見出し画像

なにも起きない、衝撃的映画『PERFECT DAYS』

巷で話題の『PERFECT DAYS』を観てきた。

控えめに言って、最高だった。

公開当初はそんなに気にも留めてなかったけど、
ラジオで何度か紹介されているのを聞き、だんだんと
興味が湧いてきた。

映画好きを語りながら、ヴィム・ヴェンダースの作品は、
本作品が初めてだった。
たしか去年、U-nextに1カ月だけ登録してた際、
『パリ、テキサス』を序盤だけ少し観て、退会期間が迫り、
それっきりになっていた。

『パリ、テキサス』はどうだかわからないが、
この映画は、都内の公衆トイレ掃除のおじさんの話で
とにかく何も起こらない。

なにも起こらないけど、生きる意義的な、
人生における幸福の本質に迫るような映画だ。

なにも起こらないのに、私は、4回も泣いた。

去年観た『テイラー・スウィフト:The Eras Tour』でも
たしかそのぐらい泣いた。でも明らかに涙の種類は違う。

テクノロジーが進化しすぎて、日々時間に追われ、
他人の日常生活が簡単に覗くことができる現代。
便利な一方で、ほんとうに大切なものに気づけなかったり、
他人を羨み、自分のことを好きになれなかったり、
進化しすぎたがために、疲弊する毎日を送っている現代人は多いと思う。

役所広司演じる、平山のバックグラウンドすら説明されないのだが、
おそらく平山は過去になにかしらがあり、
今の生活にたどり着いたのだと思う。
ある人から見たら、平山は、可哀そうな人に見えるかもしれない。
しかし平山は確固たる幸せを日々の中で見つけているように思えた。

最初、平山は何も感じない男のようにも見えた。
ただ平然と仕事をこなし、平然と日常生活を送るだけの男に見えた。

しかし平山はちゃんと人間だった。
動揺もするし、時には悲しくなり、時には怒ったりもする。
だけど、またいつもの生活に戻り、いつもの自分に立ち返り、
今ある生活の中で幸せを見つける。幸せに満ち溢れていた。

劇中に流れる音楽もこの映画の良さをさらに引き立てる。
平山が車に乗っているときに、カセットテープから流れてくる。
その音楽を聴き入る手前で、車が止まり、同時に音楽も止まる。
この演出がまたいい。映画の世界に戻され、
平山の生活に没入しているような気分になれる。

映画のラストは、『君の名前で僕を呼んで』のラストシーンを
彷彿させるようなラストで、4回目の涙が出た。

そしてこの映画を友達全員に勧めたくなった。
この映画を観れば皆、必ず平山の虜になる。
なにも起きないけれど、私にとっては衝撃的な映画体験となったのだ。

鑑賞後、余韻に浸りたくなり、一人で散歩をし続けた。
一人だが私の心は平山のおかげで満たされた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?