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奏送の在宅医

在宅診療クリニックを立ち上げて1年がたった。
私自身は生来が無精者気質にもかかわらず、まったく正反対の性格の夫にレールを敷かれるがまま、目の前のお勤めに精一杯の毎日でなんとかここまできた。

10年前に弟の闘病と別れを経験し、医師としても家族としても未熟さを感じて以降、子育てを理由にして、最前線からは遠く離れ、細々とパートタイム勤務で在宅診療を続けていた。当初は在宅診療の世界は未経験だったにもかかわらず、前職のクリニックの院長先生やベテラン看護師さんたちにあたたかくご指導いただきながら、10年を節目に独立のはこびになったというわけだ。

現在、当院の在宅診療でかかわっている患者さんは半分以上が癌の終末期の方である。抗がん剤などの積極的治療中の方から、看取りを視野に症状緩和をおこなっている方もいて、療養場所もご自宅だったり施設だったり、40歳代前半の若い世代から90歳代の超高齢の方まで、十人十色の背景をお持ちの方たちの診療にあたらせてもらっている。

夫婦で24時間365日の診療体制にも、4人の子どもたちも受け入れてくれたようで、義両親に毎日助けてもらいながら、たくましく育っていると思う。私自身の変化としても、元来酒好きで、産後すぐにでも欲していた酒も、しばらく飲まなくても気にならなくなった。

大事な人生の局面に関わらせていただいている、という意識は以前より強くなったと思う。ただ、自分でも引くくらい怖がりで痛がりなので、自分自身が同じ境遇になったとして「絶対に苦しい思いをしたくない」という思いが原動力になっているのが本音だ。そんなわけで、なるべくその方らしく過ごせる時間を少しでも長く続けていけるように診療にあたっている。

最近、「葬送のフリーレン」という漫画がテレビアニメでも放送されている。勇者モノはあまり詳しくなかったが、「人生の転機となった出会いと別れを追体験し、大切な人を想い送っていく」という展開に引き込まれた。もともと他者との関わりに依存しなかった主人公の魔法使いであるエルフ・フリーレンが、少しずつ人との関わりの大切さに気付き、過去の出会い(特に稀代のイケメン勇者ヒンメル)を見つめなおす様子に、毎週涙なしには視聴できないほどハマってしまっている。映像も主題歌も世界観がマッチして本当に美しい。

ヒンメル(ドイツ語で「天国」だそうだ)が待っているのかどうかはわからないけれど、私たちが関わる人たちが、少しでも良い時間がすごせるようにこれからも微力ながら手助けしていきたい。

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