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春菊天と私

私が初めて春菊天に出会ったのは今から2年前の秋。

東京にドイツ語の試験を受けに行った時、ふらっと立ち寄った立ち食い蕎麦屋で運命の出会いを果たしてしまう。

注文カウンターの横のショーケースに並んだ緑色のかたまり。

海老天やイカ天、ゲソ天やとり天といった茶色のものが並ぶ中、一際異彩を放つその姿。

そう。それはまさに若かりし頃の白鵬を彷彿とさせる姿だった。

私はその白鵬、いやその春菊天を頼まずにはいられなかった。

優勝回数45回を誇る白鵬さながらのその姿、まさに立ち食い蕎麦天ぷら界の横綱と言っていいに等しいものだった。

私の目の前に来た春菊天は冷め切っていた。熱々なんかを期待してはいけない。ここは立ち食い蕎麦屋だ。この冷め切った天ぷらこそが正義なのである。

私はとても悩んだ。この春菊を一度おつゆに浸してふやかしてから食べるべきか、それともそのままガブリとかぶりつくべきか。

春菊天は天ぷら界の横綱である。そんな横綱に立会い変化をする力士はおるまい。

私は礼儀に則りガブリとかぶりついた。

サクサクとも言えないあのニュワニュワとした感じ。

これが春菊天なのだ。

立会いが成立したので次はまわしを取りに行く。

おつゆに浸し、天ぷらを温めてからかぶりつく。

おつゆが衣に染み渡り、おつゆの甘みと春菊の苦味が口の中でハーモニーを奏でるなんてことはしない。全力でぶつかり合うのだ。

それこそ全盛期の白鵬が稀勢の里戦で見せたあの横綱たる取り組みを彷彿とさせる。

気がつけば春菊天は消えていた。

あれは夢だったのかもしれない。

おそらく土がついてしまった稀勢の里もそう思ったことであろう。

私は春菊天に夢を見せられていたのだ。

そんなこんなで私は春菊天のとりこになっている。

私の住む九州ではおそらくこの蕎麦界の横綱春菊天蕎麦に勝てるうどんは存在しないのではないだろうか。

ふふふ。

待っていたぞ。春菊天蕎麦よ。

だ、誰だお前は?!

デーン

九州の大横綱牧のうどんの肉ごぼう天うどん

ダダーン

おしまい。

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