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北海道の環境モデル都市「ニセコ町」から断熱改修を学ぶ

こんにちは。アンドパッド平塚です。

新年度をむかえ、新たな生活がスタートした方も多いのではないでしょうか。
アンドパッドにも4月に初めて新入社員を迎え、私自身もフレッシュな気持ちで4月を迎えています。

暖かくなり始めてたのですが、今年の冬は特に寒く暖房が手放せない日が続き、電気代の高騰も相まって、なかなか身体にも家計にも辛い冬だったな…と個人的には感じていました。
少し時期がずれてしまいましたが、今回はそんな冬に関連するお話をさせていただきます。

「高断熱高気密住宅」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
冬の寒さ(夏の暑さ)に適切に対応するためには、外気をシャットアウトして、建物内で温めた空気をキープし続ける必要があります。それを実現するのが「高断熱高気密住宅」で、冬にもエアコン1つで一般的な家での生活が快適に過ごせるほどです。

これまで「高断熱高気密住宅」は新築に特化した言葉でしたが、ここ数年、一部の先進的な工務店さんが「改修」でそれを実現しています。
この動向に注目して、昨年断熱改修された住宅を普及させることを目的として、アンドパッドでは、東京大学や新建新聞社、YKKAPとともに「住宅性能向上DXコンソーシアム」に取り組んでいます。
実は私もこのコンソーシアムの一員としてプロジェクトに参加しています。

上記のプロジェクトの一環で、先日東京大学の前真之先生に同行して、先進的に断熱改修に取り組まれている北海道のニセコ町を訪れました。様々な取組みを学んできましたので、ぜひ皆様にレポートしたいと思います。

北海道の環境モデル都市「ニセコ町」とは?

北海道エリアは、寒冷地でもあることで、断熱改修工事に先進的に取り組む方がたくさんいらっしゃいます。そのような背景があったため、プロジェクトの一環で先進事例を実地で確認し、実践者の方々とディスカッションを行い、知見を高めるため北海道の各地を訪問させていただきました。

そんな北海道リサーチの中で、本noteでは、町全体で環境保全や低炭素化の実現に向けて様々な事に取り組んでいるニセコ町をピックアップしてご紹介していきます。
「ニセコ町」は北海道の札幌と函館の間に位置しており、とても自然豊かな町です。私が訪れたのはまだまだ雪深い時期でしたが、広がる山々、一面の銀世界にうっとりしてしまいました。

ニセコ町では町全体で、観光、移住定住、国際交流など様々な取り組みを行っています。特筆すべきはパウダースノー。上質な雪が降ることから、国内外からスキーを目的に多くの観光客がこの町を訪れていることは、みなさんご存知の通りです。

そして町を支える重要な事業である観光業を支えているのが、豊かな自然を守る「環境保全」、そして、寒い冬でも暖かく過ごせる「住環境の整備」です。今回私たちは、自然環境・住環境の両方にやさしい「建物の断熱改修」というポイントで、ニセコ町の片山町長にお話を聞かせていただきました。

さきほどご紹介した通り、ニセコ町は観光業が盛んで、総人口5000人に対して、年間の観光客数は2022年では166.9万人に上ります。
2030年には新幹線が札幌まで延伸する予定で、ニセコ町のすぐそばにも、新幹線の駅ができる計画。さらなる観光客の増加が見込まれています。

継続的な観光客の増加に向けて、町内ではホテルの建設ラッシュが起きていることも特徴的です。観光客の多くは、上質な雪のあるスキー場を目的に訪れますが、この上質な雪を毎年得るためには、ニセコ町の自然が豊かであることが絶対条件だそうです。
ホテルの建設ラッシュによる土地の造成工事や建設時に排出されるCO2によって、ニセコ町の自然環境が破壊されてしまえば、ニセコ町の大きな価値である上質なパウダースノーが失われてしまいます。

ニセコ町の自然環境こそが暮らしと地域産業の基礎・土台でありながら、観光客に対応するためのホテル建設も進めなければならない。こうした難しい課題にニセコ町は取り組んでいます。

ニセコ町の基本は「住民参加」による課題解決

ニセコ町は、環境保全や観光業の推進といった施策、またそれに関する諸課題に取り組む際に、「住民参加」を基本としていることが特徴です。

片山町長は、「行政が住民のニーズに、ありとあらゆるサービスを提供し続ける事は、人口減少が進む日本の市町村にとっては、必ずしも良い事と言えない。住民からの全ての要望に応えてサービスを提供するのではなく、住民の方々にも主体的に町の自治を行っていただく事が求められきている。」とおっしゃっていました。

上記のような思想を背景に、ニセコ町では町民の自治力を上げる為に、まずは町役場から情報公開を実施し、町役場と町民とで、町の情報・課題を共有することが基本になっています。
具体的には、毎年のニセコ町の予算の使いみちや、観光や環境を始めとした統計情報を、詳しくかつわかりやすく、リーフレット化することにより、町民がニセコ町の自治を私事化して捉えやすくなっています。

この思想は、平成13年につくられた全国初の自治基本条例「ニセコ町まちづくり基本条例」にも明記されています。条例の中には「情報共有と住民参加の重要性」「町民の主体的行動と自治の基盤」といった、ニセコ町民と一体となった自治運営の基本が謳われており、実際の活動にも結びついているのだと思います。

