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しまぐに

眼下に広がる光景を見ていると、日本は島国だったんだと今更のように思い知らされる。

大海に突然浮かび上がった緑の山々。それが日本だ。四方を水に囲まれて、くにの隅々まで潤っている。雨は小川となり、山頂からちょろちょろと降りてくる。幾多の他の流れと出会い、やがて龍のような大河となって田畑を駆け巡り、やがて海に還る。何と豊かなことだろう。そのかわり、底なしの海の恐ろしさに常にさらされている。海の神はこの青々とした土地を一瞬で沈めてしまえるのだろう。

明くる年、天地をひっくり返すような大災害が日本に降りかかると人々は言う。地上では空を覆い尽くすように聳え立っていた高層ビルも、遙か上空からは、沿岸に申し訳程度に佇んでいるように見える。風前の灯だ。
ぼんやりしているうちに機体は遥か上空へと抜け、たゆたう雲を見下ろす。脈々と西に続く山々を、波打つ白のベールが覆い隠して、まるで国土が海中に沈んだかのように見える。

もしこの土地が海に呑まれる日が来て、我が身もろとも滅びる時が来たとしても、魂は安らぎとともにそれを受け入れるのだろう。恨みつらみや無念を抱えて、いつまでも波間に漂うとは思えない。慈悲深く巨大な何かが、悲しみも苦しみも癒してくれるに違いない。その限りにおいて、死も怖くないと思えるのだ。

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