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自治会の会計業務 - 事務手続

自治会(町内会)の会計業務をExcel化しました。この事務手続を参考のために公開しておきます。

私は自治会の会計を担当していました。
従前は紙媒体を主体とした会計処理をしていましたが、これをExcel化しました。領収書や伝票は引き続き紙媒体です。
無事に会計監査を終えましたので、適正な設計になっていると思います。


1.会計業務全体の制度設計

Excelで設計をする前に、会計業務全体が安全な設計であることを確認しなければなりません。
会計業務全体に関する制度設計は各自治会によって異なると思いますが、私が所属していた自治会では次のとおりでした。

  • 会計担当者は手元に現金を持たない。金銭の入金・出金は、金融機関での入金・出金を経ることとなっている。これにより、「現金出納帳」は不要となり、下記に示すように「預金出納帳」(普通預金の出し入れを記録した帳簿)だけを作成することになる。

  • 会計担当者は普通預金の通帳と印鑑の両方を持つ。定期預金の通帳は会長が保管し、その印鑑は会計担当者が保管する。

  • 金融機関のATM用のカードを作成していない。

  • 預金への入金や出金は平日昼間の金融機関の窓口で行う。

  • 預金通帳の「摘要」欄に業務上の任意の文字列(7文字)を印字するよう金融機関の窓口で依頼する。

  • 支出が必要な金銭は、電子メールのような証拠に残る形で、業務担当者が会計担当者あて事前に連絡をする。

  • 会計担当者は、連絡のあった金額だけを金融機関から引き出し、業務担当者に手渡す。渡す際には、支出伝票の「担当者」欄に署名をしてもらう。

  • 慶弔費など急に支出が必要になるなど会計担当者が対応できない場合は、業務担当者が一時的に立て替える。会計担当者が立て替えることはしない。会計担当者が立て替えるということは、手元に現金を持っているのと同じ意味になります。

  • 1カ月に1回、会計担当者は預金通帳をコピーして会長に提出し、会長はその内容を確認する。

  • 預金通帳に印字された各種データを正当な証拠資料として認識し、会計監査においてもそのように取り扱う。

仮に手元に現金を持つやり方で会計業務を行っているのであれば、その現金に係る事項(日付・収入・支出・残高)をExcelの「列」として(銀行預金とは別の列として)「挿入」してデータ化すれば良いと思います。


2.伝票

原則として、1回の収入または支出毎に、1枚の収入伝票または支出伝票(A4紙媒体)を作成します。そして、これらの伝票を日付順に同一の冊子にじていきます。
金融機関に支払う手数料であっても、手数料に関する証拠書類は受け取るのですから、支出伝票を作成し、証拠書類をノリで貼り付けます。
ただし、水道光熱費(電気・ガス・水道代)は伝票を作成しませんでした。この支出に関しては、預金通帳にその旨の印字があるためです。

下の画像は、その伝票の見本です。ただし、この書式は、私が前任者から引き継いだ書式であり、私が会計事務について知らなかったのでそのまま使い続けただけです。
例えば、「備考」欄は使わないので削除した方が良いでしょう。「入金伝票」という用語を「収入伝票」に変更するなど、用語の統一を図った方が良いでしょう。

支出伝票の見本


収入伝票の見本

日付欄には、預金通帳に印字された日付を書きます。

支出伝票の「担当者」欄には、支払いを受けた業務担当者に署名してもらいます。香典の場合は、当事者に署名を求めることは不謹慎なので、業務担当者などに署名をしてもらいます。
署名の場合は、印は不要です。
Excelで名前を入力し印刷してある場合は、印を押します。
収入伝票の「担当者」欄は会計担当者の名前を書けば良いでしょう。


3.領収書の管理について

支出伝票に領収書を貼り付けます。
伝票の日付欄には、その領収書に関する預金通帳に印字された日付を記載します。
この日付順で伝票を並べ保管します。
つまり、預金通帳に印字された日付を使って、領収書とExcelのレコードをヒモづけます。
また、収入や慶弔費など領収書がない業務がありますが、その場合は、伝票にその業務の詳細を記入したり、関係書類を添付したりします。
要するに、後任者や他の自治会員や監査人が読んだ場合に分かり易くするのです。

