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BUCK-TICK 35th anniv.セットリスト分析からのあれこれ

2022年9月23・24日に横浜アリーナで開催された「BUCK-TICK2022 35th anniversary "THE PARADE" FLY SIDE・HIGH SIDE」。
両日のセットリストをアルバムごとに集計してみた。

《セットリスト一覧》

各21曲、全32曲

《アルバム別》

22枚のオリジナルアルバムのうち13枚から選曲

収録アルバム別にみると
FLY SIDE最多は「RAZZEL DAZZLE」4曲(HIGH SIDEでは0)。
HIGH SIDEは単独では「ABRACADABRA」3曲、トータル「Six/Nine」4曲。
両日併せると「Six/Nine」が5曲という結果に。

BUCK-TICK史上最も暗い問題作(と言っても過言ではないだろう)から最多とは、なんとも「お祭り」らしからぬ選曲。
彼らが”35周年”という数字を周りが騒ぐほど特別視していないこと、これっぽっちも浮かれてなどいないことがよくわかる。
「バカ騒ぎ」の意味をもつ「RAZZLE DAZZLE」からの選曲すら、陽気だのアッパーだのとは程遠い(そもそも陽気という言葉がまったく似合わないバンドではあるが)。でも、これこそBUCK-TICK!と思わずニヤニヤして頷いてしまう結果。

ちなみに今回のセットリスト、1997~2005年のアルバムからの選曲がない。
この間発売されたアルバムは「SEXY STREAM LINER」、「ONE LIFE,ONE DEATH 」、「極東 I LOVE YOU」、「Mona Lisa OVERDRIVE」の4枚。
この4枚には「無知の涙」「CHECK UP」「Long Distance Call」「極東より愛を込めて」「残骸」など戦争をテーマにした曲が多いので、この結果はちょっと意外。

だが、子供目線で戦争に纏わるテーマを歌った切なく美しい曲が多く選ばれていることに気づくと、この結果に納得してしまう。
というのも、選ばれなかった4枚のアルバムは比較的攻撃的で激しい曲、大人(兵士・戦士)目線の作品が多いからだ。

辛い現実を美しい物語に変えて歌うことで、弱者(と呼ばれる立場の人たち)が現状に抱いている不安や苦しみ、痛みを少しでも和らげることができたら。日々生まれる不安や葛藤からも目を背けず、こんな時代だからこそその中でも希望や夢を見出すことができたら。そんな強い願いを改めて感じたセットリスト。

櫻井敦司(以下・あっちゃん)の書く詩は、子供を始めとした弱者(と言われる人々)に寄り添ったものが多い。
過去作品ではあっちゃん自身の投影だった”子ども”が「すべての子ども(と昔、子どもだった人たち)」へ、贖罪が祈りへと形を変えるにしたがって、歌もまたその印象を変え続けている。
今後の変化が楽しみであると同時に、願わくば、あっちゃんが疫病や戦争で虐げられる子どもらに心を痛める日がなくなりますように。すべてのひとが安らぎの中で幸せにいられますように。そう祈らずにはいられない。


ところで、2012年「夢見る宇宙」発売時、あっちゃんはインタビューでこんなことを言っている。

『夢って、僕に言わせたら逃避だと思っていたんです(笑)今まで。』

『夢が叶うからどうこうじゃなくて、それを願ったり思ったりするのが、すごく大事だな、って思えるようになって。』

『それ(夢)を見せる側になった実感がついたと言いますか。今までは《夢は叶うよ≫って、根拠もない嘘をついて終わっていたのが、そのついた嘘は嘘じゃないよって嘘をつけるようになりましたね。』

2012年10月号「音楽と人」より抜粋

夢を見せる側として、嘘をつきとおす覚悟をひしひしと感じたインタビューだった。この時あっちゃんに生まれた覚悟は、その後も彼の中にしっかりと根を張り続けている。逃げることも夢見ることも肯定して、詞は物語へ、唄は演じ切ることへと留まることなく進(深)化を続けている。
特に「演じ切る」ことにかけてのあっちゃんの凄みといったら!
瞬きも呼吸も拍手すらも忘れて、その気迫から目が離せなくなる。

悲しみも不安も闇も否定することなく、その中に光るちいさな救いや歓びを掬い上げて歌う。そんな彼らが描く闇と光、清らかで猥雑な混沌とした世界の美しさを再確認したセットリストでもあった。

変わり続けるのに変わらない。
新しいのに懐かしい。
そんな一見矛盾した姿を見せながら、彼らはこれからも走り続ける。

この曲は演るはず。という安易な予想などやすやすと越えて幕を開けた彼らの35週年。まもなく始まるツアー、絶賛レコーディング中の新作への期待が止まらない。

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