ちちのち

先日帰宅するとポストに佐川急便の不在票が入っていた。荷物の差出人は身に覚えのない男性。はえ〜誰やねん、とエセ関西弁で呟きながらアパートの階段を登り、鍵を開け、手を洗い、水道水をじゃぶじゃぶ飲んで、部屋着に着替えたりなんだりしているときに気づいた。見知らぬ男性の苗字は先日結婚した友だちの新しい苗字だった。

届いたのは出産内祝い。出産の報告を四月に受け、だいぶ経ってから大人ってこういうときはお祝いをするものなのではないかと気づき贈った出産祝いのお返しのようだ。なるほど、大人はこういうときに内祝いを贈るのか。
現在断捨離と部屋の整理の真っ最中で部屋がめっちゃくちゃなため、唯一と言っても過言ではない僅かな足の踏み場にその箱を置いて眠った。

翌朝起きると熨斗のついた綺麗な箱がごちゃついた畳の上で居心地悪そうにしていた。側を家グモが這っていた。結婚したときよりも出産したときよりも友だちが遠くに行ってしまった気がした。

いつだったか、たぶんわたしが大学を卒業したての頃だと思うが、車で酔っ払いの父を拾いに行った。わたしが幼いときお世話になった方もいて、その方にお孫さんが生まれるという話をしていた。父はわたしの目の前で「俺はどうせ孫の顔見れずに死ぬんだ!」と笑っていた。なんだこの人。ムカつくな。

可愛らしい名前の書かれた熨斗を見ながらそんなことを思い出した。ちなみに今わたしは父からもらった部屋着を着てこの文章を書いている。もちろんジェラートピケなんかをプレゼントしてもらったというような類の話ではない。健康診断を受けた際の検査着として病院から配布されたテロテロのTシャツとパンツを持ち帰ってきたのだ。実家に帰るたびに、安かったから買ったユニクロのTシャツとかJCBギフトカードとか、金ないんだからと色々くれる。現金はくれない。

わたしは小さなときから父がすきだ。「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないで!」とか「パパくさい!」とかお父さんのことを嫌いになる時期みたいなのも特になく大人になった。休日はよく一緒に出かけるし、デーモンズのSNSもチェックしているらしい。じゃあすごく尊敬しているかと言えばそうでもないので、パパみたいな人と結婚したいとはまったく思わない。

孫の顔見れずに死ぬ!話には後日談がある。どういう話の流れだったか妹にパパが俺は孫の顔見れずに死ぬって言ったんだと話したら、たぶん孫の顔見れないとかどうでもいいと思ってるよパパ、と。妹には「周りの人間はみんな孫がかわいいと言ってるが、自分の子どもより孫がかわいいなんてことないだろ」と言っているらしい。なんだこの人。なんだよこの人。



お金持ちでもない、男前でもない、めちゃくちゃ臭くはないけどまあ普通におじさんの匂いはする。お酒飲むと面倒くさいし、気は短いし、わたしがろくでもない男に捕まると思っていてそれを堂々と言ってくるようなところもムカつくけれど、本当に孫を見せられずにパパが死んでしまっても、まあ孫よりわたしの方がかわいいって思ってるんだからいいかと思えそうだから、この人の娘でよかったな。

ちなみにわたしは友だちの赤ちゃんがかわいくて仕方ない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?