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【逗子・葉山 海街珈琲祭vol.6】「カフェテーロ葉山」は、築100年以上の古民家を舞台にコスタリカの文化を伝え続けていく

葉山の中心地に、平家で美しい日本建築を持つコーヒー店がある。なんでも中米のコスタリカの豆だけを扱う、日本でも恐らくここだけの、独自のスタイルを貫いているお店だという。全国、ひいては世界から、そのコーヒーを求めにやってくる人もいるというほどに。

ロゴがあしらわれた大きな暖簾をくぐると、自然光が木の建築に染み入り柔らかな明るさに包まれた、しっとりとした空間が迎えてくれる。悠久の時を感じさせられる、ここだけが時が止まったような空間。オーナーの大下さんは、この場所でコスタリカの文化を伝え続けている。

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コスタリカという素晴らしい国と出会った。コーヒーを通してそれを伝えたかった。

「若い頃はチリで水産食品メーカーの駐在員として働いていたんです。定年間近になってこれからどうしようと考えて、やはりこれまでの経験を通して南米のことを扱う仕事がしたいと思いました」

大下さんは数多くの経験を経て、この後の人生の使い方を考えた。日本という自分の故郷に対して、長く過ごした中南米を伝える仕事がしたいと思うのは、自然の流れだったという。

しかしその時に選んだ国は、チリではなくてコスタリカだった。チリはこの20年だけ見ても国として発展して、日本の大手企業も多く進出している。そこで個人で参入するよりも、まだ余白があったコスタリカを選んだのだった。

訪れた事もなかったコスタリカを選択をした大下さん、しかし気づいた次の瞬間にはコスタリカにどっぷりはまり込んでしまっていた。

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「元々コーヒーは全くわからなかったですね。それよりもコスタリカのことを伝えたいという想いが先でした」

コスタリカの何がそこまで大下さんを魅了するのだろう?

コスタリカに馴染みがない方も多いかもしれないが、国として環境保護を推進し、また国民の幸せを願い、1948年には軍隊を廃止してその予算を教育・医療・社会福祉に充てるという決断をしたことで、今尚世界中から平和へのモデルとされている。「コスタリカの奇跡」という映画もあるほど注目度の高いこの国に、大下さんは魅せられてしまった。

中南米として一括りにされてしまい日本ではまだまだ浸透していなかった、コスタリカという国自体を伝えていきたい。

「どう伝えようかと思った時に、国として手厚く支援をしているコーヒー産業のことを深く知るようになって、今度はコーヒー自体にのめり込むようになりました」

コスタリカでは小規模で家族単位でやっているようなコーヒー農園も多く(中央部Tarrazú地方Dota地区だけでも800ほどある)、エリアごとに生産者組合がありそこに豆が持ち込まれ加工から販売までされる。その時の売り上げの8割ほどが生産者に還元されるという、フェアトレードのスキームが完成されている。その利益で品質の改善が行われ、後継者の育成にも繋がるという、理想的な流れをコーヒー産業では実現しているのだった。

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フェアトレードだけでは無い、環境保全の推進も、大下さんが大切に伝えていることだ。

「例えばこの『Dota』ブランドの豆は、イギリスの認証団体からカーボンニュートラルの認証を、世界で初めてコーヒー生産者として取得しています」

生産過程でCO2の排出を極力おさえ、コーヒー産業全体として環境保全にも積極的に取り組んでいる。コスタリカがコーヒーを通して実現しているサステイナブルな取り組みを伝えることが、大下さんのライフワークになっていった。

日本のコーヒー業界の慣習もわからない中で、商社ではなく生産者と直接つながることを大切にした。縁あって知り合った、現地で家族で農園をやっているロドルフォさん(元々コスタリカのスターバックス仕入れ担当者)から、コスタリカの豆を仕入れることができた。

そしていよいよコーヒーにかけた挑戦が始まった。

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「最初はネットショップからはじめました。まぁしかし、いきなりコスタリカコーヒーって言っても流石に売れなかったですね。誰も知らないから」

直接飲んでもらえれば伝わるはず。近くの葉山ステーションで店頭販売も始めたが、「ブラジルは無いの?」とコスタリカコーヒーの知名度は当然低く、馴染みの無さで選ばれない現状に歯がゆさを感じる日々。

その中でも少しずつ試飲してもらう取り組みを通して、「美味しいですね」と飲んで伝えることを積み上げて、この葉山でコスタリカを近くに感じてくれる人たちを増やしていった。

