【逗子・葉山 海街珈琲祭vol.9】「Dark Arts Coffee Japan」は、自分たちの信念を、コーヒーに乗せて葉山の街に伝えていく
逗子にほど近い、長柄交差点の近くに佇む黒い外観のコーヒー店。ヤコポさん、マヤさんのオーナーご夫婦と、アキさんの3名による「Dark Arts Coffee Japan」。逗子にも葉山にもファンが多く、街の中で大きな存在感を放っている。
圧倒的に強い世界観を持ちながら、ゆるやかな葉山の街と調和しているこのコーヒー店は、強い信念を持って自分たちの好きなコーヒーを伝え続けていた。そんな「Dark Arts Coffee Japan」のストーリーを、ぜひまだお店に行ったことのない人にこそ伝えたい。
ロンドンの古着屋さんからはじまる、海を渡るストーリー。
「私たちの古着屋に、「Dark Arts Coffee」本店のオーナーが常連で来てくれてたんですよね」
もともと、ロンドンで7年ほどお店を営まれていたヤコポさんとマヤさん。1階にアンティーク家具、2階には古着。おふたりのこだわりのセレクトやオリジナルアイテムが置かれたお店で、古着屋の多いロンドンの中でも愛されるお店だった。
そんなお店の常連さんの一人が、「Dark Arts Coffee」本店(ロンドン)のオーナー。ヨーロッパの中でもカフェの多いロンドンで、「Dark Arts Coffee」はその世界観で異彩を放つ存在だった。当時は焙煎のみだったが、ちょうどカフェを併設することに決めた2014年、ふたりのお店を気に入っていたオーナーさんから声がかかった。
ヤコポさんがカフェスペースの内装を手がけることになったご縁から、お客様と店員だった関係は、仕事仲間へと変わっていった。
「その後3年くらいはロンドンにいて、そこでの忙しない生活にも少し疲れてきたところもあったから、次は日本で挑戦してみようって」
2017年、娘さんが小学校に上がる前に日本への帰国を決めると、「Dark Arts Coffee」側から「日本でお店をやらないか?」と打診を受けた。
そこから1年、ヤコポさんはロンドンでコーヒーの勉強を、マヤさんは日本で物件探しなど開業準備を進め、ヤコポさん合流後の2018年6月に、ついに「Dark Arts Coffee Japan」をオープンすることになる。
葉山の空気にアジャストさせた、ロンドンの風景。
「本当は、焙煎だけ、卸だけやりたかったんです。ただ、葉山という街の中で、このコーヒーの美味しさや私たちの表現したいことを伝える場が必要でした」
日本に戻ってから焙煎機を導入したのは翌年1月。それまではロンドンの本店からコーヒー豆を仕入れつつ、本店のスタッフに指導を受けながら焙煎の勉強を重ねていく。街の人にコーヒーの味やお店の雰囲気を知っていもらうためにも、カフェの設えも整えた。
元々ピザ屋で働いていたこともあったというヤコポさんがフードを担当。自家製パンのサンドイッチはヤコポさんの考案。撮影の合間にいただいたが、香り高いパンに、濃厚なソースが肉厚な具材に絡まって、腰を抜かすほどの美味しさだった。
「生まれ育った町で、自分の過ごしたロンドンの街の雰囲気が、再現できたら」
葉山に決めたのは、マヤさんのご実家が葉山だったから。ずっとシャッターが閉まったままだった今の物件を尋ねると、中には元々車屋さんだったという無骨な内装。まさに思い描いていたサイズと雰囲気だった。
「ロンドンの時のお店の一角を、そのまま持ってきた感じなんです」
ハイセンスな古着も店内に置かれ、「Dark Arts Coffee」の表現を完成させている。コーヒーを飲みながら、古着にも触れられる。足を一歩踏み入れたら、ロンドンのカルチャーを感じさせてくれる別世界が広がるこの場所は、ここが葉山であることを忘れてしまうほど。
日本での開業にあたりバリスタスタッフを募集したところ、一番に応募してきたのがアキさんだ。
アキさんも以前はロンドンに住んでいて、昼はカフェ、夜はバーテンとして働いていた。コーヒー自体の歴史や背景、生産者さんや加工方法に至る一連の流れにまでロマンを感じるという。そんなアキさんが、丁度ビザの申請に日本に一時帰国していたタイミングで、「Dark Arts Coffee Japan」の求人を見つけた。
