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クイズ文化の外側からイノベーションは起こる(アニマルSDGsとはなにか⑤)

2024年5月15日より全国で発売中の書籍『アニマルSDGs どうぶつに聞いてみた』(ヌールエ/太郎次郎社エディタス)について、著者のイアン筒井が解説するこのnote。前回は「クルマ」から見えてくる「大人」たちの問題を扱いましたが、今回は今の人間(おとな)だけにまかせても状況を好転できないのなら、どうすればいいかを考えます。

日本の環境問題としての「クイズ文化」

 前回はクルマの問題を起点に、「大人の視点」が持つ問題、そして日本の大人たちがクリティカル・シンキング(※1)を苦手とする大きな理由として「クイズ文化」の問題を挙げてみました。

※1クリティカル・シンキング:批判的思考のこと。ある問題に対して、ただ単にロジカルシンキング(論理的思考)を高い精度で行うのではなく、「そもそもこれは問題と言えるのか?」という前提から疑い、本質的な課題をえぐり出す思考のこと。

 クイズ文化とは、要するにテレビのクイズ番組でクイズに答えられる人を「すごい」と褒め称える文化のことです。クイズにはすべて正しい答え=正解があり、その正解を答えられない人は不正解とされてしまいます。

 たとえばこんな具合です。

司会者「ここでクイズです。気候変動に対処するにはどんなクルマを使えばいいでしょうか?」

回答者A「はい! ハイブリッドカー!」

司会者「ブブー。不正解です。ハイブリッドカーはクルマからCO2を排出してしまいます」

回答者B「はい! 電気自動車!」

司会者「正解!」

SimonによるPixabayからの画像

 日本では、クイズに答えられる人がヒーローです。今も、夕方のテレビでは『東大王』などと銘打ったクイズ番組が放映され、正解者たちが持て囃されています。

 しかし第4回で述べたとおり、世の中には「正解」「不正解」と割り切れない、簡単には答えを出せない問題のほうが圧倒的に多いのです。

 NHKなどが環境問題を取り上げた番組を放映すると、必ずと言っていいほどエンディングで「今、気候変動は地球沸騰化へと大変なことになってます。これからは一人ひとりが考えて行動しなくてはいけません」と決まり文句で締めます。

 しかし、この「考えて」とは何でしょうか? 考えて「正解を出すこと」だという定義であれば、正解がわからない問いを出されては困ります。だからクイズ文化では、大人たちは「正解らしい」模範回答を用意しています。

 ここで大人たちは、「環境問題で、あなたたちができることは何ですか?」というクイズを出しています。すると子どもたちは、「ポイ捨てしません」や「エコバッグを持ちます」「木を植えます」など、大人たちが期待する「正解」らしきことを口にしはじめます。

 ところが、アニマルSDGsの視点(動物の視点)を借りるとこうなります。

「わたしたち動物は食べものを食べて、ポイ捨てしているよ。でも環境問題にはならない。本当にポイ捨てっていけないことなの?」

「木が育つには数十年もかかってしまうけど、その間にわたしたち動物(人間含む)は絶滅してしまうかも。呑気すぎる考えなんじゃないの?」

 こういうふうに、「ポイ捨てしません」という発言は、対話の起点にしかすぎないのです。

 もちろんエコバッグを持つことやポイ捨てをしないことも(それなりに)大切です。ですがそれ以前の問題として、自分で問題解決できていない大人が、子どもに上から目線で安易な回答に誘導しては「考えさせた」と満足している、この構造が30年以上にわたって続いていることが問題なのです。

SDGsウォッシュが生み出される構造

 たとえば、みんなで海岸に行くとプラスチックのゴミがたくさん落ちています。そこで大人たちは「海岸清掃、みんなでやろうね」と言います。とてもいいことですよね。

山口県の沖合に浮かぶ、日本の渚100選にも選ばれた青海島の海岸。たくさんのプラスチックご みが打ち上げられている。近づいてみると、ナイロン製の漁師網、発泡スチロールの浮き、ドラム 缶、ペットボトル、プラスチックゴミの残骸が打ち上げられている

