他人に爪を切ってもらうのって怖いよね

「ひぃぃぃぃぃ~~~~!!!!」
5歳の娘は、爪を切られるのを怖がって逃げまどう。
「大丈夫、痛くないよ。ママは上手だから失敗もしない(と思う)よ」

安心してもらうためにどんなに言葉を並べても、娘は一貫して、肩をすくめ身を縮め歯を食いしばる。体を硬直させて、早くこの地獄のような時間が過ぎることだけを考えているようだ。まだ自分で切れる年齢ではないし、かといって伸ばしておくわけにもいかない。それに代謝が活発だからなのか、子どもの爪は伸びるのが早い。かなりの頻度で娘は恐怖心と闘わなければならないのだ。

実は大人も怖い

私は数年前、まだ1歳だったこの娘を抱いたまま、室内で転んでしまったことがあった。もし前に倒れたら、抱いている娘が私の下敷きになってしまう。転ぶまでに1秒くらいだったと思うが、娘を守るべく私の脳はとっさに「ひざから転べ!」と指示を出した。その瞬間思いっきり床にひざを打ち付け、強烈な痛みがひざを襲った。声も出せないほどの痛みに、一歩も動けず、立ち上がることさえできなかった。私はこの時、娘のかろうじての無事と引き替えに、自分の左ひざのお皿を砕いてしまったのだ。

数時間後、仰々しいギブスで太ももからひざ下までを固定され、1〜2ヶ月間は左ひざを決して曲げないようにと言われた。曲げたら骨がくっつかず、手術が必要になるそうだ。なんとか手術を避けるため、ひざを曲げずに生活した。抱っこや滑り台を要求されると厳しかったが、日常生活はなんとか送れた。しかし困ったのが爪切りだった。ひざを伸ばした状態で爪を切るには、私の体は柔軟性がなさすぎた。昔習っていたクラシックバレエによる柔軟性は今はどこにもない。しかも今は高齢出産に伴う老いまで加わっている。とてもじゃないが上手く切れない。

どんどん伸びていく爪。でもケガをするほど伸びているわけじゃないからと、放っておいた。しかし手伝いに来てくれていた実母に、伸び放題の爪を見つけられてしまったのである。
「危ないし見た目が悪い」ということで、母による爪切りの刑が執行されることになった。怖い。思った以上に怖かった。母は洋裁と編み物を仕事にするほど手先が器用で、爪の下の肉まで切るような失敗はしないであろうことは分かっている。爪を切ってもらうのにこんな適任者はいないとも思っている。でもなぜこんなにも怖いのだろう?爪切りという刑具が爪と肉の間に差し込まれた瞬間、私は「ひぃぃぃぃぃ~~~~!!!!」と叫び、曲げてはいけないはずのひざを曲げて足をひっこめたのである。まだ完全にくっついていなかったひざの骨が神経に触り「痛い~~~~!!!!」と、再び叫んだ。

「たかが爪切りでキャーキャー言わないの!子ども産んだことに比べたらなんでもないでしょ!」などと母は言う。いやそれとこれとは違うんじゃ。私は怖過ぎて大騒ぎし、結局母にも切ってもらわず、伸び放題で完治まで乗り切った・・・

こんな経験をしたおかげで、爪切りを嫌がる娘の気持ちがよくわかる。
「早く自分で切れるようになるといいね。それまでは母が細心の注意を払って切るからね」と心の中で言いながら、爪切りから逃げる娘と格闘している。

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