元々「Dark Arts Coffee」のファンだったというアキさん。「これだ!と思って飛びつきましたね。単純にめちゃくちゃ美味しいここのコーヒーが大好きだったから。」このブランドで無かったらロンドンに戻っていたというほどの熱い想いを持ちながら、今はこの場所に無くてはならない存在となっている。
3人それぞれの嗜好や想いが、カフェの空間内で交差する。
家具や装飾、食器やカトラリーまで、とにかく好きなものばかりを集めた。ロンドンとは違う、日本のレトロなデザインのものも集めてレイアウトした。
「不思議な空間でしょ?はじめは葉山っぽくないってよく言われました(笑)」
打ち出されるその世界観から、最初は入りにくいというお客様も多かった。しかしそんなお客さんも実際に一度足を踏み入れると、何度も通ってくれるように。面白いことに、子育て世代の親子をはじめ、ご年輩層の常連客も多い。お隣の眼鏡屋さんの帰りや習い事の帰りに、ふらりと立ち寄ることができるコーヒー店。
「葉山の街の一部になってきた感覚はあります。みんながそれぞれ居心地よく過ごしてくれたら、この街に戻ってきた意味があるなって」
洋服が好きな人、音楽が好きな人、バイクが好きな人。本場ロンドンでは圧倒的にバイカーの多いお店であったが、ここ葉山ではお客さんも多種多様なのが面白い。お客さん同士が共通の趣味やカルチャーで繋がっていくのも、場を持った良さだったと語ってくれた。
自分たちのコーヒーに対する、絶対的な信頼と自信。
「自分たちのコーヒーが本当に美味しいと思ってるから、それを少しでも多くの人たちに広めたいんです」
ロンドンでは主流だった浅煎りのコーヒー。でもこの葉山では、まだこの味に慣れていない人たちも多かったという。
「深煎りはないの?と聞かれることがあって、でも浅煎りの良さを伝えて飲んでもらって。今では「こっちのコーヒーの方が美味しいわね」と言ってもらえるまでになったんです」
「Dark Arts Coffee」の取り組みが、葉山のコーヒーカルチャーを、街の景色を、少しずつ変えはじめている。
「ロンドンでカフェが街の暮らしの一部だったように、ここ葉山でも私たちがそんな存在になれたら嬉しいです」
「Dark Arts Coffee」のスローガンも日本に合わせて調整を加え、より受け入れやすいように取り組んでいる。圧倒的な独創性を持つブランドを、この街で広く伝えていくために。この美味しいコーヒーを、一人でも多くの人に飲んでもらうために。
「地元であるこの街が大好き。海も自然もあって、ゆったりしている。この場所で、コーヒーカルチャーを広げられるように、自分たちのスタイルは信じて曲げずに取り組んでいきたいです」
『飲めば直ちに血となり精力となる』
スローガンやロゴや外観が持つソリッドなイメージとも少し違う、親しみやすくて熱い想いを持った「Dark Arts Coffee Japan」の3人。熱心に丁寧に、こちらの取材に答えてくれた。
「Dark Arts Coffee Japan」が、葉山のこれから10年のコーヒーカルチャーをつくっていく、そんな未来を見たいと思った。
Dark Arts Coffee
住所:〒240-0113 神奈川県三浦郡葉山町長柄29
営業時間:10am to 6pm Tues to Sun 定休日:月曜日
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Dark Arts Coffeeの絵も描いていただいた、林靖博(Rainy)さんのイラスト展示ブースもお楽しみに!
今回の海街珈琲祭では、台湾人アーティストの林靖博(Rainy)とのコラボ企画で、出店全店舗のイラストを描いていただいています。
11月16日には原画の展示もありますので、ぜひお楽しみしていただけますと幸いです!
取材 / 写真 / 文 : 庄司賢吾・真帆(アンドサタデー 珈琲と編集と)
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