 しかし、アニマルSDGsの視点を借りるとこうなります。

「人間(おとな)はどうしてこんなものをたくさん作ってしまうんだろう?」

「それがゴミとなって川や海まで汚して、仲間たちを苦しめているのに、なんとかできないのはなぜ?」

「ペットボトル飲料や液体洗剤など、30年前はほとんどなかったって物知りのカメから聞いた。それでも人間たちは困ってはいなかったようだね」 

 いつまでも問題を解決しようとない人間(おとな)たちにいらだち、動物たちに共感した子どもたちは、「なんで僕たちがゴミを拾わないといけないんですか? これを作った人間(おとな)に拾ってもらえばいいんじゃないですか?」などと言い始めるかもしれません。

きれいな渚、海岸のゴミ、クロッチとともに(2022年に筆者撮影)

 もし海岸に落ちている漁師網やプラスチックゴミを作った大人を呼んできて、子どもたちが「僕たちが作ったわけじゃないから、おじさんたちが拾ってください」と言ったら、果たして大人たちはきちんと答えられるでしょうか。しどろもどろな受け答えしかできないのではないでしょうか。

 そういう子どもたちが増えてくると、今の大人たちは困ってしまいます。だからこそ、先ほどのようなクイズでお茶を濁し続けるしかありません。つまり、わたしたち大人は誰しも「SDGsウォッシュ(※2)」の枠にはまってしまっているのです。

※2 SDGsウォッシュ:SDGsに貢献していると表明しているものの、実際にはSDGsの達成に貢献していない状態のこと。 世界におけるSDGsウォッシュに関する規制強化は急速に進んでおり、各国政府による罰則などが発生する事例が増えてきている。

「クイズ文化の外側にいる人たち」が社会を変える

 日本では長らく、正解・不正解のあるクイズを一生懸命勉強した人たちが、いい大学を出ていい企業に入り、その人たちがエリート(指導的な役割を受け持つ層)となって社会の仕組みを作ってきました。そして人々は、「エリートが社会がよりよく変える」ということを期待してきました。

 しかし、今のエリートたちは結局はクイズ文化の勝者でしかありません。答えのない問題の解決策を見出す訓練はそもそもしていないのです。そして彼ら彼女らはクイズ文化から利益を得ているので、状況分析や調査研究などはしても、現状を変える行動をする可能性はきわめて低いと言わざるをえません(もちろん、例外的な人はいます)。

 このようにクイズ文化の勝者たちが社会を主導してきた結果、後の世代に膨大な環境的負債が残され、放置されてしまっています。クイズ文化の勝者たちは、「答えのない問題」と向き合うことが苦手で嫌いです。失敗すること への怖れから、なるべく関わりたくない、という態度を取り続けるのです。

 今のエリートが生き残るための、自分中心主義からの目先の課題解決型の発想では、状況は悪くなっていくだけ。そういう人たちを相手に「何とかしろ!」と責めたり、重箱をつついて論破してみせたり、状況を悪くした犯人探しなどをしても、この国の状況は良くなるとは思えません。

 では、どうすればいいのか? それはシンプルです。

 今のエリートを「批判」したり「論破」することに情熱を使うのではなく、あなた自身が「いい案」に気づき、「答えのない問題」と向き合うことが好きになるように変身し、そして、ゲームチェンジをすればいいのです。

 「いい案」が出る体質になるにはテクニックがあり、トレーニングが必要です。手始めに、いままでの逆=つまり「クイズ文化」の外側からアプローチをして、硬くなった「クイズ文化脳」をほぐすことからはじめます。

・人間会議(日常)
  ←→ 動物会議(非日常)
・クイズ文化(知識、知っているか知らないか つまり1か0) 
  ←→ クイズ文化の外側(思考、対話、閃き つまり無限大 ♾️)
・枠にはまる(部分しか見ず、自分中心に考える) 
  ←→ 今の枠の外側(全体像を俯瞰し、多角的に考える) 
・人間中心での発想(持続”不”可能、これまでのシナリオの延長戦) 
  ←→ 動物視点での発想(持続可能、生態系とつながるシナリオで文明を発明する)

