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【ネタバレ無し】鬱!電波!哲学!幸福に生きよ!『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』作品紹介【国士舘アニ研ブログ】

こんにちは。鯖主です。
ちょっと久しぶりのノベルゲーム紹介です。今回は個人的No.1ノベルゲームである『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』(以下『すば日々』)を紹介します。

始めに注意点をいくつか。
本作はR18の作品ですのでご注意下さい。また、タイトルに【ネタバレ無し】とか書きましたが、作品紹介に最低限必要であると判断したネタバレは含まれているのでご注意下さい。

まず、ざっとあらすじを書いてみると「ひとりの少女の自殺やそれに付随した世界終末の予言をきっかけに混乱する学校、あるいはその学校のひとつのクラスを描いた作品」とかになるのでしょうか。
ここまであやふやな書き方をしたのには理由があり、その理由こそ本作の特徴のひとつでもあります。その特徴というのは群像劇の形式を取っている点です。群像劇というと複数の登場人物による別々の物語が展開され、物語が進むにつれて別々の物語がまとまっていくような物語の形式です。
そして、『すば日々』は全6章構成であり、基本的にはひとつの章でひとりの登場人物の視点の話が描かれています。そのため、本項では各章ごとにあらすじを書いていきます。

と、あらすじを書く流れになってしまいましたが、その前に本作における群像劇の使われ方についてもう少し詳しく話しましょう。
上述したように本作では1つの章でひとつの視点の物語が描かれているのですが、その中心にあるのは先述の簡単なあらすじにも書いた「ひとりの少女の自殺とそれに付随した世界終末の予言」、あるいは「それらを原因として湧いてくる謎」となっています。そして、これらの真相を様々な視点を通してパズルのピースを少しずつ埋めていくように解き明かしていくのです。要するに謎解きや伏線回収から得られるカタルシスが中々に良いという話。
この群像劇を上手く活かした構成には常々関心するのですが、ここで特筆すべきはこの群像劇の活かし方がノベルゲームだからこそ、と言うよりは活字媒体だからこそ成せる芸当であるという点です。あまり喋るとネタバレを踏みかねないので抽象的な話になりますが、活字媒体というのはアニメや漫画とは異なり終始一人称視点で物語を綴ることが可能です。逆にアニメや漫画においてずっと一人称視点の進行というのは恐らく無理があるでしょうし、むしろこれらの媒体においては一人称視点の描写というのは演出としての側面が強いでしょう。
そして、本作では一人称視点という特性を群像劇という形式や謎解き・伏線回収に上手く落とし込んでおり、それ故に謎解きや伏線回収から得られるカタルシスが中々に良いという訳です。言葉を変えれば「シナリオの良い作品」とも。

さて、そろそろあらすじ紹介といきましょう。先述した通り各章ごとの紹介となります。

第1章『Down the Rabbit-Hole』
主人公は文武両道であるもののサボり癖のある自堕落である少女。言ってしまえばクラスの俯瞰者のような人物です。彼女の平和な日常はひとりの少女の自殺によって大きく傾くことになります。
この章にジャンルを当てはめるなら「日常」「サスペンス」「ミステリー」になるでしょうか。この『すば日々』という作品で一番最初に読み進めていく物語です。

第2章『It’s my own Invention』
主人公は気弱でオタクでいじめられっ子な少年。彼のいじめられっ子という日常もまたひとりの少女の自殺によって大きく傾くことになります。
例によってジャンルを当てはめるなら「電波」「カルト」「終末モノ」になるでしょうか。本作の「電波」あるいは「狂気」の部分を魅力的に感じているユーザーにとっては特に好まれている章では無いでしょうか。「狂気」とはいっても楽しい狂気(とっても主観)なので中々クセになります。『すば日々』の全貌が少しずつ明らかになっていく物語です。

第3章『Looking-glass Insects』
主人公は恋する文学少女でいじめられっ子。そして、ここまでの物語の中心にある自殺をする張本人です。彼女の自殺までの物語となっていま……いや、これは読んでからのお楽しみという事で。
ジャンルを当てはめるなら「鬱」「いじめ」「百合」になるでしょうか。この章に至る過程で彼女が自殺してしまうということをプレイヤー達は察しているため、人によっては中々しんどい章になっています。何よりいじめの描写が2章以上につらい……。『すば日々』の暗い部分を担当する前半3章の最後にあたる物語です。

第4章『Jabberwocky』
ここから先は本作の軸となる物語であり、あらすじすらネタバレになりかねないので最低限の情報だけ書き残していくことにします。
主人公は2章の主人公をいじめていた少年。ジャンルは「熱血」「家族」「哲学」あたりでしょうか。
3章までとは打って変わって正統派な印象を受けそうな物語です。ある意味では新しい物語が始まる章であるとも言えます。

第5章『Which Dreamed It』
主人公は4章の主人公の妹。4章とのつながりが強すぎて、いよいよあらすじが書けなくなってきました。ジャンルとしては「恋愛」「家族」でしょうか。
さあ、あとは6章を残すのみ。

第6章『JabberwockyII』
章題からも察せる通り4章の続きです。主人公も4章と同じ。こちらも4章や5章とのつながりが強すぎてあらすじが書けません……。
ジャンルは4章に無いものを挙げると「夏」「田舎」あたりでしょうか。本作をプレイする際は是非とも最後まで!

