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あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-4

(4)あすかさんの秘め事

ここのところのあすかさんは少し様子が変だ。
クリームくんにそのことを話してみたのだけど
「おなかすいているのかなあ」だって。

色々なことに気がつくはずなのに、
こういう変化に疎いところが男の子だ。

夕方、お店を閉めた後に、
どこかに出かけることがある。
商店街の寄り合いだったら
お化粧なんてしないのに
鏡とにらめっこしてから出かけてく。
私に何か聞かれないように、そそくさと。

あすかさんは恋をしているんじゃないかと思う。
ううん、きっとそう。
何だか少しだけ緊張したような顔はきっとそう。

一体、相手は誰なんだろう。
この前、クリームとあんこのたい焼きの
どちらが良いか聞いてきた女の子の彼氏?
ううん、あすかさんはそんなことはしない。
確かに仲直りしてふたりで来た時に見たら
イケメンだったけど…。

商店街の寄り合いにくるのは、ふじえさんと
同じくらいのおじいちゃんばかりになって、
跡を継ぐ人がいないお店も多いんだって。
昔に比べると、この商店街は活気が無くなった。
少しずつシャッターをおろすお店も増えてきた。

いつかはあすかさんもお嫁に行っちゃうのかなあ。
そしたらいろり庵も閉めちゃうのかなあ。

そんな風に考えているうち、
恋のキラキラした想像よりも
どんよりとした気持ちがせり上がってくる
感じがした。
たい焼きに入った時におされたみたいに
気持ちがぺしゃんこになる気持ちがした。

◇◇

今日もあすかさんは出かけていった。
いつものように少しだけ緊張した顔をして。

しんとした閉店後のお店のなかで、
クリームくんがいつものように
「おやすみ、あんこちゃん」
と言って、すぐに眠り出した。
いつもならかわいい寝顔って思えるけど、
あすかさんがこうして出かけた日は、
少しだけ憎らしく見える。
ごめんね、クリームくんは悪くないのにね。

考えているうちに、私もいつの間にか
クリームくんの横で眠ってたみたい。

いろり庵の裏手のドアが開く音がして、
私は起きた。
いつもならすぐに2階に上がるのだけれど、
お店の奥のふじえさんの部屋に
行ったみたいだった。

こっそりと覗き込むと、ふじえさんの
お仏壇に手を合わせてた。
どんなことを話しているのだろう。
何か進展があったのかしら
・・・まさか、結婚?
あすかさんには幸せになって欲しいけれど、
いろり庵がなくなってしまうのは嫌。
複雑な想いが入り乱れて、胸のあたりの
あんこが擦れる感じがして
思わず目を瞑った。

息を小さく吐いて目を開けると、
あすかさんが静かに泣いていた。
顔は見えないけれど、肩を震わせて、
洟をすすっているから
きっとそう。

あすかさん、何があったの?
嬉しいこと?悲しいこと?
ねえ、私たちにも教えて欲しい。
だって、私たちは家族でしょう?

つづく


◇◇

あんこちゃんとクリームくんシリーズ


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