 視点や立場を行ったり来たりして、脳や五感を刺激しながら考えつづけること。わたしたちはこのような行為を“ポジションチェンジ”と呼んでいます。


新潟大学の若者、社会人とのワークショップの風景。マインドマップ思考も取り入れて、動物視点からの未来デザインにチャレンジ。プロジェクトパートナーの博進堂によるスタイルブックとして活動記念編集本に。

 わたしは大学の学生たちとも「アニマルSDGs」メソッドを使った演習、ワークショップをしているのですが、あるとき参加していた女子学生が、こんなことを言いました。

「なんでわたしたちって、自分の意見を持てないんでしょう?」

 わたしは彼女に「自分の意見を持ちたいの?」と聞きました。すると、すぐに「はい、持ちたいんです!」という返事が返ってきました。さらに彼女はこんなことも言いました。

「わたしたちの大学は、日本で平均的な偏差値の大学です。もしわたしたちが変わったら、日本は変わりますよね」

 わたしは彼女のような、クイズ文化にはまっていない柔軟性のある心にこそ、伸びしろを感じます。

 ここで、あえてクイズを出してみたいと思います。現在、学校になじめず、不登校になっている小中学生は何人いると思いますか?

 答えは、約30万人です。不登校が「問題」とされ始めた20年前と比べても倍以上、直近の数年では急激な伸び幅を示しています。(参考:小中29万人、不登校児童生徒数が過去最多に 文科省調べ | ニュース 2023年 10月 | 先端教育オンライン

 さらに、統計上の不登校の定義には当てはまらないが不登校傾向にある子は、その3倍以上いると推計されています。(参考:学校になじめない推計33万人の「隠れ不登校」中学生| 日本財団ジャーナル

 エリートたち(大人たち)は、ただ「クイズがうまくできない」というだけで、社会的な疎外感を与えたり、自信をなくしてしまうようなレッテルを貼ってしまいます。

 ところが見方を変えれば、「クイズ文化の勝者」になることに興味がない次世代が増えているともいえます。今の学校教育や社会の仕組みに対して「おかしいな」と感じ、大学受験のようなクイズ文化に真面目に取り組む気が起きない子ども・若者たちは多くいます。

 彼ら彼女らは、これまでの大人たち、エリートたちが作った社会の仕組みに、居心地の悪さや、未来に対する不安を直感的に感じているのかもしれません。彼ら彼女らは、健全な批判精神を持っているとも言えるはずです。

タイ、モンゴル、日本の子どもたちによる地球会議。亜細亜大学の若者たちが現地語同士での対話をAI自動通訳ツールを用いてサポート。

 今の社会でポジションが取れている人は、いくら環境問題が喫緊の課題だと言われようとも、自分のポジションを維持するためにのらりくらりと受け流し続けます。構造的に、そういう人たちに何かを変える動機は生まれないのです。

 言い換えれば、クイズ文化の外側にいる人たちにこそ、次の「エリート(本来、社会から期待されているリーダー/アントレプレナーの役割を演じられる人)」がいると考えられます。素朴に社会に対して疑問を持ち、切実な課題感を感じ取れる感性を持っている、そういった人材を大人たちが掘り起こし、磨き上げることが、少子高齢化、先行き不透明、AIの時代に潜在的に求められているのです。

わたしたちは、後ろ向きに進化している !?

 第1回で、動物かんきょう会議は1997年、地球温暖化防止京都会議COP3をきっかけに始まり、27年以上にわたって続いていると書きました。このプロジェクトが継続し、探求を続けることができたのは、京都に本社をもつ環境分析機器のグローバルメーカー、堀場製作所がオフィシャルパートナーとして支援し続けてくれたからです。

 堀場製作所は「おもしろおかしく」というベンチャースピリットのあるユニークな企業で、当時、広報室長の河内英司氏は「人類は後ろ向きに進化している」という持論をよく話していました。

 人類は前向きに進化したのではなく、後ろ向き? いったいどういうことなのでしょう? 

