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「鎌倉うずまき案内所」 青山美智子 宝島社
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人生に迷った人たちが、思いがけず誘い込まれる
「鎌倉うずまき案内所」。
あれ、道に迷ったかな?
と思った瞬間、気づけば、それまでいた場所とは全く違ったものさびしい細い路地に立っています。
おかしな空気のゆがみを感じて不安になったところへ、古びた看板に達筆な毛筆で書かれた「案内所」という文字が目に飛び込んできます。
それを頼りに、地下に向かって続く暗い螺旋階段を降りた先にいるのは、双子のお爺さん?
外巻と内巻と名乗るそのふたりに、
「はぐれましたか?」
と聞かれ、それまで抱えていた思いがほとばしるように言葉になってあふれ出します。
そんな自分に驚いていると、さらに驚くことに、突然、壁に掛かっていたアンモナイトがぐるぐる動き出します。
「はい、これは、うちの所長です」
と言われても、にわかには信じられませんが、目の前でおきていることを咀嚼する暇もなく、話は展開していきます。
そのアンモナイトについて部屋の奥に行くと、かなり大きな甕(カメ)が置いてあります。
その甕をのぞき込むよう促されたとたん、アンモナイトは甕のなかに飛び込んで渦とともに消えてしまいます。
のぞき込んだ甕の底に見えるものが、その人にとってのこれからの人生のヒントなのです。
見えるものは、たとえば、
蚊取り線香
とか
つむじ
とか
巻き寿司
だったりするのです。
それに加えて、
困ったときのうずまきキャンディ
をひとつもらえます。
「では、お気をつけて」
と送り出されて、ぶわん、と視界が膨らんだかと思うと、迷い込む前のもといた場所にもどっているというわけです。
はい、荒唐無稽です。
でも、荒唐無稽だからこそ、余計なことを考えず、悩み事に絡め取られ身動きがとれなくなってしまった自分の人生に、まっすぐ向き合えるのです。
甕の中に自分が見たものは単なるヒントにしか過ぎません。
うずまきキャンディは、小説の中でしか存在し得ない魔法の杖みたいなものかも知れません。
でも、人生の迷い道から抜け出せるのは、あくまで、本人たちの試行錯誤の結果です。
一生懸命考えて行動して、それでも壁にあたってしまったとき、不思議な力が働いて、なぜかその壁を乗り越えられる。
そんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。
その不思議な力が、甕の底に見えるものや、うずまきキャンディなのではないかと思うのです。
「ソフトクリームの巻」
という最終章が、私は特に好きです。
主人公がつぶやくこんな悩みに、共感せずにはいられなかったからです。
「考えてしまうのです。私はなんのためにこの世に生を受けたのかと。あの戦時体験をくぐりぬけてせっかく生き残っても、このまま何も成さず何も残さず、ただ塵になっていくのなら、いてもいなくてもおなじだったのではないか。いくらたくさん本を読んでも、わからないのです。」
紆余曲折あって、文太さんは、自分のまわりの人たちの言葉に救われていきます。
「思うんだ。千年前って、今とはぜんぜん違う言葉を話していたでしょう。千年後もきっと違う。だとしたら、同じ言葉を同じ時間で話している人たちって、みんな同級生みたいなもんだなって」
「それってね、地球の歴史から言ったら、ほんのわずかな時間なんだよね。だから私は、小説を通して同級生たちに伝えたいことがいっぱいある。今の言葉を今の気持ちで理解してくれる人たちに」
「私が、この私として生きているうちに」
そして、一度は結婚まで考えたことのある女性と、何十年越しの思いがけない再会。その再会は、実は文太さんが自分で起こした行動で引き寄せたものです。
その女性、マーちゃんの言葉で、文太さんは、長く抱えてきた心の重荷を下ろすことができたのだと、私は感じました。
「違うよ、文太さん。何かを残すためじゃなくて、この一瞬一瞬を生きるために、私たちは生まれてきたんだよ。
生きるために生きるんだよ」
でも、文太さんだって、救われてばかりいるわけではありません。自分の書く小説に限界を感じていた夢見ちゃんにこう言って、前に進むきっかけをあげます。
「たぶん、本当に言いたいことを書くためにフィクションが必要なんだよ。事実をそのまま書いたら受け入れてもらえないことも、空想世界みたいな設定にすると伝わるんだ」
ぐるぐるまわりながら、その途上で人と出逢ったり別れたり、人を助けたり人に助けられたりしながら、自分の螺旋階段を昇っていく。
その先に、どんな景色が見えるのか、楽しみにしながら。
人生はうずまきのようなものかも知れませんね。
<おまけ>
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