領収書や関係書類が添付されていれば、後日、同一の事業で、同一の業者に発注をする場合の参考になります。


4.デメリット

この業務設計におけるデメリットは、収入・支出が必要になる都度、会計担当者は、平日の昼間(午前9時から午後3時まで)に金融機関に出向き、現金の預入れ又は引出しをしなければなりません。


5.メリット

  1. 手元に現金を持たないので安全性が高まる

  2. 預金通帳に印字された事項が、そのまま会計処理事項になる

  3. 預金通帳に印字された収入・支出のデータをそのイメージのままExcelのシートに入力すれば良い

  4. 預金通帳のデータとExcelのデータが一致していれば正常に運用されている証拠になり、安全性の確認のための視認性が高まる

伝統的な会計処理では収入と支出を別の書類に記載しています。
しかし、自治会は年度当初に自治会費の収入があり、その後は支出だけになりますので、年度途中や月単位での収支差や合計額を算出することには意味がありません。
年度明け(翌年の4月)に収支決算報告書で収支差を報告すれば良いのです。なので、収入と支出を分離させずに、一体にしてExcelに記載していけばよいのです。この分離は、年度明けの収支決算報告書を作成する際に行います。


6.Excelでの制度設計

上記の業務設計を前提とした、Excelの設計は次のとおりです。設計と言っても、単に、「列」の「表頭」をどうするのかという、ごく簡単なものです。でも、業務全体を理解していないとこんな簡単なものであっても設計できませんね。

Excelのシートに、次の8個の「表頭」の下で、1行に1件の、収入または支出に関するデータを、預金通帳に印字されたとおりに入力していきます。

1.連番
第1行目には1を入力し、以降の行毎に、1を足した数値を入力していく。
この連番は、レコードの最後の番号がそのレコードの全個数なので、その確認用として使います。

2.日付
預金通帳に印字された日付を記載します。

3.収入金額
預金通帳に印字された収入を記載します。ない場合は 0 にします。

4.支出金額
預金通帳に印字された支出を記載します。ない場合は 0 にします。

5.預金残高
直近の上のセルと左側の「収入」と「支出」(マイナス)のセルの合計を出力します。預金通帳の残高と一致しているのかを確認します。

6.説明
業務に関して簡潔に書きます。詳細は伝票に書きます。

7.科目
「会議費」とか「慶弔費」などの業務上のキーワードを入力します。このキーワードは、収支決算報告書における業務分類で使います。

8.伝票の有無
伝票の存在の有無を記載します。
領収書が存在しない場合に備え、それが紛失や忘却ではないことを伝票に明示した方が良いでしょう。

実際の入力の例


7.収支決算報告書の作成

上記の「5.Excelでの制度設計」で記した事項を1年度分(4月分から翌年3月分まで)入力できていれば、収支決算報告書を作成できます。
「科目」の任意の文字列(キーワード)で分類し、収支決算報告書にまとめていきます。

(1)事前作業

1.バックアップ作成
データ保護の観点から、入力に使ったシートをそのまま保存し、新規のシートを「作業用」などの名前で作成し、この作業用シートにデータをコピーし、以後この作業用を使います。

2.不要事項削除
集計に直接関係の無い項目(例えば、標題や作成者名)があれば削除し、「表頭」(項目名が列挙された行)とデータのみを残します。削除しない場合、以下で使用するエクセルのコマンドが正常に機能しません。