 2015年に発行した「動物かんきょう会議 アクティビティガイドブック」に掲載された河内氏の序文には、こうあります。

わたしたちは、動物であり人間である。

ダーウィンの進化論を待つまでもなく、ほとんどの人々は人類が最高に進化した動物であると思っています。確かに知能や技術力など、他の動物では遠く及ばない優れた能力を長い年月の間に進歩させてきました。

しかし一方で、体育館いっぱいに納められたスーパーコンピュータで行う天気予報よりも、その昔農家のおじさんが「明日の夕方から雨が降る」と話していた時の方が正確だったような気がします。また、現在では食品のラベルに記載された「賞味期限」を必要以上に気にする傾向がありますが、ほんの少し前まではそんな親切な表示はなく、私たちは食品の臭いや味覚に頼って生活していました。母親は、赤ん坊の様子を見ただけで体温を測るまでもなく具合が悪いかどうか判断できました。

夏は暑いからと言ってエアコンのお世話になり、冬は寒いからとダウンを着込むなんて人類以外の動物は行いません。それ以上に日常のコミュニケーションは言葉や文字に頼ることなく、私たちには計り知れない特殊な能力を駆使して生きながらえてきました。

2004年に大きな災害をもたらしたスマトラ沖大地震では、津波が到達する前に、象が津波から発生する低周波を感知し、多くの人々に知らせ命を救ったのはよく知られた話です。わが家の猫は新潟中越地震がおこる40分前に異常行動をして知らせてくれました。地震の直前に起こる岩盤の破壊から生じる電磁波を感知したのでしょう。また最近話題になっているガン探知犬や麻薬探知犬は人間の100万倍から1億倍の嗅覚によるものです。猛禽類などは遥かに高い上空から獲物を見つける驚異的な視力を持っています。じつは人類でも視力が8.0と言う信じられない能力を持つ種族がアフリカに存在しています。そして、おそらく3人に1人は経験されたことがあると思われる超常現象。誰かに久しぶりに電話しようと思って受話器に手をかけたとたん、その相手から電話がある現象。これはテレパシーなのか何なのか分かりませんが、人類にもまだまだ特殊な能力の片鱗があるのです。人類も他の動物と同じように数百万年前までは、研ぎ澄まされた五感とそれ以外の特殊な力によって自然と向き合い、自然を破壊することなく共存してきました。

しかし、人類が他の動物と異なる道を歩み始めたのは、言葉と文字を発明したことと道具を進歩させる知恵があったことです。その代わりに五感を含めて自然と対話し、地球環境とバランス良く生きる上で大切な感覚機能が徐々に失われてしまったと言えます。こうして考えてみると、人類は進化したのではなく、むしろ他の動物とくらべると感覚機能に限っては退化したと言っても過言ではありません。言いかえれば「人は鈍感へと進化した」のです。」
(太字引用者)

河内氏がプロデュースしている環境Webマガジン「GAIAPRESS ガイアプレス 自然・環境・生命 未知とのコミュニケーションへ」 

 わたしたちの生活は、便利さとひきかえに、自分で感じたり、考えたりすることを手放し、数字や外部機械に頼るようになってしまったということです。

 堀場製作所で働いてきた河内氏によれば、環境分析機器の開発現場では、生物たちがもつ不思議な能力からヒントを得ているということでした。そんなコンセプトから、1995年に「ガイアプレス」という環境Webマガジンがつくられ、「動物かんきょう会議」はそこのいちコンテンツとしてスタートしたのです。

自然に学ぶ「ものづくり」、バイオミミクリー 

 わたしは堀場製作所と長年コラボレーションをしていくなかで、彼らが開発のプロセスで「生物からヒントをもらう=バイオミミクリー」という考え方を用いていることを知りました。

 バイオミミクリーとは、生物を意味する「Bio」と模倣を意味する「Mimicry」を合わせた造語で、生命の自然界の仕組みに学び、それを模倣して技術開発やものづくりに活かすという考え方です。

ジャニン ベニュス (著), Janine M. Benyus (原名), 山本 良一 (翻訳), 吉野 美耶子 (翻訳)
自然と生体に学ぶ バイオミミクリー』オーム社、2006年。

 身近な例としては、ミツバチの正六角形の巣の形を模倣して、軽量強固な「ハニカム構造」の建材をつくったり、カモノハシやカワセミの嘴の形を模倣して、空気抵抗の少ない新幹線のフロントデザインをつくったり、これまでは主にものづくりの分野などで応用されてきました。


