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初めてドイツ女優も素敵って思った

このドイツ人女優さんって、ロミー・シュナイダー。
(厳密にはオーストリア生まれの、ドイツで活躍した女優さん)

実は興味はなかったし、お顔も好みとはちょっと違います。きれいなお顔立ちだとは思うのですが、細かく言えば目がね、あまり好きじゃないなという印象でした。

そのせいか、時々ドイツで流れるテレビで『シシー物語』で見かける以外、特に観たいなとも思っていませんでした。
シシーというのは、ドイツのどこかこじんまりしたところのお姫さま的女性が、若くしてオーストリア帝国の世継ぎに見染められてという、シンデレラストーリーの主人公で、ドイツ人にはとても人気の女性なんです。

その番組もクリスマスあたりに流れることが多くて、日本なら元旦あたりの時代劇みたいな。
クラッシックな、ドイツ人の集合意識とどこかマッチする存在だったりするわけなのです。

彼女はドイツ語文化圏の人だけれど、そして演じたシシーとしての彼女を好きなドイツ人も、たくさんいるわけだけれど、後年活躍したのはハリウッドやフランスで。
そしてシシーはある意味一人歩きして、ドイツ人にかなり好まれたけれど、実際生前の彼女はシシー的な役柄がずっとついて回るのが嫌いで、アラン・ドロンとの恋でフランスへ行った後は、ドイツでの評判はあまりよくなかったらしいです。

そして不遇の関係性(二度の離婚)や彼女の息子の悲劇的な死など、実生活はとても厳しかったみたいです。
お母さんがステージママ化したり、継父がお金を勝手に自分のビジネスへ投資して、お金欲しさにシシーシリーズにいやいやながら続投させられたり。
プライベートでは、幸せな人生を生きたとは言えない女優さん。

でもそれが故なのか、彼女の瞳って好きだなと思う、とても繊細で表情豊かで柔らかさがあって、そのあたりが私が抱いていたドイツ人女性のイメージを、いい意味で裏切ってくれました。

彼女が主演した映画『サン・スーシの女』を観たんです。
実は少し前に買っていたんだけれど、なかなか時間がなくてしばらく放置していたもの。
そしてそこに映る彼女の繊細な瞳を見たら、「こんな素敵な人だったんだ!」と思ってがぜん興味が湧いたんです。

この映画に出演した時、実は彼女はぼろぼろの状態で、出演をOKした理由も「今映画という仕事がなかったら、私は狂ってしまう」という、愛息の悲劇の死のちょうど後だったから。

監督が言っていたのに拠ると、彼女がマスコミに愛息の件で追い回されなくて済むように、撮影現場と泊まるホテルは直行で行き来出来て、外部とは接触しなくて済むようにしたとか、撮影が終わった夜も彼女はほとんどホテルの部屋に閉じこもっていたとか、本当にギリギリの状態での仕事だったみたいです。

そうしてこの素晴らしい映画はできたわけですけれど、彼女はそれが完成してしばらくして、心不全で亡くなってしまうんですね、二か月と経たないうちに。

監督も、「彼女は神経が強いというタイプではなかったから、息子さんの件もあったし、ほんとに限界が来てしまったんだろう」とおっしゃっていました。
そして映画が完成した後、監督とその奥さんと一晩夜明けまで過ごして、彼女の人生をすべて洗いざらい語りつくしたんですって。
自分の人生の証人が欲しかったのかな。。。なんて思いました。

そんな苦悩がいっぱいだった彼女でしたし、映画で観る表情にも役柄とは言え、ほんとに深い憂いと苦悩があって、そしてその演じる才能の昇華で、とても洗練されたものに仕上がっています。
睡眠薬を飲むシーンなんて、彼女のその苦悩、息子さんの死の直前演じたものとは知らないで観ていたのですが、日常でもそんな風に摂っているのかなと、ふと思わせる迫真性もありました。

監督さんもおっしゃっていたのですが、美しい無垢な瞳は、彼女が鋼の女性ではなかったことを表していますし、その揺れやはかなさが、気持ちの奥を見せてくれるがゆえに、映画としても完成度が高いんでしょうね。

テーマにはナチスドイツ時代の苦しみが描かれています。
私はドイツにいるので、なんとなく当時のドイツとかナチスとか想像できます。
ドイツ人と一般化して言ってはいけないけれど、どこか固くなで思い込んだらすごくやり通すっていう、そういう強靭性があると思っているから。
それをどこに活かすかなんですけれどね。

私はフランス女性、女優さんの佇まいが好きで、今までドイツ人女優さんを好きだと思ったことがないのですが、この映画、サン・スーシの女でのロミー・シュナイダーって好きだなと思いました。

二役を上手に演じているし、役の中で養子のような存在だったMaxを見る目もほんとに優しい。。。
たった一人の息子さんを亡くした後、どんな思いでこんなシーンを演じたんだろう。。。

この映画を通して、一人の素晴らしい女優さんを知ることが出来て、あのナチスの時代、善き人もそうでない人も、両方いたのだという、そんな事実を改めて考えてみます。

これは復讐というか、あ、でもその言葉は合わないでしょうか、もっと「個人の正義」ということの方がぴったりかもしれないですけれど、ユダヤ人でお父さんを目の前で殺され、自分も足を痛めつけられた男の子が、その状況を救ってそれ以降実の子のように世話をしてくれた夫妻を巡る、彼の正義を果たした物語なんです。

後年の成人したMaxを演じた俳優さんも、すごく良かったです。彼も有名な俳優さんで、ミシェル・ピコリ。

悲しい映画だけれど、演技で昇華された素晴らしいものは、心に深く響くなと思った夕べでした。

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