住民参加の取組みの中から、いくつか特徴的な事例をご紹介します。

株式会社ニセコリゾート観光協会の設立と様々なNPOの発足

1つ目は、観光協会の株式会社化の事例をご紹介します。これは全国初の取り組みだそうです。「株式会社ニセコリゾート観光協会」は、ニセコ町とニセコ町民が50%ずつ出資しており、町の財政に依存していた観光協会を、住民が主体となり独立させた形ともいえます。

ニセコの持つ様々な資源を、”観光資源”として連携させることで、まちづくりと観光業を両輪で展開する取り組みを行っているようです。

また、地域活動支援センターを運営している「ニセコ生活の家」や子育てに関する支援事業を行っているNPO法人「ニセコ未来サポート隊」といったNPOも設立されています。ニセコ町の自治に、町民が主体的に参画していることがわかる事例だと思います。

建設ラッシュという課題にも、話し合いで合意形成を

2つ目は先ほど挙げたホテルの建設ラッシュへの対応をご紹介します。ここにもニセコ町ならではの特徴があります。

一般的な開発では、「建物最高高さ」や「延べ床面積」といった具体的な数値制限などを設けて開発が進められます。一方、ニセコ町では様相が異なります。一定規模の開発は町長への説明と、町民の説明会が義務化され、その上で「話し合い」で建築規制についても合意形成がなされているということでした。住民たちの主体的な参加、合意形成によって町の景観を守っていることは素晴らしい事例だと思います。

ニセコ町内で準都市計画区域(景観地区)において開発行為を行う場合

国から「SDGs未来都市」「環境モデル都市」に選定

3つ目に、上にあげたような町ー住民の協力の結果としての対外的評価についても付け加えさせていただきます。
ニセコ町では「環境を生かし、資源、経済が循環する自治の町を目指して」をコンセプトとして掲げ、環境保全のための取組みにも力を入れています。

2050年までにCO2の排出量を86%削減を目標に掲げ、住民とともに建物の省エネ化、燃費の見える化、事業活動の低炭素化等に取り組んでいます。これらの取り組みの結果、国から、「SDGs未来都市」「環境モデル都市」としてそれぞれ選定されています。
長期目標をしっかりと設定する事で、ニセコ町の環境と経済を持続可能にするよう取り組んでいます。

庁舎や公共施設の断熱改修、あったかい場づくり

最後に、プロジェクトの中心である断熱についてもお伝えさせていただきます。当然と言えば当然ですが、環境に配慮するニセコ町では町全体で建物の断熱についても取り組んでいます。

2021年に、「環境モデル都市ニセコとしての省エネに配慮した庁舎」として旧庁舎を取り壊し、新築するかたちで、新庁舎の建築が竣工しました。この工事では、建物の外側から断熱材を追加する「外張り断熱」を採用しています。建物全体を気密性を高める改修をしたうえで断熱材で外壁を覆い、窓も高断熱のものに取替えをしています。

結果として、町民の方にも愛される施設となり、子育て中のお母さん向けの授乳室や、小さい子供向けの積み木プールがあったりと憩いの場にもなっているようでした。ちなみに断熱改修の効果により、この新庁舎では、従前の旧庁舎時代に比べて、暖房費を半減することができたそうです。

私も実際に庁舎へ伺ったのですが、中へ入った瞬間「あったかい!」と感じました。なんと暖房は最低限のもののみ稼働しているとのことだったのですが、薄着でも平気なほどあたたかかったです。

現在はこの新庁舎をベンチマークとして、町の公共施設でも断熱改修工事を行っているとのことでした。私が関わっているプロジェクトは住宅の断熱改修を中心としていますが、公共建物の断熱改修も非常に価値が高いことを実感することができ、非常に良い機会でした。


おわりに

ニセコ町の経済の活性化と自然環境の保全の相乗効果を期待している取り組みは全国的に見てもとても珍しく、町の情報をすべて公開することで、住民が自発的に活動をすることにつながった、という流れが取り組みとしてとても興味深いと思います。

私はプロジェクトのために、様々な断熱改修施工のノウハウを勉強しているところですが、今回の訪問で実際に完成した建物を見学させていただき、断熱の工事に成功した建物の効果を肌で実感し、改めて断熱改修の重要さを知ることができました。

四季豊かな日本では冬と夏の冷暖房は欠かせませんが、その冷暖房効果は、建物の断熱性能でも大きく変わってきます。今回の記事では、冬の寒い時期に建物をどう暖かく保つか、という断熱効果をご紹介しましたが、逆に夏の暑い時期には、建物をどう涼しく保つか、という断熱効果が重要になります。冬が終わり、本格的に夏が来る前に、お住まいや勤務先の断熱の対策を考えてみるのはいかがでしょうか。

私自身も、プロジェクトをしっかりと進め、「知れてよかった」と皆さんに感じていただけるナレッジの蓄積・展開に取り組みたいと思っています。
断熱改修を業界の新たなスタンダードにしていけるよう、より一層頑張っていきたいと思います!
最後まで読んでいただきありがとうございました。


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