ミツバチの正6角形の蜂の巣の構造。『アニマルSDGsワークブック』「8番 やりがいのある仕事と経済成長」より

 公益社団法人氷温協会のサイトでは、バイオミミクリーの考え方が下記のように紹介されています。

 自然に学んだ技術開発、ないしは自然に学ぶものづくりについては欧米でも注目されています。このブームを創出した一人が、「自然の叡智からの革新」を副題とし、「自然と生体に学ぶバイオミミクリー」(1997年)という邦題の本を著したジャニン・ベニュス女史です。
 ベニュス女史が提言するバイオミミクリの九つの基本原則をそのまま引用してみます。
1.自然は、日光を燃料にする、
2.自然は、余分なエネルギーを使わない、
3.自然は、形態と機能を調和させる、
4.自然は、すべてのものをリサイクルする、
5.自然は、協力するものに報いる、
6.自然は、多様性に投資する、
7.自然は、地域の叡智を要求する、
8.自然は、内部から行き過ぎを抑える、
9.自然は、限界から力を生み出す
 さらに、特筆したいのは、バイオミミクリーの未来を目指すための四つの段階が提起されていることです。
それはまず「沈思する=自然に身をゆだねること」
そして「耳を傾ける=地球上の動植物に聞く」
次いで「伝える=自然をモデルや手段にする生物学者とエンジニアの協力を促し、多くの人々に伝えていくこと」
および「養い・育む=生物の多様性と天分を保護すること」
このように、ベニュス女史は新しいものづくりの概念を提唱されていますが、実は、日本発の自然に学ぶ技術の多くがこれに相当し、さらに日本の匠の歴史を知る方々にとっては、それがかつての日本のものづくりシステムそのものであることに気づきます。

 上記のつづきに、公益社団法人氷温協会からの力強いメッセージがあります。ぜひ覗いてみてください。

アニマルSDGsは「ポジションチェンジの視点を借りて未来をデザインする」

 バイオミミクリーの考え方に見られるように、わたしたち人間は動物たちを下に見たり管理したりするだけではなく、動物たちがもつ優れた能力に憧れ、模倣して、文化芸術をつくり、技術にも応用してきました。

 しかし「バイオミミクリーはものづくり、技術開発に役立つ」という有用性からの視点では、結局、人間中心主義の延長になってしまうだけです。

 ほんとうに見習い、模倣すべきは、彼らにはなぜ持続可能な世界をつくれて、人間には持続”不"可能な世界しかつくれていないのかを反省して、一度見直す謙虚な視点をもつこと。そして彼らの生き様、暮らし方を、さらには思想・哲学にまでイメージをふくらませて、その感性を模倣してみる、という態度ではないでしょうか。

『どうぶつに聞いてみた アニマルSDGs』の表紙カバーをとったときの表紙デザイン。

 例えば、冒頭で挙げた「ポイ捨て」を違う視点から眺めてみることができます。

 大人たちは、子どもたちに「ポイ捨てしません」を言わせて満足しています。ところが動物たちの世界は「ポイ捨て」です。獲物の食べたいところだけを食べたら、どこかへ行ってしまいます。それでも海や森がゴミだらけ、プラスチックだらけになるようなことはありません。

 生物の知恵は「弱くしてから相手に引き渡す」というものだそうです。次の捕食者が食べたら、また弱くなって次に回る、さらに弱くなる、そして最後に土になる。そういう共生の感性が磨かれた世界観を生きています。

 対して人間は、「強いもの=分解できないもの」をつくってしまっています。でも、今の技術では分解できるものもつくれます。ただ、コストが高くつくので、なかなか普及はしません。

 メーカーは「消費者が求めているもの(安くて便利なもの)を作っている」「消費者に選択の自由を提供している」と胸を張ります。消費者は安くて便利……という身勝手な感性の世界観を生きているのです。少しずつ消費者意識は変わってきていますが、そういう市場はまだ1%もないはずです。

 「鶏が先か、卵が先か」の堂々巡りの議論になりそうですが、実はこの手の話は必ず「卵」側に選択権があるのです。卵から生まれた若鳥たちの感性が「コストが高くなってもいいから、道理にかなったものを」と選択すれば、鶏にはこだわりはないので「それがニーズならば」と改めるでしょう。

