見出し画像

埋まらない

飲み会の帰りだった

つまらない上司との飲み会を日付が変わる前までに抜けるために
「私シンデレラだからもう帰らなきゃ」
こんなクソつまんないボケをかまして足早にお店を出る

時刻は23時32分
あと30分弱で魔法が解けてしまう
そんな頃合だった

そしてそのまま早足で階段を下りる

「○○に停まってるから」

一通の通知がなる

「了解です!どの車ですか?」

そう送ると

「1689」

無造作に車のナンバーだけが送られてきた

「あった、この車か」
そう思った時相手は「あ、こいつが」くらいに思っていたんだろう
なんて言ったって初対面なのだ
初めての出会いが私の飲み会の送迎
どんな出会いだよとツッコまれれば私もそう思うと答えるだろう

車に乗りこみお互い「初めまして」と挨拶を交わす
二重ぱっちりの素敵な笑顔の男の子だった

車に乗るなり水とお茶どっちがいいですか?
そう言って差し出してくれる
気が利くいい子、そんな印象
きっと優しくてみんなに好かれるのだろう
そう思った

家まで送って貰うはずだった

「もう少しお話したい」

君が恥ずかしそうにそう話すから

「公園で少しお話しようか」

なんて思ってもないことが口から出た

それから沢山色々なことを話した
家のこと学校のこと仕事のこと
楽しかった色んなことを知った

「朝まで一緒にいませんか?」

君が真剣に話すから

「どこで朝まで潰すの?」

こんなこと言ってイタズラに笑ってみた

「どこか部屋空いてますかね」

君が顔を赤くしながら言う

こんなやり取りをしながらホテルに入った

あぁ、また何かを失うんだろう
そんなこと考えていた
君のことなんかひとつも考えてない
自分のことしか考えられていない

「ごめんね」

心の中で静かに謝ったのは君には伝えない

「でも、こんな関係だけは嫌だ」

そう君が話す

「ここから始まることもあるんじゃない?」

思ってもないことを口から吐く

「そうかもしれないね」

君が笑顔でそう話すから
私は目をそらす

君の一番にはなれないし、私の一番にもなれないと小さな声で呟いた
君には聞こえないように

今夜も私は何かを失う
そうして心に穴だけが残った

いつまで経っても埋まらない
何かで満たそうとしても
いつまでもずっと大きな穴があいただけだった

この記事が参加している募集

#noteでよかったこと

48,124件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?