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不信感を持ったお客様と接する時の二つの心構え

先日はクレームの存在しない職場環境というテーマで語りました。

接客業では、クレームではなくとも、お客様の期待に添えず、不信感を抱かれるケースは多かれ少なかれ存在します。
今日は不信感を抱いたお客様に対して、どのような心構えで対応をしたらいいのか?
という問いに対して、私の経験をシェアします。

この心構えを意識してみたら、お客様の負の感情をポジティブに変換することができるかもしれません。


不信感が起こるのはいつ??

私は、界 玉造という老舗の温泉旅館で働いています。
老舗とはいっても、昭和の10年代に創業した旅館から、2011年に星野リゾートが運営を引き継いでいます。

宿泊体験を提供する旅館業は一般の接客業の中でも特殊かもしれません。
お客様との接点(タッチポイント)を大きく分けると、以下の4つの場面に分かれます。

・チェックイン お出迎えからお部屋の案内
・夕食サービス 会席料理のため、1.5〜2時間程度
・朝食サービス
・チェックアウト 精算からお見送りまで

この中でも、お客様が不信感を抱くことが多いのが、チェックインの時。

想像してみてください。
数ヶ月前から楽しみにしていた旅行。
宿泊先をホームページや口コミなどの情報を収集し、ワクワクしながら当日を迎えます。
しかし、到着した時に思います。

「写真と違うじゃん…」

このように、事前の期待値が高く、到着時に残念な気持ちになるケースがあります。
それ以外にも、予約時に不手際があり、到着時からご立腹の方もいらっしゃいます。

統計を取ったわけではないですが、肌感覚的に、お客様からのご苦言をいただくのは、チェックイン時が全体の6-7割くらいだと思います。



さてチェックインでトラブルがあった場合。
不信感を持つお客様をフォローしやすいのが夕食の時。
通常1.5時間程度の会席料理の間では、お客様とゆっくり時間を取ることのできるので、この間にお客様の気持ちが和らぐことも多いです。

そこで、チェックインと夕食の2つのケースでの心構えをご紹介します。


チェックイン時の心構え

チェックイン時にお客様が不信感をお持ちの時には、
とにかくお客様の主張に寄り添うことが大切です。
一度感情的になられた方には、(仮にこちらに落ち度がなく)こちらの正当性を主張しても、お客様の心には届きません。

とにかく、冷静になっていただく時間が必要なので、
言い訳をするでなく、お客様の言葉に耳を傾け、謝罪をする。

ただ一つ注意が必要です。
謝罪といっても、
お客様に不愉快な思いをさせてしまったこと
に対して謝罪をします。
お客様の中には、こちらの不備でないことも理不尽に主張してくる方がいらっしゃいます。
全てに対して謝罪をする必要はありません。
とにかく、今お客様が「困ってらっしゃる」その状況に対して、丁重に謝罪をするのです。

そして、次お客様の対応をする夕食担当のものに
・ここまでの経緯
・どういった説明をしたか?
・お客様がどのような反応をされたのか?
・何かアクションが必要か?
といった内容をしっかりと引き継ぎます。



夕食サービス時の心構え

続いて、夕食担当として、不信感をお持ちのお客様を担当した時にどうするか?
一旦、チェックイン担当者からしっかり引き継ぎます。
疑問点などあれば、担当者に直接確認をします。
ここは本当に丁寧に。
お客様の表情が思い浮かぶくらいまで想像力を膨らませます。
そこからのお客様への対応は…

あえて何もしないです。

え?
と思われた方も多いかもしれません。
しかし、私なりの結論として、これが一番効果があると感じています。

チェックインの際に、気持ちが高ぶった方の気持ちになってみると、
「せっかくの旅行が台無しだ!」
と思われているかもしれません。
「この後も何かあるんじゃないか?」
と不審の目で我々のことをみられるお客様もいらっしゃる。

しかし、お客様の本当の目的は何か?
粗探しをすることではありませんよね。
楽しい旅の思い出を作ることではないでしょうか。

ですので、可能な限り楽しい思い出になるように、
お客様の旅の夕食をしっかりと演出します。

つまり、何らかの形でお客様が不快な思いをしていようと、
しっかりと自信を持って、最高の夕食を提供する。
これは、結構、心の鍛錬が必要です。
悪いかも…なんて思っているとできません。
顔も引き攣ってしまいます。

しかし、あくまで夕食は夕食。
その時間をしっかり楽しんでいただきましょう。

そうすると、気づくことがあります。
人はお腹が満たされると感情が落ち着く、ということ。
先ほどまで怪訝な表情をされていたご主人も、お酒も入って、気づいたら上機嫌におしゃべりをしていることもあります。
ですので、私たちが注意すべきは、いつも通り、いつも行っていることをするだけなのです。



思い込み通りに相手は振る舞う

アメリカの心理カウンセラー、レス・ギブリン氏は著書の中でこんなことを語っています。

人間関係の分野で最も確実に言えるのは、相手が好いてくれないと思い込んでいると、その信念を実体験しやすいということだ。
しかし、もし相手が好いてくれると確信すると、その信 念は現実になる公算が大きい。

レス・ギブリン著「人望が集まる人の考え方」

簡単に言うと、自分が思った通りに相手は振る舞うということ。
こちらがこのお客様は怒っているな、と思って接すると、お客様は怒ったお客様を演じます。

上記のケースでは、
「お客様はいろいろあったけど、この旅館での滞在を楽しみにこられているんだ。夕食もご当地ならではの工夫を凝らした食事を堪能して、温泉旅行にきてよかったな、って帰宅後に思い出したいだろうなぁ。」
そう思い込んで接してみると、よほどの不信感でない場合、大抵はお食事を楽しんでいただけます。

思い込みの力、ぜひ試してみてください。


以上、本日は不信感を持ったお客様に接する時の心構えについてでした。
気持ちを害したことを丁重にお詫び、いつも通りのサービスを丁寧に行う。

当たり前のことかもしれませんが、なかなかできることではありません。
私もとても時間がかかりました。
特に思い込みをするには、自分にそれなりのスキルや知識があった上でないと不安になってしまいます。
しかし、これを乗り越えた先には何が待っているでしょう。

先ほどまでどんよりと沈んだ顔をしていたお客様が、
満面の笑みでこれからの旅に期待を感じながらお部屋に戻っていく姿…

それは、全身を充実感でたっぷり満たしてくれる、最高のプレゼントになることでしょう。


おもてなし産業をかっこよく。
あんでぃでした。



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