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【逗子・葉山 海街珈琲祭vol.3】「inuit coffee roaster」は、「みんながコーヒーを持つ」提案で暮らしに彩りを与える

葉山に遊びに来た人は、電車を降りて逗子からバスで向かう人がほとんど。ほんの少しの「行きづらさ」が葉山独特のカルチャーを育てていて、逗子ともまた違う凛とした空気が流れている。

そんな葉山には、いくつかのコーヒー店が程よい距離感で並ぶ、珈琲ストリートとも言える海岸通りがある。その入り口でまず迎えてくれるのが、「inuit coffee roaster」である。焙煎屋らしく前面に大きな焙煎機が配置されたファクトリー感溢れる店内では、煎りたてのコーヒーの香りと、物腰柔らかくて優しい乾さんご夫婦が待っていてくれる。

inuitロゴ(四角) (1)

情報を扱う仕事から、ものづくりを通した社会貢献としてのコーヒーの道へ。

「元々広告代理店で営業やマーケティングの仕事をしながら、打ち合わせの合間に何杯でも飲めるくらいコーヒーが好きで」

元々は学生時代にこのエリアで海の勉強をしていて、昔も今も海が好き。そんな乾さんは、将来海の近くで働く自分を想像しながら、東京でサラリーマンとして働いていた。
日々の中で、自分はどのような仕事をしていきたいんだろうと考えることが多くなる。海の近くで暮らしたいけれど、今の会社で働きながら地方の支社に移るイメージは、キャリアのステップとして持てなかった。

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「それで会社を辞めてふらっと海外を1年くらい放浪していた時に、発展途上国支援のNPOに参加して、社会貢献もできる仕事をしたい気持ちが高まりました」

心に浮かんだのは、どれだけ飲んでも胸焼けしないと言うほど好きだったコーヒーの仕事。発展途上国で生産されるスペシャリティのコーヒー豆を扱うことで、現地の方々の働き方の支援、そしてコーヒー自体が特定の育て方をすることで周辺環境に好影響を与えることに着目した生物環境に対しての支援、までを含めてやっていきたいと思った。

情報という大きくて形のないものを扱ってきた乾さんは、最も身近だったものづくり・社会貢献の側面を併せ持つコーヒーの焙煎へと傾倒し、これまでとは全く異なるキャリアを切り開いていくことになる。

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「今までの仕事とは180度違うようなものづくりへの想いがありました。コーヒーを焙煎してつくる側に回りたかったんです」

準備期間として次の会社に転職して働きながら、週末に世田谷の堀口珈琲に通ってコーヒーを学んだ。現在は見事取得したQグレーダー(米国スペシャルティコーヒー協会が定めた基準・手順にのっとってコーヒーの評価ができる認定技能者)の勉強もそこでしながら、舌を鍛えて自信をつけていく。週末にお店でも、平日に家でも、ひたすらにコーヒーを飲み続け、ここが美味しい、ここが美味しくない、この豆はどう焼かれているのかと研究しながら、少しずつ自分の好きなコーヒーの味を見つけていった。

「思いの他お金も貯まらなくて、オープンまで10年もかかっちゃいましたけどね(笑)」

長い歳月を経て、ついに「inuit coffee roaster」として葉山の街で新しい人生を歩み出す。

暮らしの中で身近にコーヒーがある環境をつくるお手伝いがしたい。

お店のオープンは2年前の2017年。葉山や逗子でテナントを探す中で、葉山で飲食店をしている友人が「隣空いたよ」と教えてくれたことがきっかけで、この場所に決めた。

店名は自分の名前からのダジャレ。店名が決まるとそこからシロクマのイラストイメージに広がった。可愛らしいシロクマが目印だ。

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「サラリーマンの頃、1日に何度もコーヒー店に行ってたんですけど、やっぱりお金もかさむし安いチェーン店に行くしかないのが何か違うなって思っていて」

