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自然サイクルの異変〜黒潮大蛇行の影響〜(あくまで海からの視点で・・・)

昨今、何かと話題になる気候変動。かなり大きなウネリなのですが、目に見えて大きな変化が身近で感じられないために、漠然とした印象をお持ちの方は多いかと思います。そこで、私が魚釣りの情報誌を発行した20数年間で感じた、海からの視点での気候変動をできるだけわかりやすくお伝えします。

氷の溶けた大地をさまようシロクマ

海の生物の産卵期のズレ・・・

以前投稿した記事でもアップしましたが、魚やイカなどの産卵期がズレてきています。なぜズレるのか?それは、海水温が季節ボケしているからです。

海の生物は、月に支配された世界で生活しています。通常我々が使っているカレンダーは太陽暦ですが、海で生活する人たちは月暦(旧暦)を目安にしています。その方が海の中では理にかなっているからです。

よく潮干狩りのシーズンに言われる大潮、小潮ですが、月と地球の引力の関係によって大潮、小潮が発生します。大潮とは干潮と満潮の差が大きい日、小潮はその逆で小さい日となります。そして、季節によって同じ大潮でも潮位差が大きくなったり小さくなったりします。それを敏感に察知しているのが海で生活している生物たちです。

そして、もう一つ産卵に重要なのが水温です。潮と水温によって魚たちは産卵の準備に入るのです。数十年前まではこのサイクルが同じようなサイクルで繰り返されていました。もちろん年によって多少の前後はありましたが、それでも概ねあっていたのです。しかし、徐々に狂い始め、釣りをしていてもズレの影響を受けた魚を目撃するようになります。

例えばクロダイ。春になると産卵し、ほぼ梅雨頃にはすべての個体が産卵を終えていました。ところが近年、産卵準備に入り抱卵していたのに、水温と潮のタイミングが合わずに抱卵したまま夏を迎えた魚を目撃するようになりました。もちろん卵は腐っています。個体への影響もあると思われます。タイミングが合わず産卵できなかった個体が夏を迎えると、もう産卵どころではなくなります。そこで、そのまま秋の水温が下がってくる時期を待って産卵するのです。できればですが。。。

クロダイだけでなく、アオリイカの産卵期がズレているのもこの仕組みだと思われます。また、産卵期のズレにより弊害も目撃するようになりました。近種のハイブリッドです。このハイブリッド種には、人工的に作られその後なんらかの形で自然に放流されたものと、自然発生的にできたものと2パターンあります。イシダイとイシガキダイのハイブリッドである「イシガキイシダイ」は、あまり市場に出回ることはないですが、釣りをしていると見かけることがあります。(そんなに多くはありませんが・・・) これなどは、近年の環境変化によって微妙にズレていた産卵期(生殖隔離)が交わってしまうことが増え、自然発生する機会が増えているのでは?と想像しています。あくまで私個人の経験則ですが。。。

ぼうずコンニャクの魚貝図鑑より転載(イシガキイシダイ)

通常ハイブリッド種は、生殖能力はないと言われていますが、極めて近い親戚同士となると生殖能力を持つとの話もあります。本来は別の種として存在していた魚たちが、環境の変化によって新たな可能性へ動き出しているのかも知れないと、個人的には感じています。

海藻がどんどんなくなっている!

まずは、気象庁のデータから。1900年から2020年までの「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」では、「日本沿岸の海面水位は、1980年代以降、上昇傾向が見られます。1906~2021年の期間では上昇傾向は見られません。また、全期間を通して10年から20年周期の変動(十年規模の変動)と50年を超えるような長周期の変動があります」との解説があります。

2022年2月15日 気象庁発表

私が知っている20数年間では明らかに海水温は上昇傾向にあります。これが今後も続くかは推移を見て行く必要があります。

お次は、表面水温の推移です。気象庁の「月平均表層水温」によると、1993年3月と、2022年3月では、沿岸部の海水温が上昇しているようにみえます。

なぜ、私が3月の水温をピックアップしたのかといえば、海水温が一番下がる時期が3月だからです。大気の影響、台風などの影響によって海水温は上がったり下がったりしています。およそ1.5〜2ヶ月ほど遅れてその影響が出てくるので、海水温が一番下がるのは3月上旬になることが多いです。

そして、この最低水温が沿岸部で下がりにくくなっていることが問題となります。私の経験では、大分県にある別府湾での最低水温は11度前後でした。しかし、近年は13度前後で推移するようになっていました。魚には生存可能な水温があり、それ以上でも以下でも死滅してしまいます。我々釣り人の中では「死滅回遊魚」という言葉があります。夏から秋にかけて黒潮に乗って南の海から流れ付いた魚が、冬期になると海水温が下がって死んでしまうため、このように呼ばれています。ところが、最低水温が下がりにくくなっていることで、死滅回遊魚が死滅せず越冬するようになります。