と、あらすじ紹介も終わったところでノベルゲーマー御用達のレビューサイトである『ErogameScape -エロゲー批評空間-』にて本作に付けられたタグを見てみましょう。

ErogameScape -エロゲー批評空間-『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』より

傾向の「鬱」や「一般人に薦めない」、ジャンルの「狂気・猟奇」や「バイオレンス・スプラッター」のようなネガティブなワードを持つタグについては既に何となく理解できるのではないでしょうか。と言うのも、これらの要素は先述のあらすじでの情報量が比較的多かった1~3章においての要素です。そのため言葉の強さも相まってこれらのタグに目が行きがちでしょう。
しかし、ここで見て欲しいのはそれら以外のタグです。例えば傾向の「インテリ」や「熱血」、ジャンルの「死生観」のようなタグ。これらの要素は4~6章に強く見られ、先程のネガティブなワードを持つタグの要素と同等、場合によってはそれ以上に本作を象徴する要素となっています。
わざわざこんなことを書くのには理由があります。と言うのも、私が読んだ限りでは『すば日々』の作品紹介というのは1~3章での鬱々とした雰囲気やネガティブな要素が強調されやすい傾向にあり、実際にそれらの要素は本作を紹介する上では間違いなく外せない要素です。
しかし、これだけではただの鬱ゲー・電波ゲーと捉えられても不思議ではありません。そして、本作がそのような作品であると捉えられてしまうのは非常に勿体ない。
そんな訳で『すば日々』という作品を紹介するのであれば鬱々とした物語よりもその先にある物語を特に強調すべきであると考えています。それこそが本作の核となる部分なのです。
ただし、それをネタバレを無しでプレイ前の方に伝えるのは恐らく難しい。それでもその片鱗くらいは伝えられるはずです。そこで本作から引用したい部分があります。

由岐「人は先に進む……その歩みを止める事はない」
  「たった一つの思いを心に刻み込まれて」
皆守「たった一つの思いを刻み込まれる?」
由岐「そう、命令にした刻印……すべての人……いや、すべての生命がその刻印に命じられて生きている」
皆守「全ての生命を命じる刻印……」
由岐「そうね……その刻印には、ただこう刻まれている」
「幸福に生きよ!」
  「猫よ。犬よ。シマウマよ。虎さんよ。セミさんよ。そして人よ」
  「等しく、幸福に生きよ!」
皆守「何だそれ……」
由岐「幸福を願わない生き物はいない……すべての生き物が自らの幸福を願う……」
  「そう命じられているから……」
皆守「それって命令なのか?」
由岐「さぁね……ただ、実際そうでしょ?」
  「人もまた……いいや、人は動物なんかと比べものにならないぐらいに幸福に生きようとし」
  「そして絶望する」
皆守「なんでそうなるの?」
由岐「幸福は、それを望まなければ絶望なんて無い」
  「あれだよ、動物が絶望しないと同じだな」
皆守「でも、動物も幸福に生きようとするだろ?」
由岐「そうだよ」
皆守「なら、なんで動物は絶望しないんだよ」
由岐「そんなの当たり前じゃん。動物は幸福に生きてるからだよ」
皆守「なんだよそれ……幸福じゃない動物だっているだろ」
由岐「いないよ。動物はいつだって幸福なんだよ」
  「死ぬその瞬間まで、すべての生き物は等しく永遠に幸福だ」
皆守「なんでだよ」
由岐「なんでだろうね」
皆守「分からないのかよ」
由岐「あはは、そんな事ないよ答えは簡単だよ」
  「死を知らない……」
  「動物は永遠の相を生きている……」
  「だから、幸福に生きようとする動物は、いつだって幸福なんだよ……」
皆守「動物って死を知らないのか?」
由岐「当たり前じゃない?」
皆守「なんで?」
由岐「だってさ、本当は誰も死なんて知らないんだからさ」
皆守「誰も?」
由岐「そう、誰も死なんて知らない……死を体験した人なんかいないんだからさ……」
  「死は想像……いつまで経っても行き着くことの出来ない……」
  「人は死を知らず……にも関わらず人は死を知り、そしてそれが故に幸福の中で溺れることを覚えた……」
  「絶望とは……幸福の中で溺れる事が出来る人にだけ与えられた特権だな」
皆守「特権って……どう考えても悪いもんじゃん」
由岐「そうだね……でも、だからこそ人は言葉を手に入れた……」
  「空を美しいと感じた……」
  「良き世界になれと祈る様になった……」
  「言葉と美しさと祈り……」
  「三つの力と共に……素晴らしい日々を手にした」
  「人よ、幸福たれ!」
  「幸福に溺れる事なく……この世界に絶望する事なく……」
  「ただ幸福に生きよ、みたいな」
皆守「ただ幸福に生きよ……か」

『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』 JabberwockyⅡより

よく分からないと感じる方もいるかもしれません。今はとりあえず「幸福に生きよ!」というワードだけ拾って頂ければ大丈夫です。
さて、この「幸福に生きよ!」というセリフは本作の着地点のひとつとなっています。
散々、鬱々とした物語を展開した作品の着地点がこれなのです。
ここまでストレートな祝福のセリフを着地点として掲げた作品がただの鬱ゲー・電波ゲーと言えるでしょうか?

と、私が書けるのはここまでです。
ここに至るまでの物語を見届けたいという方は是非とも本作をプレイしてみて下さい。少しでも興味を持って頂けたなら幸いです。

ということで『すば日々』の布教記事でした。

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