 人間は未来を変えられる力を与えられています。それは「選択する」ということかもしれません。首長や議会が「わが町では、プラスチックで梱包された商品は売ってはいけないルールに決めました」という選択をし、多くの市民が賛同したらば、メーカーはその町での取引をやめるか、またはそれに従う選択しかないのです。もしくは、その特徴ある「選択」が、新たな「商品」「仕事と雇用」「ビジネスモデル」を作り出し、地域を活気づけるかもしれません。

人間SDGsとアニマルSDGsの関係性の図。

 『どうぶつに聞いてみた アニマルSDGs』では、これまでのSDGsの17項目に加えて18番目、「未来の子どたち」を目標として加えることを提案しています。

 この「子ども」には人間だけが含まれるわけではなく、地球上のあらゆる動植物を含みます。ここまで述べてきた関係性を念頭に置くと、「未来の子どもたち」のことを一番に考えることこそが、クリティカルであることが自然と理解できるのではないでしょうか。

 SDGsの18番、それは持続可能な未来、共生を選択することのシンボルです。発案者の益田文和氏は「人間SDGsのDはDevelopment(開発)だが、アニマルSDGsのDは、Design(再構築)のD」だと提唱しています。

 今の社会の仕組みに最適化できない、今のままでは逃げ切れないーーということに感覚的に気づいている「クイズ文化の外側にいる」者たちの視点から世の中の問題を捉え、学び、考えることを通して、ようやく大人たちもクイズ文化から脱し、答えのない問題に本当の意味で向き合うことができるようになるでしょう。もはや逆張りでいくしかないと、わたしはそう考えています。

 さてこのシリーズも次回、6回目で最後になります。最終回ではここまでのまとめとして、アニマルSDGsの18番の着眼と未来ビジョン、そしてわたしたち大人の役割とは、を考えてみたいと思います。

(第6回「すべてがテクノロジーによって人工化されていく世界で、「動物の視点」をもつということ」につづく)

【全国の書店、Amazonで発売中!(電子版同時発売)】

どうぶつに聞いてみた アニマルSDGs
著:益田文和、イアン筒井
発売元:ヌールエ/太郎次郎社エディタス 2,800円(税抜)

今こそ、発想を転換しよう!
アニマルSDGsは人間SDGsへの逆提案

人間中心の発想はもう限界。地球上の哺乳類は重量比で人間34%、家畜62%、野生動物4%という研究報告がある。人間と家畜をあわせると94%!
一方で、世界は気候変動、紛争や戦争など悪化の一途をたどり明るい未来は描きにくい。ほとんどの人間は「人類が技術革新と経済成長の結果、自らを滅ぼしている現実」を嘆くばかりで改善の糸口は見えない状況……。
もう、人間(おとな)だけにまかせちゃいられない!と、動物たちが子どもからすべての人間たちへ語りかける。

【推薦コメント】
前京都大学総長、総合地球環境学研究所 所長、人類学者・霊長類学者
山極壽一氏

「地球環境が大きく揺れ動いて、人間に大きな脅威となった今、やっと私たちは気づいた。もうずっと前から追い詰められてきた動物たちがいること。彼らの声を聞くことが人間にとっても豊かな未来を創ることにつながる。SDGsに不足している18番目の目標を今こそ入れよう。地球の生命圏を構成するさまざまな動物たちの身になって、SDGsの17の目標を眺めてみると、これまでとは違った景色が見えてくる。自由とは何か、食べ物はどこにあるのか、格差や差別はなぜ生まれたのか、健康であるためには、資源を持続的に使うには、働くことの意味は、そしてすべてのいのちが調和して生きるための方策を動物たちといっしょに考えよう。この本には未来を創る子どもたちへ向けて、動物たちからの機知に富んだメッセージと知恵が満ちあふれている」

本記事のアイキャッチ:アニマルSDGsが提案する SDGsの18番『未来の子どもたち KIDS AS FUTURE GENERATION』(左が最新の図案、右が2019年版)をシルクプリントしたエコバッグ。

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