【編集後記2020.02.15】現代の焼き芋屋さんに学ぶ、この時代の中で大らかに生きるコツ
夏は海、冬は焼き芋。そんな生き方があるらしい。
かつては当たり前に逗子の街を走っていた「焼き芋屋さん」を、今の街に蘇らせた若い夫婦がいる。
横須賀市佐島で暮らす敦くんとアニーちゃんからなる、「焼き芋komugi」。名前の由来は、飼い猫の名前だと言う。
それぞれ仕事を持ちながら、夏場のマリンアクティビティのインストラクターという働き方に対して、閑散期である冬の時期に何が出来るか考えた。その結果、ある日突然「そうだ、焼き芋だ」と、敦くんが焼き芋販売用のトラックを買ってくる。アニーちゃんには無断で。
「ネットでめちゃくちゃ安く売ってて、もう直感で買っちゃって」
破格も破格、込み込みで15万円でジモティーで手に入れたトラックの窯の中では、葉山は秋谷の海岸で拾った流木を燃やしている。海や川、自然と共に生きてきた彼ららしい発想で、自然の恵みを活動に繋げていた。
逗子で100年続く八百屋さん「浜勇さん」から仕入れたさつまいも「シルクスイート」は濃密な甘さで、食べるとたちまち皆とろけそう。子どもたちもこの笑顔。
「子どもからお年寄りまで、焼き芋って嫌いな人ほとんどいないじゃない」
実際にこの日も、道ゆく全属性の人たちが立ち止まり、どこか懐かしい顔をして焼き芋を買っていく。店内で出した「魅惑の焼き芋アイス」も、熱くて冷たくて甘くて大好評だった。
結局80本近い焼き芋が売り切れるという、熱狂の土曜日となった。
そこはかとない、「何とかなるっしょ」という空気感。
「深くは考えてないけど、焼き芋で人が繋がる先に、何かあるんじゃないかって」
焼き芋というツールと、2人のゆるい空気感。それらがマッチしていて、komugiの焼き芋の世界観に惹きつけられていた。楽しそうなことには挑戦せずにはいられない性分で、今は焼き芋を介した人とのコミュニケーションが楽しくて仕方がない。
元々東京から船で1日かかる小笠原まで何泊も海上泊しながらカヌーで行ってしまうような、ぶっ飛んだ思考と行動力のある2人。暮らしを守る仕事は別に持ちつつ、2人で出来る活動としての焼き芋屋を思い立ってすぐに始めた。
考える前にすぐ行動。そんな生き方を字でゆく2人は(アニーちゃんがしっかりと守るところは守りながら)、この活動も全力で楽しんでいる。
しかしやはり、行動にはリスクがつき物。不安はないのだろうか。
「ないなぁ。自分の中に経験から来る基準があって、それが一つのベースにあるんだよね」
その経験とは、地方で暮らしていた時に遡る。現地の仕事で月25万円の収入があった時に、その土地での暮らし方だと、月に20万円貯金できた。視野を広げればそんな生き方だってあるんだ。様々な場所、カルチャーの中に飛び込み経験を積んで来たことが、彼らの道標となっている。
「その暮らしに100満足していたわけではもちろんないけれど、人間何とか生きていけるって分かってるからこそ、挑戦できるうちは挑戦しないと損だなって」
彼らは生き方の広い視野を持っているからこそ、逆に100の満足を実現するための挑戦を続けていく。そこに失敗などは無くて、結局、人生何とかなるのだ。挑戦して楽しんだもの勝ちと細胞レベルで分かっている。
「暮らす場所も生き方も、そのタイミングで変わっていくと思うけど、考えてばかりで立ち止まらず心の向くままに判断していきたいよね」
考えてばかりで始められないと悩んでいる人たちも、もっと俯瞰的に長いようで短い人生を捉えてみたら、今始めない理由なんてないのかもしれない。
笑顔を絶やさない2人の生き方には、視野とスケールが狭くなりがちな現代人にとって、気付きとなることがありそうな気がした。
最後に、今回の企画はお向かいで場所を貸してくれた金物屋さん「マイハンズミカミ」さんのご協力無くては実現できませんでした。ミカミさん、いつも本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
文、写真:アンドサタデー 珈琲と編集と
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