マガジンのカバー画像

松野正史短編集

10
松野正史が執筆した公演になっていない短編戯曲集です。
運営しているクリエイター

記事一覧

短編vol.9「愚者の都々逸」

【登場人物】 隠居 八五郎 ご隠居が縁側で煙管をふかしていると、 左官屋の八五郎が血相変えて走ってくる。 八五郎 ご隠居!     こんち! 隠居  ああ……八っつぁんか。     久しぶりじゃないか。     今日はどうしたんだい?     酒かい?     囲碁かい?     金の普請かい? 八五郎 いやだなぁ……ご隠居。     それじゃあまるで、     あっしがそれしか知らねぇみてぇじゃねぇですかい。 隠居  違うのかい?     じゃあ何しに来たんだい? 八五

短編vol.8「スマホと手帳」

【登場人物】 芹沢百合花 アイエムオー商事 マーケティング部 28歳  田島雄介 アイエムオー商事 営業部 37歳  アイエムオー商事では社内ベンチャーコンペを公募している。 マーケティング部所属入社5年目の芹沢百合花は高齢者向けの移動販売事業を提案する。 百合花が提出した新事業プランは見事に一次選考を通過して、残るは取締役へのプレゼンを待つのみ。 百合花の上司光浦本部長は取締役へのプレゼン発表を2週間後に控え、 新事業プランについて営業部の意見を取込むようにと指摘する。

短編vol.7「うどんの喉越しをとやかく言う前に餅を焼け」

東雲光子(しののめ みつこ)32歳 東雲家の次女・独身・家事手伝い。  東雲喜美子(しののめ きみこ)39歳 東雲家の長女・光子の姉・外資系建設会社の管理職。  東雲孝雄(しののめ たかお)46歳 東雲家の入婿・貴美子の夫・図書館員。 東雲安二郎(しののめ やすじろう)62歳 東雲家の父親・工務店を経営。 ●東雲家 舞台中央には居間、炬燵が配置。 下手側は玄関に続く襖。上手側は工務店の作業場に続く襖。 居間の奥には台所が見える。 玄関も工務店の作業場も客席からは少し見える。

短編vol.6「麻里とマリリン」

【登場人物】 門田麻里 東都銀行 経営企画室主任 マリリン スナックマリリンのママ 健太郎  酒屋三河屋 鮫島喜一 東都銀行 経営企画室 室長 東都銀行本店の会議室で鮫島と麻里が話している。 鮫島    門田君? ……門田くん。 呆けている麻里。 鮫島が麻里の肩を叩く。 麻里    失礼しました。  鮫島    出向は長くても3年……その間に必ず君を本店に呼び戻し       ますよ。 麻里    ……。       鮫島    約束しますよ。 麻里    鮫島室長…

短編vol.5「南那と僕の13回目の喧嘩」

【登場人物】 前原亮一    高島教授の研究室の研究員 熊井南那    前原亮一の彼女、弁護士の卵 笠井麻衣子   熊井南那の同級生 高島教授    前原が通っていた大学の教授 蟹江准教授   前原と同じ研究室の研究員 女子高生 駅員 1996年・春 駅のホーム。 両手に大きなバックを持った前原亮一が女子高生から文句を言われている。 そこに駅員が現れる。 女子高生 ちょっとアンタ!      何とか言ったらどうなの? 亮一   え。 女子高生 私のお尻……スカートの上

短編vol.4「グッモーニンMr.Tomorrow」

【登場人物】 鹿島ひかり  女性:25歳   フリーター 木下有里   女性:21歳   大学生 カルマ    男性:年齢不詳 ネットの住人 【プロローグ】 光り輝く世界で有里とひかりは見つめ合う。 有里   ねぇジョバンニ。      そんな所で何をしているんだい? ひかり  何って?       君はカンパネルラかい? 有里   (笑う)      そうだよ。      ジョバンニ。      僕の顔を忘れたのかい? ひかり  忘れるはずないだろう。 有里   

note書き下ろし短編vol.1「今日はこんなに元気です。ー返信ー」

山村麻尋  女・年齢30歳 大手商社に勤めるキャリアウーマン               高校卒業後に東京へ上京。               バイトをしながら大学へ通い卒業。 原好恵   女・年齢30歳 山村の大学の同級生              人材紹介会社のヘッドハンター 小林東二  男・年齢18歳 高校時代の山村麻尋の友人。 寺岡陽平  男・年齢23歳  山村の部下 海藤優子  女・年齢25歳  山村の部下 花村栄治  男・年齢28歳  山村の部下 鉄堂宗

短編vol.3「二枚メ侍」

西條院津彦丸    侍 みすず       旅籠の娘 お勢        飲み屋の女将 上岡幽園      北町奉行所 同心 佐平        岡っ引き 【江戸 日本橋の噂話】 「聞いた? 」 「聞いた聞いた。麹町でまた見つかったんだって? 」 「ええ! 今月でもう4人」 「若い女性ばかりが4人」 「で……身体の一部……何かにかじられた跡があるんだってさ」 「何それ! じゃあ……妖怪とかそっちなのかい? 」 「バケモノとか? 」 「河童とか? 」 「鬼とか? 」

短編vol.2「雨若宮菊理さん家のお役目」

【登場人物】 雨若宮 菊理(あめわかみや きくり) 矢代 春太 手島  大家さん 土地神・涼花(すずのはな) ―*― 【プロローグ】 春太が男2人に殴られている。 春太は男から逃げようとするが、捕まりまた殴られる。 男は刀を抜いて春太めがけて振り下ろす。 春太  人は死ぬ時。走馬燈のように今までの人生が駆け巡ると言う。     今がまさにその時だ。     俺は死ぬ。     あと一撃で……死ぬ……確実に死ぬ!     ほらやっぱりそうだ。     さっきよりも全てが

短編vol.1「カラフル」

【登場人物】 春川香織   高校1年生~22歳 小説家志望 ヴィラ館川の管理人 錦織海斗   高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人  輝澤岬    高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人 天知幹康   高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人 龍山寺大地  高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人 館川ゆかり  52歳  春川香織の叔母 ヴィラ館川のオーナー 3月も終わりの昼下がり 洋館のような外観の下宿 ヴィラ館川の前に立っている春川香織。 ゆかり  香織ちゃ