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旅の詩

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まだ若い頃に書いた旅の詩です。note投稿にあたり、加筆しました。
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2024年7月の記事一覧

旅の詩/原野

旅の詩/原野

原野

眠れずに
怯えている
オオカミもヒグマもいないこの原で
何に耳をそばだてている

これは潮騒

 これは驟雨

  これはコオロギ

これは木霊 たまに森の木霊

飲んでしまおうか
いや、これは野生の警戒
(もっと集中しなさい)
私が止む
体の夜
ひがしずむまで

(来た)
ホワイトアウト
(しがみつけ!)

これは時計
午前2時55分
明石標準時における私の位置
これは体
私の掌
私の脈

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旅の詩/祈り2

旅の詩/祈り2

祈り2

対象を必要としないはずの
祈りの向こうに
くるくるまわる電飾の光背
ただ祈ることは難しい

ヤンゴン、
その中心にそびえるパゴダを背に
一歩外に出て
聞こえていたはずの首都の喧騒に気づく、
たった今まで
この背の方には
音も声もなかったと知る

ターヨーという村へ向けて
カローの町から山に入る
パラウン族と呼ばれる人々の住む、
ターヨーはマレビトの耳で太陽となった

日のあるうち
朝六時

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旅の詩/休息

旅の詩/休息

休息

シバ寺院の石段を登りつめ
腰かけて
ダルバール広場を見下ろしている
行き交う人を眺めるでもなく

風は吹いたり止んだりするが
吹く時はいい風が吹く

帆を下ろして
待っているのです
あなたが動き出すのを

「私は靴の修繕屋です」

捨てるつもりで履いてきた
FILAのスポーツサンダル
ちぎれたところをつないでもらった
縁ですか
まだ歩けるのだ

1997年8月