良いコーヒーを継続的に楽しむ、その意味の大きさや難しさを原体験として持っていた。思いを巡らせる中で乾さんがたどり着いた考えは、良いお店ということはもちろん、それ以上に良い焙煎屋であることだった。

「良いコーヒーを、経済的に無理なく楽しむために。豆を買って自分で家で淹れる、という習慣を作ることができたら嬉しいと思っています」

だからこそ、ドリップの際の工程も慣習には囚われず極力シンプルにし、このお店を訪ねてくれる人たちに伝え続けている。もし大変だったらフィルターも事前に濡らさないで大丈夫です、毎日のことなんだからお湯の温度も厳密に合わせなくても大丈夫ですよ。もちろん豆に合ったオススメの淹れ方はアドバイスするけれど、コーヒーはもっと気軽なもので良いはずだから。

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「日本には欧米以上に家でコーヒーを淹れる文化があると思う。だからドリンクとして出す以上に、豆として暮らしに取り入れてもらうことが、豆の生産者に対しても流通の可能性を広げることになるはず」

自分の好きなスタイルで美味しいと思うコーヒーを楽しんでほしい。コーヒーに対する情熱と、敷居を高くしない親しみやすさを兼ねる乾さんには、何でも相談したくなってしまう。

豆の特徴を残した深煎りという焙煎士としての腕の見せ所。

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「持論ですが、浅煎りと深煎りは好みで異なる違うコーヒーなのかなと思う。同じものとして比較するのでは無くて、それぞれの良さがあって、どちらも楽しめれば良いと思う」

「inuit coffee roaster」では、幅広く焙煎した中で、その中でも基本はご本人の好みにも合う深煎りに寄せている。3種類のブレンドや世界各国のシングルは、深煎りにしても豆本来の個性を失うことなく、艶やかさ、コクの深さ、フルーティーな酸味がバランスよく表現される。余計な苦味が少なく、深煎りなのに確かに酸味も鮮やかに感じられる、印象的でそしてほっとするコーヒー。

普段飲んでいる深煎りのコーヒーともきっと一味違う、その味はぜひ海街珈琲祭で楽しんで欲しいと思う。

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「百貨店に出させていただいたり、卸も増えてきたり、少しずつですが自分のつくった豆が広がっているのが嬉しいです」

コーヒーの焙煎所として活動を広げていきたい想いから、豆の卸にも力を入れ始めているという。葉山の「海のホテル」にも卸すなど、2年間で着実に地域にも根付いてきた。その人柄も合わさって、乾さんのコーヒーを置きたいという人たちが、今後も逗子や葉山にも増えていくはず。

「今まではあまり繋がれなかった近くのコーヒー店とも会えるのが僕たちも楽しみ。海街珈琲祭がコーヒーと暮らしを近づけるきっかけになると良いですね」

すっかり日が落ち帰路につく私たちを見送ってくれる2人。「inuit coffee roaster」の豆を家で自分のスタイルで楽しむ日常は、きっと今より穏やかで優しいものになるはず。家でコーヒーを楽しむ文化を、海街珈琲祭をひとつのきっかけに、これから「inuit coffee roaster」がつくっていく。

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inuit coffee roaster
住所:〒240-0112 神奈川県三浦郡葉山町堀内387
営業時間:[平日]11:00〜18:00 /[木〜金]7:00〜18:00/[土・日・祝]9:00〜18:00/水曜日、第2・第4火曜日定休
※9:00–11:00はコーヒー豆販売とテイクアウトのみ
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inuit coffee roasterの絵も描いていただいた、林靖博(Rainy)さんのイラスト展示ブースもお楽しみに!


今回の海街珈琲祭では、台湾人アーティストの林靖博(Rainy)とのコラボ企画で、出店全店舗のイラストを描いていただいています。
11月16日には原画の展示もありますので、ぜひお楽しみしていただけますと幸いです!

イヌイット

取材 / 写真 / 文 : 庄司賢吾・真帆(アンドサタデー 珈琲と編集と)

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