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レイプを口にさせない社会〜Black Boxを読んで〜

ジャーナリスト伊藤詩織さんの「Black Box」を読んだきっかけは、女性ファッション誌「ELLE」のフェイスブック公式ページで、同じくジャーナリストのミエ・コヒヤマさんとのパリでの対談を読んだこと。

伊藤さんは自身が体験したレイプ被害を実名で公表し、私たちを取り巻くあらゆる問題について声を上げた女性だ。

私が強く心惹かれたのは、伊藤さんが個人的感情から動いている訳ではなく「使命感」で動いていることが伝わってくるからだ。すでにこの問題は彼女個人のものではなく社会全てを含んでいて、自分が声を上げていかなくては変わらないと心から信じていると感じるからだ。

Black Boxの焦点はレイプ事件が事実かどうかの証明ではない。私個人としては彼女は嘘をついていないと心底感じる。だけど、それが重要なのではない。

重要なのは、レイプ被害者に対して現在の「法」「捜査」「社会」に大きな問題があるという彼女の主張で、その主張が正しいことだ。

・行為があったか

・合意があったか

レイプ事件を立証するためには、この2点について証明しなくてはいけない。しかし、レイプの現場は密室で、まさに被害者と犯人しか知らないブラックボックスだ。

そして、私たちはレイプ被害に遭遇した際にどうすればいいか、助けを求めるための道筋をまったく知らない。

以前、私はマッサージの仕事をしていた。レイプ被害を受けたことはないが、何度か怖い思いをしたことはある。そんなとき「自分に落ち度があったのではないか」「付け込まれる隙を与えた自分が悪いのではないか」とすごく反省した経験がある。だから、レイプ被害にあった女性が自分を責め、自己嫌悪に陥る心理が理解できる。それに、そんなことが自分の身に起きたなんて認めたくない。

自分で制御できない感情のなかで、被害を訴えるための手順を冷静に考えるなんてできるだろうか。

Black Boxの後半にメアリー・F・カルバートという写真家が撮った一枚の写真が登場する。

米軍の中で頻発している、一連のレイプ事件を追いかけた報道写真で、レイプ被害に遭った1人の女性が描いた一枚の絵を写したものだ。その絵は痛々しくリストカットされた自身の腕を描いたもので、横に「IF ONLY IT WAS THIS EASY.」と書かれている。

「これがこんなにも楽だったら」

その絵を描いた女性は自殺した。その女性の父親が、亡くなった娘の部屋に1人佇む写真をみて、涙が出た。こんな思いを自分の家族にさせたくないし、自分の家族、愛する人がもし被害にあったらと想像しただけで本当に恐ろしくなる。

レイプ被害に対して、整った環境がない今の日本で覚えておくべきこと。

・レイプ被害に遭ったら産婦人科に行ってはダメ。レイプキットでの検査や、薬を飲まされた際の血液検査を行ってくれる医療機関の救急外来に向かうこと。(開業医の婦人科にレイプキットが置いてあることはまずない。)

もちろん、この手順を踏んだとしてもセカンドレイプという捜査の際に受ける問題、被害の立証が難しい現状の法律など改善点は山積みだ。だけど、誰にも言えずに苦しむ女性がいなくなるために、私にも伝えられることがあると思う。

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