実らなかった恋のはなし 第一話 はじまりのできごと
あるところに、猫の三兄妹が住んでいました。
この兄妹はいつも仲よく一緒に遊んでいました。
ちょっと強面ですが、ことあるごとに、妹の面倒をよくみる兄たちでした。
ある日、妹がいないことに気づきます。
そんなに行動範囲が広くない妹のこと。きっと近くにいるはずだと、兄たちは近所を探し回ります。
探して探して、やっとみつけたのは、ケージの中に閉じ込められてしくしく泣いている妹でした。
妹のたどたどしい説明によると、ちょっとチャラッとした年上のオス猫に声をかけられて、あれよあれよという間に、ここに連れてこられたのだそうです。
ハート型のネックレスなんかぶらさげて、確かに、ちょっとチャラッとしたヤツではあります。
双子の兄は、このハート野郎(兄弟で勝手につけた名前)を問い詰めます。
「どうして、妹を勝手に連れ出したんだ💢」
すると、しばらくもじもじしていたハート野郎は言いました。
「いつも兄妹で仲よく遊んでいる様子を遠くから見ていたんだ」
「ボクは兄弟がいないから、それが羨ましくて」
ずっと木の陰から遊んでいる様子を見ていたら、そのうちに、ねねちゃん(ハート野郎が妹に勝手につけた名前)のかわいさに恋をしてしまったのだと言うのです。
それで思わず、ねねちゃんを自分の家に連れて帰ったのだと。
「理屈をつけたって、誘拐は誘拐だぞ💢」
と双子の弟は怒鳴ります。
その怒声に、ハート野郎は返す言葉もなく、シュンとしてしまいました。
確かに、妹はかわいい。
だから、ハート野郎の気持ちもわからなくはなかったのです。それに、チャラッとはしていても、そんなに悪いやつでもなさそうです。
でも、かわいい妹だからこそ、双子の兄たちは、ハート野郎のしたことを許すことはできませんでした。
せめて友達になって、遊び仲間に加えて欲しいと懇願するハート野郎をにらみつけながら、二人は妹を連れて帰ってしまいました。
悲しみのあまり、全ての景色が白黒にしか見えなくなってしまったハート野郎は、ねねちゃんがケージにいてくれた時のことが頭から離れません。
毎日かいがいしくねねちゃんのお世話をすることが楽しくてしかたなかったのです。
空っぽになってしまったケージを眺めては、涙に暮れていました。
鏡に映る自分の姿も白黒にしか見えなくなってしまったハート野郎。
もとの一人暮らしに戻っただけだと自分に言い聞かせても、一度味わった幸せが、ひとり時間をさらに耐えがたいものに変えてしまいました。
ここから立ち直れるのか。
心の傷は癒えるのか。
それには、しばらく時間がかかりそうです。
注:この作品は、新聞に入ってくる広告をランダムに切り刻んだ切れ端を画用紙に貼り、そこから思い浮かぶイメージをイラストにしたものです。そのイラストを眺めていたら、こんなお話が浮かびました。
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