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「カフネ」を読んで

金山を掘り当てた。

この本を読みながら浮かんだ最初の感想です。
何げなく手に取った本で、時々、こういう幸運にめぐり逢います。

この本には、人生において、だれもが突き当たる様々な物事が語られています。
それらのひとつひとつが、金山で掘り当てた金の鉱石のように、自分の中でじわじわとその威光を放ち始めるのです。

親子関係
兄弟姉妹関係
夫婦関係
友人関係
仕事仲間との関係
自分自身との関係
結婚
不妊治療
同性愛
生き方
孤独
格差社会

ハッピーエンドで軽く片づけない、現実的な物語の展開に、自分もその世界に入り込んで、深く考えさせられます。


生真面目すぎて、「あんたといると息が詰まってしんどい」と実の母に言われた主人公の薫子。
努力で自分の人生を切り開いてきたと言い切れるほど、彼女は本当に真面目に頑張って生きている女性です。

その彼女の周りで起こる出来事は、どれも簡単には、或いは、永遠に解決できないような重い出来事ばかりです。

この本を読むことは、薫子と一緒にその世界をひととき一緒に生きるような体験でした。

本の題名の「カフネ」は、薫子が手伝うことになる家事代行サービス会社の名前なのですが、ポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通すしぐさ」を表すのだそうです。
忙しすぎて心をなくしかけているような人たちが、そんな愛しい時間を持てるようにする仕事がしたいと思い社名にしたと、自身も母子家庭で子供を一人で育ててきた社長が語ります。

人はそれぞれに、苦しみや悩みを抱えて生きています。
その悩み事のどこかには、必ず人が関わっています。

湿気の高い重い空気のなかを息苦しさを感じながら生きるのが人生なのかも知れません。

傷つけられるのも人
であれば、
救われるのもまた人
です。

薫子は、こう思います。

私の人生、私の命の使い道は、私だけが決められる。
のぞみがあるなら、ぐずぐずしていてはいけない。
人間はいつどうなるかわからないのだから。

野宮薫子のことば

自分の欲しいものがよくわからなくなるほど、誰かの欲しいものに合わせて生きてはいけないのです。


そして、もう一人の主人公と言ってもいい小野寺せつなはこう言います。

人間は自分以外の人間のことは何ひとつわかるわけないんだよ。
わかったような気がしてもそれはただの思い込みだ。

小野寺せつなのことば

この意識を持っておくことは、案外、簡単ではありません。

様々な傷を背負いながら、人は生きていかなければいけません。

自分で過去の自分を救いながら、なんとか生きていくしかないのだ。

大丈夫、やり抜いてみせる。
私は努力によって人生を切り開いてきた女、薫子だから。

なんと心強い言葉でしょう。

薫子の覚悟の定まったこの前向きな言葉で、この本の全ての体験が、自分の背中を押してくれたように感じました。





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