜんぶ夢か。そっか、ぼくは病院にいいて、おばあちゃんの家に帰りたいなぁって思ってたら寝ちゃったんだな。ああ、あかちゃんだ!赤ちゃんってこんなにちっちゃくて こんなにかわいいなんて知らなかったな。


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