3.抽出コマンド作成
ここの箇所が、Excelの操作において、ややこしいです。
多くのExcelのコマンドはダイアログボックスにパラメータを入力します。でも、抽出コマンドでは、抽出するデータの科目名など(パラメータ)を、別のシートのセルに書いておく必要があるのです。
例えば、「科目」が「水道光熱費」のレコードだけを抽出したい場合には、新たに設けた任意のシート(例えば、「作業用その2」という名前のシート)に、上段のセルに「科目」という文字列を、下段のセルに「水道光熱費」という文字列を2行に渡って書いておかねばなりません。これによって、表頭に「科目」と書かれた列の中から「水道光熱費」と書かれたレコードだけを抽出することになります。

科目
水道光熱費

コマンドの例:2行に渡る2個のセルの各々に、抽出のためのパラメータを書き込む


コマンドをExcelのシートに書いた例:2行に渡る2個のセルの各々に、抽出のためのパラメータを書き込む


(2)任意のレコードだけを抽出

具体的な操作は次のとおりです。
1.エクセルのメニュー>「データ」>「並べ替えとフィルター」>「詳細設定」>「指定した範囲」をチェックする。

エクセルのメニュー>「データ」>「並べ替えとフィルター」>「詳細設定」
メニュー>「データ」>「並べ替えとフィルター」>「詳細設定」>「指定した範囲」をチェック

2.「詳細設定」>「リスト範囲」で、「作業用」シートの、表頭を含めた全てのデータを「選択」する。
3.「詳細設定」>「検索条件範囲」。この設定の仕方がややこしいです。
「検索条件範囲」とは、「抽出をするためのパラメータが記載されたシート上のセルの範囲を選択する」という意味です。Excelでは多くの場合、パラメータの設定はダイアログボックスに値を入力しますが、このコマンドではシートのセルにパラメータを書き込むのです。そして、その書かれた複数のセルの範囲を選択するのです。
例えば、水道光熱費に関するデータだけを抽出する場合、「科目」と書かれたセルと、「水道光熱費」と書かれたセルの2個のセルを選択します。上記「3.抽出コマンド作成」参照してください。
4.「詳細設定」>「範囲抽出」で、作業用シートの下方の空白の適当なセルを選択する。
5.「OK」をクリックすると、4で設定した箇所に出力される。
6.出力されたデータを、該当するシート(例えば「水道光熱費」シート)にコピーする。そして、合計を集計する。
7.正確な処理であることを確認するため、「連番」の番号を再入力し、レコードの数を確認する。
8.集計した合計値を収支決算報告書に参照コピーする。


(3)作業順序

上記の例では水道光熱費を例にしましたが、作業の順序としては、最初に、収入または支出だけを抽出し、それを「収入」または「支出」シートにコピーしなければなりません。この収入用シートと支出用シートは、以降に作成するシートのための、中間作業用シートになります。
収入のレコードだけを抽出するコマンドは次のとおりです。

支出
0

コマンドの例

支出がゼロであるということは、収入欄には何らかの金額が入力されているので、収入のレコードだけを抽出することになります。支出のレコードだけを抽出する場合は、これとは逆になります。
連番を再入力し、レコードの数の合計を確認した方が良いでしょう。
この収入及び支出のシートから水道光熱費などのレコードを抽出し、収支決算報告書を作成することになります。

「事務費」で抽出をした例。「年度合計」の数値を収支決算報告書に転記する。


8.疑義

自治会から退会した人に返金する(支払う)「自治会費」を、
収入における「自治会費」に計上するのか、
それとも支出に計上するのか
という問題がありますが、過去の例に従えば良いでしょう。
このような微調整は最後に行います。


9.会計監査

(1)事前検査

会計監査の会場で、全ての書類を検査することは時間がかかり非効率です。
このため、Excelのファイルだけを監査の前に監査人に渡しておき、監査人が監査前にこのExcelファイルを検査しておけば良いでしょう。

(2)普通預金通帳の日付

会計監査の場において、普通預金通帳の最後の日付として翌年度の4月の日付が印字されている必要があります。これによって、3月末日時点での預金残高が証明されることになります。

これを目的にすることも含めて、金融機関で3月末時点での「残高証明書」を発行してもらうよう手続をした方が良いでしょう。これによって4月1日付けで「残高証明書手数料」が引き落とされ、その旨が預金通帳に印字されます。