前述した別府湾では、熱帯魚と呼ばれる魚を冬でも見かけるようになっていますし、アイゴやイサキの幼魚なども目撃するようになりました。(昔はいなかった・・・)。

この死滅するはずの魚が越冬するようになると困ったことが増えてしまいます。特にブダイ類やアイゴ類は、海藻を好んで食べています。水温が下がると殆ど動かず冬眠していたブダイ類やアイゴ類が、水温が下がらないため、冬でも活動を行うようになり、海藻をバリバリと食べてしまいます。特に冬から春にかけて育つ新芽を食べるので、藻場が減少しています。

藻場の減少の理由には賛否両論ありますが、大分県の水産試験場で行われたテストでは、新芽が生育している海底を防護ネットを張ることで、ブダイ類やアイゴ類の食害を防ぎ、藻場を再生したといった事例もあります。よって、水温が下がらない⇒ブダイ類やアイゴ類が冬でも活動する⇒藻場が減少するといったパターンも原因の一つといえそうです。

藻場が減るとどうなるか?小魚の隠れ場所や産卵場所が減少します。当然小魚が減れば大魚の回遊も少なくなります。藻場が減っていいことはあまりありません。

地域の海産物が獲れなくなっている

二十年以上前は、釣れていた魚が今では全く獲れなくなった。おそらくどの地域でもある話だと思います。最初は乱獲や環境の汚染により、生息域の減少が原因だと感じていましたが、どうもここ10年ほどはそれだけではないと感じるようになりました。

例えば、駿河湾の「桜えび」などはニュースにも取り上げられてるほど深刻です。2017年における漁獲量は1,132トンでしたが、続く2018年では312トンにまで激減しました。この駿河湾では、地域の漁協が協定を結び、禁漁区域なども設けながら資源保護の上、漁を営んできましたが、近年は不漁が続いているようです。

不漁の原因としては主に3つ挙げられています。

  • 水質汚染

  • 黒潮の大蛇行

  • 水揚げ量の過多

おそらくどれもが密接に関係していると予測しますが、一番引き金になっているのは、「黒潮の大蛇行」だと想像しています。

上記は、「JAMSTEC」による黒潮の長期予報です。この蛇行はここ5年以上続いています。関係者もなぜ蛇行するのかまだ解明できていません。

こちらはウェザーニュースさんによる2017年の9月のニュースです。これ以前にも蛇行はしていましたが、ニュースなどで取り上げられるようになった年だと記憶しています。上記であるように、通常は緑(青)のラインが黒潮でした。しかし、近年はこの大蛇行が続き常態化しています。これによって黒潮の影響を受けていた太平洋側の海は、ものの見事に変化しています。私は、この影響が「桜えび」に致命的な影響を与えていると考えます。

もちろん、私が知っている大分県の海でも異変が起こっています。12月に解禁となるナマコ漁。しかし、解禁しても水温が下がっていないため、ナマコが沿岸まで寄ってきません。ようやく水温が下がって撮れるようになっても、売れるシーズンを過ぎてしまい、二束三文になってしまうとか。。。定着性の高い貝類、タコ類、ナマコ類などはこのように季節ボケしているのか、昔獲れたシーズンには獲れなくなっています。

同じように魚にも変化が出ています。大分県では鹿児島の海で良く釣れていた魚が釣れるようになり、逆に昔釣れていた魚は姿を消しつつあります。北海道では昔釣れなかったタチウオが釣れたり、ブリが釣れたりし、サケがあまり釣れなくなっています。我々が知らないところで海の環境が変化しているのだと感じているのです。

ニュースになっていないけど、地元の漁師の間では深刻な問題になっている事柄はほぼ全国的にあると予測しています。

海の生態系の変化

ここで、まとめてみます。海の環境の変化においてキーワードとなる事柄は以下の通りです。

  • 最低水温が下がらなくなった

  • 海水温と潮のタイミングが合わなくなった

  • 黒潮の大蛇行

  • 海面上昇

このような事柄が複雑に絡み合って、海の環境が変化していると私は考えています。そして、おそらくですが、温暖化の影響で、北極と南極の氷が溶け、それが徐々に海に変化をもたらしていると推測しています。

関アジ・関サバで有名な大分県佐賀関で30年以上漁を行っている漁師が「昔よりも潮が遅くなった」と教えてくれました。これはおそらく海面が上昇していることで、少しずつ潮流が遅くなっているのだと考えます。海の漁師はそれこそGPSなどない時代に感覚で覚えた物で獲物を狙ってきました。その経験による感覚で「遅くなった」と感じているのであれば、私はそれを信じます。おそらくこの季節のこの時期であれば、A地点からB時点まで船を流したときに、どのくらいの時間で流されるか経験から分かっているのです。

いろいろな側面から気候変動の投稿をしようと考えていますが、全てはこの記事に繋がる事柄だと思います。今後も投稿する記事からこのページにリンクを張っていこうと思いますので、皆様も「あ〜なんだかダラダラと書いていたな・・」と頭の片隅にでも置いていただけますと幸いです。

長々と書いてしまい、もうしわけありません。お付き合いありがとうございました。

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