【逗子・葉山 海街珈琲祭vol.8】「三角屋根 パンとコーヒー」は、毎日食べたくなるパンと、毎日飲みたくなるコーヒーで、シンプルに暮らしに寄り添っていく
葉山の海岸通り、その中ほど。海からの風を気持ち良さそうに受ける、白い三角屋根のコーヒー店がある。丸くて可愛い窓、木の温かみのある扉。その全てが愛くるしいデザインでまとめられている。
ここが、「三角屋根 パンとコーヒー」
オープンから瞬く間に街のシンボルとなり、今ではすっかり海岸通りの顔となった。平日でも休日でも、いつ覗いてもたくさんの人がここで時間を過ごしていて、一道さんと裕佳さんがつくるこの空間は、街にとって無くてはならない場所となっている。
シンプルを丁寧に。難しいことなんてしなくてもいい。
「葉山に遊びに来た時に、感覚的にこの街で暮らしたいと思ったんです」
葉山に流れる空気のように、穏やかで落ち着いた雰囲気を纏う2人。4歳のお子さんと、自宅兼店舗の三角屋根で暮らし働いている。テナント選びの際には東京でも探したが、選択肢も多くてどうしても決め手に欠けた。そんな時にこの街にたまたま遊び来た時、裕佳さんが直感で決断したという。
そんな2人の出会いはコーヒーとパンの専門学校時代にまで遡る。卒業後はそれぞれ自分ができることを考え、一度は別の道に。一道さんがコーヒー、裕佳さんがパンの道を選び、経験を積み上げ、数年後にその道が一本になる。
2人でできることはないかな。それだったらコーヒーとパンがあるお店をやればいいかもね。一緒にやるんだったら結婚しなきゃおかしいよね。
それぞれの描いていた夢が重なり合い、いつしか自分たちのお店をつくる計画が具体的になっていった。
「学生時代の最初の方にあったショップシミュレーションの授業で、私が発表した外観イメージが、三角の屋根を持ったお店だったんです」
そんな運命的な偶然も重なった裕佳さんに、イメージの根元を聞いてみると「三角屋根が好きだっただけ」。某CMの森の中に立つ家が好きで、近いイメージを描いていたと、ふわっと答えていただいた。こんなに素敵なお店のオーナーなのに、ふわりとした柔らかさがより一層魅力的に映った。
「設計士にコンセプトを聞かれた時にも、「特にありません」って答えていたんですよ(笑)」
それでも、テーマカラーだけは決まっていた。
2人の結婚式で使った、黄色と白とグレー。
広さも2人でまわすことができるサイズ感のお店と決めて、2人の夢だったお店を、2人で大切につくっていく。
「コーヒー店の利用の仕方って人それぞれじゃないですか。だから誰にでもどういうシーンでも、使ってもらえる色んなパターンがあるお店になるようつくりました」
一人で来た時のカウンター席、くつろぎを求めている人に庭を眺められるロッキングチェア、人数に応じて使えてお客さん同士も繋がるロングテーブル。コーヒー店を利用するあらゆるシーンを想定しているから、この場所に来た誰もが自分の居場所を見つけることができる設計がされている。
全体設計から細部の造作まで、一切の妥協がないお店づくり。その完璧さは、その場所で過ごす人の立場で考えられた隙の無さだから、独りよがりでもなく十分な余白を持って街に受け入れられた。相性抜群のコーヒーとパンのように、2人の纏う空気感も調和され、そのまま場が持つ光の温かさやゆったりとした席の配置などで表現されている。
「パンもコーヒーも、複雑なものは出さなくて、シンプルを突き詰めてみんなにとって美味しいものをつくることには決めている。味が想像できるけれど、食べた時にその想像を超えるようなものを」
シンプルに、難しいことはしない。三角屋根では、今日もそのことだけを突き詰めている。
美味しいパンと美味しいコーヒー。シンプルだけど最強の組み合わせ。
「知らない土地で不安で夜も眠れない日もありましたが、やれるだけの準備はやりきりました」
そして迎えたオープン初日。
「告知もほとんどしなかったからゆったりだろうねと朝シャッターを開けたら、行列ができていたんです。驚いちゃって。パン全然足りないし(笑)」
三角の屋根を持つお店の圧倒的な可愛さ、それがそのまま街からの注目に変わっていた。仕込んでいたパンがすぐに足りなくなるほどの盛況で、読みも準備も甘すぎて大失敗だったという。それと同時に、2人でつくってきたものが間違っていなかったと、大きな自信につながる。
ずっと気になっていた、気になる可愛いあのお店は、あっという間に葉山で暮らす人にとって、生活の中の一部となっていった。
もちろんそれだけではない。遠方からもこの三角の屋根を目掛けて、多くの方が訪れる。旅の一つの目的地にもなり、葉山の記憶として、たくさんの人が持ち帰っていく。その思い出が他の誰かに共有され、また次の誰かが今日もこのお店を訪れていく。
あっという間に人気店となった「三角屋根」は、今では多くのスタッフを抱え、たくさんの人のくつろぎの場となっている。どんな時に来ても大きな懐で迎え入れてくれる安心感が、「三角屋根」が街から愛される一つの理由と感じた。
「うちの奥さんがコーヒーを飲めないので、それでも美味しいと感じるさっぱりして飲みやすい味を出そうとしています」
元々、裕佳さんが美味しいと言ったコーヒーを出していたお店に、その秘密を知るために働きに出るほど、裕佳さんの感覚を大切にしている一道さん。
三角屋根のコーヒーは全て、一道さんが独学で学んだもので、毎日でも飲みたくなるようなコーヒーだ。扱う種類も多く、エスプレッソとオリジナルブレンドでアフターミックスする前の豆をシングルでも出している。シンプルだからこそ、パンにもコーヒーにもぴたりと合って、その味わいを何倍もの感動に変えてくれる。
「うちのパンは王道のものばかり。その中でいかに美味しいと言ってもらえるものをつくれるか、を考えています」
裕佳さんが今でも基本一人でつくっているパンは、柔らかく優しく安心する、毎日でも食べたくなる味。葉山の人たちからもその味わいが支持され、日常に寄り添うパンとしてたくさんのファンがいる。
変わったことはせず、シンプルを突き詰めて、他のどのパンとも違うこのバランスを出すことが、どれだけ難しいことなのだろう。
そのしっとりとした口どけは、ぜひ海街珈琲祭でも味わって欲しい。
「このコーヒーとパンを、毎日でも楽しんでもらえるよう、2人でそんな味と、そして空間を目指していきます」
取材が終わり、ふと目に止まるのがお店の奥に飾られている2人をイメージして描かれたイラスト。そこにはコアラとカワウソが描かれている。その2匹は、2人と同じように優しい雰囲気で微笑みながら、今日もお店で思い思いに過ごす人たちを、優しく見守っている。
三角屋根 パンとコーヒー
住所:葉山町堀内1047-3
営業時間:12時から17時 / 定休日:毎週月曜日・木曜日・金曜日
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三角屋根 パンとコーヒーの絵も描いていただいた、林靖博(Rainy)さんのイラスト展示ブースもお楽しみに!
今回の海街珈琲祭では、台湾人アーティストの林靖博(Rainy)とのコラボ企画で、出店全店舗のイラストを描いていただいています。
11月16日には原画の展示もありますので、ぜひお楽しみしていただけますと幸いです!
取材 / 写真 / 文 : 庄司賢吾・真帆(アンドサタデー 珈琲と編集と)
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