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男女の仲にならないのが美しい

想いあいつつ男女の仲にならないのが一番美しい。
残りの人生を一人に捧げると決めた新婚の友だちも、身を削りあって今ではぴたりとくっついて離れ難い熟年夫婦もすばらしい。けれど、あえて自然の摂理に従わずにいることのほうがよほど、美しく人生のドラマにふさわしいと思ってしまう。
ぶっちゃけ、あちらが欲しくてじりじりしいているものを、丸ごと曝け出して差し出してしまってもいい。美味しいところだけを貪って、そのあとは何もなかったかのように、いや以前よりももっと冷えた態度でおしまいにして仕舞えばいい。
でも、もし何もしなかったら?鈍感なふりすらやめて、はいはいわかってますよと言動の端々に滲ませて、でも、さっぱりとし続けられたら、上質な女の幸せというものが得られるのではないか。彼のなかでは、「抱けた女のリスト」という無味乾燥なデータファイルとは別の、ちょっと特別なフォルダに入れられるんだろう。喜ぶほどでもないけれど、あちら側の自己肯定感の肥やしになってたまるかという高飛車な心を慰めることができる。そして、3年後、5年後、10年後、30年後にまた会って、そのたびに、あらあの時は可哀想だったわね、ごめんなさいねと不必要に心の中で詫びつつ、でもやっぱりやらなくて正解だったのだわと確信を深めていくのだ。完璧なプランだ。
007スカイフォールでは、マネーペニー夫人がボンドの髭剃りをするシーンが出てくる。マカオのエキゾチックなホテルの一室で、喉から顎へ、丁寧に刃を滑らせるシーン。その後の展開は描かれていないが、マネーペニー夫人は仕事を終えたら、さっさと立ち去ってしまったに違いない。だって、最高の満足を得るには、それが一番の方法だと聡い夫人は知っているだろうから。
花を手折って花瓶に飾るのもいいけれど、そのあとは冷たいガラスの中で朽ちるだけ。あえて知られずに野のそよ風に吹かれているほうがいいこともあるのだ。

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