この「残高証明書」(紙媒体)は概ね4月10日頃に預金通帳の名義人あてに郵送されます。会計監査の日時が郵送前になることもあり得ますので、「残高証明書手数料」が引き落とされたことを預金通帳に印字して会計監査にのぞむのが良いでしょう。「残高証明書」は総会における収支報告書の添付資料として利用します。

ちなみに、「残高証明書」に記された「3月31日現在」とは、当該日の夜の8時時点のことです。
「残高証明書」に記された「未収利息」とは、前回利息が支払われた後に生じた利息の金額で、残高の外数です。この「未収利息」は、次回の利息支払の時点で、それまでの未払いの利息と合わせて支払われます。「未収利息」を足した額が正確な残高であるとも言えますが、3月末時点では支払われていないのですから、残高ではないと解釈します。

(3)持参するもの

会計担当者が会計監査会場に持ち込むものは次のとおりです。
(1)上記「7.収支決算報告書の作成」に記した、Excelデータを印刷したもの
(2)預金通帳のすべて。コピーをして冊子に綴じて保存した方が良い。
(3)金融機関が発行する「残高証明書」。ただし、会計監査当日までには郵送されていない場合もある。
(4)筆記用具やメモ帳(エラーを指摘された場合、メモする)
(5)電卓(念のため)


10.透明性の確保

会計監査は会計業務の正当性を担保するものです。しかし、関係者は、監事だけです。
会計監査にとどまらず、役員会においても、毎回、その時点における予算の執行状況を、証拠に残る形(書面)で報告した方が良いです。

Excelで作成している表から任意の期間(前回の役員会から今回の役員会までの期間)のデータだけを切り取って、それを役員会に提出・説明し、他の役員から質問・意見があれば説明すれば良いでしょう。それが民主主義です。


11.会計業務の引継

(1)会計監査の見学

後任の会計担当者は、会計監査の着眼点などを勉強するため、4月に実施される会計監査に同席し、見学・質問などをしておいた方が良いでしょう。


(2)口座の名義変更手続

「残高証明書」の発行の翌日(つまり4月2日)から4月中旬の間に、旧会計担当者から新会計担当者への口座の名義変更を金融機関で行います。
4月1日は「残高証明書」の発行日であり、この時点における口座の名義人あてに証明書が郵送されてきます。
新会計担当者が一人で金融機関に出向けば手続きは完結しますが、遺漏の無いようにするため、旧担当者も同席した方が、手続におけるエラー発生時への速やかな対応ができるかもしれません。
金融機関には次の5種類の書類を提出します。
(1)「届出事項変更届」(普通預金通帳分と定期預金通帳分の計2通。金融機関に備付け)変更前の住所・氏名欄には、旧会計担当者が、自筆で記入する。それ以下の記入欄は新会計担当者が記入する。具体的な書き方は、金融機関の担当者に聞いた方が良い。
(2)「印鑑届」(普通預金通帳分と定期預金通帳分の計2通。金融機関に備付け)新会計担当者が記入する。
(3)普通預金通帳と定期預金通帳
(4)新旧両会計担当者の通帳用の印鑑(合計2個)
(5)新会計担当者の本人確認資料(運転免許証など)
手続が終わったら、定期預金通帳を会長に預ける。普通預金通帳は、会計担当者が保管する。


12.簿記手法への批判

ネットで自治会の会計処理を調べたところ、簿記の手法を採用している場合があるようです。

しかし、私は簿記を知りません。「貸方」「借方」などの用語がわかりません。所与の財産の範囲内でしか運営できないのですから、「欠損金」が生じるわけがありません。
自治会の会計業務のために簿記を勉強しようという気にはなりません。
自分が理解できたとしても後任者や他の自治会員が理解できるとは言えません。

私がこの記事で説明したやり方は、預金通帳に記された事項を、そのままExcelに転記するだけなので、作業が簡単で、理解し易いです。

以上

#自治会 #町内会 #会計監査