文化を発信するためには、やはり「拠点」が必要だった。

「それでレストランに卸しも始めたのですが、やはり必ず聞かれるのは、「それでお店はどこにあるの?」ということ。いよいよ自分のお店が必要だと感じました」

その時に出会ったのが、通りからひとり身を隠すように時を刻んでいた、この大きな日本建築。近くに住んでいたのに、草木が生い茂って全く存在に気づかなかったという。まるで大下さんを長い間待っていたかのように、美しい佇まいで日の目を浴びることを待っていた。

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そして昨年12月にこの場所でお店をオープン。大下さんはバリスタではなかったため、福岡のカフェでバリスタをしていた安徳さんと一緒にはじめた。古民家でいただくコスタリカコーヒー、そんなギャップに魅了される人も数多くいて、今ではたくさんの葉山の人たちの溜まり場となっている。

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存在感ある一本杉からつくられた柱、大正硝子が用いられた窓辺。日本の技術が詰め込まれたこの空間だからこそ、一層と普段のコーヒーが美味しく感じられる。コーヒーでゆったりとするから、より日本建築をじっくりと観察することができる。相乗的に魅力が重なり合い、日本とコスタリカの文化を混ぜ合わせ、ここにしか無い空間体験を与えてくれる。

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「場を持ってみて、以前よりずっとコスタリカの文化を葉山の街に伝えられている感覚があります」

日本家屋でいただくコスタリカコーヒー、そんなギャップに魅了される人も数多い。葉山に暮らす人たちの、生活の中心地としても、気軽に楽しむことができるコーヒー店。その日の予定は天気で決めるという人もこの街にはいるので、意外と出掛ける予定がなくなった雨の日に人がたくさん、ということもあるようだ。

静かに、しかしどっしりと、カフェテーロは葉山の暮らしの中に根付いている。

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コスタリカの味を、文化を、逗子・葉山に届けていく。

「ドタ・フレッシュ」は一番軽やかで甘くバランスが良いタイプ、「タラス・ダークロースト」は苦味があるけれど雑味がなくてミント系の後味、ミディアムの「レセルバ」はフルーティーで紅茶のような感じもする。それ以外にもコスタリカの生豆を入れて、自家焙煎も今後力を入れていく。今まで飲んだことがない人も、ぜひコスタリカコーヒーの美味しさを体感してほしい。

海街珈琲祭でもご用意いただける、コスタリカのカカオからつくるチョコレートとの相性も抜群。ぜひ香り高いその味を、楽しんでいただきたい。

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「半日いる人もいるし、本を読みふける人もいる。かと思えばコーヒーだけ楽しんだらさっと帰る人もいる。これからも皆さんに、それぞれの楽しみ方をしてもらえたらそれが嬉しいです」

場を持ってからはコスタリカ大使館から来客があるほど、自分の拠点があることでの広がりを感じているという。カフェテーロ葉山が浸透すればするほど、コスタリカの文化も広がっていく。大下さんの挑戦はまだはじまったばかり。

「コスタリカを知ることで、少しでも何か気づきがあったり、暮らしに変化が生まれたら、この活動を続けている意味があるかなと感じます」

カフェテーロとは、スペイン語で「コーヒー商人」という意味。コーヒーに関わる人を指すその店名は、大下さんの今までのキャリアとも重なる名前となった。これからもコスタリカの豆を、文化を、この場所から静かに、しかし熱く、強く、伝え続けていく。

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カフェテーロ葉山
住所:〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色1532
営業時間:open 10:00-18:00 / 水曜日 定休
>Facebookページはこちら

カフェテーロ葉山の絵も描いていただいた、林靖博(Rainy)さんのイラスト展示ブースもお楽しみに!

今回の海街珈琲祭では、台湾人アーティストの林靖博(Rainy)とのコラボ企画で、出店全店舗のイラストを描いていただいています。
11月16日には原画の展示もありますので、ぜひお楽しみしていただけますと幸いです!

カフェテーロ

取材 / 写真 / 文 : 庄司賢吾・真帆(アンドサタデー 珈琲と編集と)

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"Everyday like Saturday" 毎日に、土曜日を。 土曜日のようにゆるやかな編集チームが、 土曜日だけの珈琲店を活動の拠点としながら、 土曜日のように優しく穏やかな編集をしています。

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