ラテン語の完了分詞の作り方について
動詞の4基本形
ラテン語の辞書で動詞の項目を引くと次のような記述に出会う。
amō, -āre, -āvī, -ātum, tr「愛する」
これはこの動詞が
1. 直説法能動態現在一人称単数 amō
2. 能動現在不定詞 amāre →現在幹 amā-
3. 直説法能動態完了一人称単数 amāvī →完了幹 amāv-
4. 目的分詞対格 amātum →完了分詞幹 amāto-/amātā-
という形になることを表す(trは他動詞、intrは自動詞)。
こうした形式が使われるのは(1と)2を見れば動詞の大まかな変化タイプが、2, 3, 4から変化の基本となる「現在幹」「完了幹」「完了分詞幹」の形を導き出せることによる。
この4形を記憶すれば他の個々の変化形も比較的簡単に理解できるので、辞書にはこうした表記法が使われるのである。
補足として完了分詞や目的分詞から派生接辞全体を除いた部分(amōであればamā-)も派生語形成のベースとして重要である。
(amōのような第一変化動詞の場合は現在幹と、後述の第三変化の場合は動詞の根源である語根という最小パーツと同形になるのが普通)。
私見ではむしろこの部分のほうを完了分詞幹のように呼ぶこともできるように思う。
変化のグループ
具体的には2の不定詞が-āreなら第一変化、-ēreなら第二変化、-ereなら第三変化(下位分類に-ō型と-iō型)、-īreなら第四変化に属し、接続法や未来時制の作り方などに若干の違いがある。
(他にいくつかの不規則動詞があるが省略)。
第一変化 接続法-ē- 未来-bō, -bis
第二変化 接続法-ā- 未来-bō, -bis
第三変化 接続法-ā- 未来-am, -ēs
第四変化 接続法-ā- 未来-am, -ēs
また現在が-ō、不定詞が-āreの第一変化動詞なら完了は-āvī、目的分詞は-ātumというパターンが圧倒的に多く、4基本形を覚えるといっても実際に必要な記憶量はイメージより少ない。
前述のamō「愛する」はこの第一変化の通常形であり、ラテン語の動詞の最大多数派に属している。
しかしこの4基本形も無から突然生じて勢揃いしたわけではない。
規則動詞は4~5種類に大別され、個々の動詞にはamō, amāre, amāvī, amātumのような4基本形があり、それらの形を参考に他の形がすべて導出される――という説明は歴史的過程をひとまず捨象し古典ラテン語時代に注目した便宜的な記憶法である。
起源的な話をすると現在幹・完了幹・完了分詞幹の根源には「語根」という基本形があり、古典ラテン語で4~5パターンにまとめられた規則動詞にも多様な起源があり、動詞組織の成立過程には長い歴史の歩みがある。
今回はこの完了分詞幹をテーマにラテン語の動詞の歴史の一端を紹介していきたい。
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