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[No.5]20年、フリーライターやってます~ライターになるまで~その4 2度目の売り込み、その顛末

「文章力より取材力」

その編集者の言った言葉の深さを、ライターとなった今、日に日に実感していますが、そのときは、「?」という感じでした。

「取材って、人に会って話を聞いてそれを文章に書くだけのことでしょう? そのくらいできますけど」ってな気持ちでした。もちろん声には出さず心の中で言ったのですが。

取材力とはなんぞや、という話はまたあとでしようと思いますが、次に彼はこう言いました。

「あなた、本当にこんな時代が来ると思っているんですか」

私が持ち込んだ企画書を見ての感想でした。

その企画はというと詳細は覚えていませんが、メールを使って在宅勤務ができれば子持ちの主婦でも仕事ができる時代になるといった内容で、いかにも行動半径500mの子育て主婦らしい、自分目線オンリーの企画。今思うと恥ずかしいのですが、「こんな時代が近々来るはずなどない」というその編集者の意見には、こちらこそ「あなた本当にそう思っているんですか」と言いそうになりました。

当時、1990年代はじめと言えば、日本でもインターネットという言葉がちらほら聞かれていたし、まだまだ電話が主流とはいえ、メールを使うことも一般的になりつつありました。出産前まで勤めていた会社ではテレワークの研究をする部門もありSOHO(Small Office Home Office)という言葉こそなかったものの(いや、あったかも知んないけど)、そういう時代は絶対に来るという確信がありました。

つまり、私の企画はめずらしいものでもなんでもなかったわけなのですが、編集者に相手にもされなかったのは企画が”目新しくない”ためではなく、”目新しすぎた”からなのでした。

たぶんその頃、出版業界は最もIT化が遅れていた業界の一つだったと思います。その後まもなく一般企業では普通にメールでデータをやりとりするようになりましたが、出版社では未だフロッピーディスク(死語!?)に入った原稿をバイク便で受け渡ししていました。出版社の入口あたりには原稿待ちのバイク便がずらっと並んでいたものです。
 
とにかく企画は没。売り込みは空振りに終わったのですが、最後に編集者はこんなことをいいました。

「何でも書けます、という人が一番困るんですよ。これしか書けないという人のほうがまだマシだ。あなたの場合、企画書を持ってきただけまだ見どころがある」

かといって仕事をくれるわけでなし、こんなところ、こっちからお断りですわ!と心の中で強がりを言いながら編集部をあとにしました。

ところが一カ月も経たないうちにその編集者から一本の電話がかかってきたのです。(つづく)

(2015年01月12日「いしぷろ日記」より転載)

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