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【体験談】数年振りの歯科検診で虫歯が8本見つかった話_part1

 2022年6月、TVニュースで歯科検診を国民の義務にすることを目指す方針を耳にした。

 わたしは大学進学を機にひとり暮らしをはじめたのだが、学生時代は毎年かならず歯科検診を行っていた。子どものころから歯医者には大変お世話になった身であった(虫歯が多かった)ため、自室よりも優先して口内の美化に努めていたのである。ひとり暮らしをする部屋を親に見せることはできなかったものの、自身の口内は胸を張って見せることができていた。

 ただ社会人となってからは忙しさを口実に歯科検診へ行くことを怠っていた。……というのは半分嘘であり、正しくは忙しさもさることながら、ふと目視で確認できるほど大きな虫歯を発見してしまい、その歯を治療する未来に恐怖を覚えたことから数年放置していたのである。

 共に過ごす時間が経つほどに増していく、虫歯への思い(恐怖)。歯科検診が国民の義務となるかはわからないが、TVニュースでアナウンサーが報じた「国民皆歯科健診」検討の声を神のお告げ(もしくは虫歯を放置する自堕落なわたしへの怒り)だと思い、数年振りに歯科医院に電話し検診の予約を入れた。

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 予約した時刻の5分前に歯科医院の待合室で腰を下ろす。ちなみに午後の診療開始時刻に予約したため、自動ドアが空くまで15分ほど入口で立っていた。

 いつも待ち合わせではギリギリの時刻に到着する(もしくは遅れる)ことが多いが、この日は目が覚めたとき、もはやその前夜から予約時刻を意識して過ごしていた。死(虫歯の発見および治療)の宣告がされるであろう歯科医院の予約時刻を無意識にカウントダウンしていたため、今回は定刻に遅れることはなかったのだと思う。

 約束した時刻に遅れてしまうことが多いわたしは、おそらく“約束の時刻”のみに意識が向いていたのであろう。待ち合わせに遅れないためには“約束の時刻”と共に“定刻からカウントダウンする意識”が必要なのかもしれない。平井堅の『瞳をとじて』(オルゴールver.)が流れる待合室でそんなことを考えていると、看護師さんに自身の名前を呼ばれた。

 歯医者さんに「今日はどうして(歯科医院に)来られたのですか~」と尋ねられ、虫歯があり放置していたことを懺悔する。まずは口の中を確認することとなった。

「1~4がO、5がCO、6がC……。」

 歯科検診特有の“O”“C”といった、歯医者さんにしかわからない暗号でのやり取りがはじまる。(“O”が虫歯の意味だったら、すでに4本も虫歯があるのか……。)と絶望しながら暗号に耳を傾け口を開ける。

 ちなみに、歯科検診で用いられる用語は以下のような意味があるらしい。

C:Caries(骨が壊れる)を略した用語です。虫歯が進行しており、すぐに治療が必要な歯を指します。
O
:過去に何らかの治療が完了しており、今は問題なしの歯を指します。
CO:虫歯の進行が始まっている歯、進行が始まりそうな歯を指します。直ぐに治療の必要はなく、歯みがきなどを見直す事で改善できるケースが多いです。
/(斜線)
:健全歯(過去に一度も虫歯にかかったことのない歯)を指します。
※一部を抜粋

(参考:「C」「CO」って?学校の歯科検診で用いられる歯科用語)

 次回以降は用語をあたまに入れて歯科検診に臨みたい。そんなことを考えていると検診は終了した。

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 タイトルにもあるように、結果として虫歯が8本見つかった。そのうち2本は親知らずにできており、この機会に抜いてしまおうとのこと。8本という虫歯の本数、親知らずを抜くことーー。宣告は自身の想定を(悪い意味で)上回るものであった。ただ宣告を受けたわたしの心は不思議と穏やかだったのである。

 おそらく歯科検診前のわたしは不明瞭な未来、現在わたしの口内に一体何本の虫歯があるのか、はたまた虫歯の治療以外の事態が必要となってしまうのだろうかといった推測に怖さを抱いていたのであろう。

 8本治療すれば数年にも渡る恐怖の呪縛から解放されるという道筋が見え、わたしは晴れ晴れとした気持ちを覚えていた。診察室にI WiSHの『明日への扉』(オルゴールver.)が流れていたことも影響しているかもしれない。

 歯医者さん曰く、とりあえず今日は1本だけ治療しようとのこと。晴れ晴れとした気持ちを覚えていたこともあるが、最初に検診で大きく口を開け器具でアレコレされていたことから、治療器具を口に入れることに抵抗はなかった。

 もちろんドリル特有の「キーーーーーンッ」という音は身の毛がよだつものであるが、(あたりまえであるが)音に痛みはない。そして(あたりまえであるが)歯の神経にドリルが当たらなければ痛みはほとんどないのである。

 小さな虫歯だったためか、歯を削った1分間(体感は5分ほどだったような気もするが)、痛みをほとんど感じなかった。歯医者で泣き叫んだ子どものころの思い出は一体なんだったのか……。トラウマを克服する足掛かりをつかんだ気がした。数十年身長は伸びていないわたしはひさしぶりに自身の成長を実感した。

 歯を削る工程が終了すれば、あとは詰め物を装備するだけ。歯医者さんは別の患者さんを治療するためいったん席を離れた。その間に治療台につけられた小さな洗面台でうがいをする。うがいをしている最中には嵐の『love so sweet』(オルゴールver.)が診察室を包みこむ。

 なぜ歯医者では決まって有名楽曲のオルゴールヴァージョンが流れているのか。原曲でもいいような気がするし、オルゴールヴァージョンの楽曲が歯科医院のイメージを触発する、人によっては恐怖を想起するものになっているような気もする。

 ただ歯の治療をされている際に、患者は抵抗できない者なのだとつよく感じた。わたしの口内でドリルを振るう歯医者さんの前で、わたしは自由を奪われている。そんな状況下でわたしは歯医者さんを信じることしかできない。

 もしかしたら歯科医院では歯医者さんが変な興奮や暴走をしないために落ち着くような曲を流しているといった側面もあるのかもしれない。歯医者さんを鎮めることに注力する姿勢は、患者の安心にもつながるだろう。WANIMAの『やってみよう』のようなテンションで治療されても困るだけだ。“誰でも最初は 初心者なんだから”精神で治療されたくない。“トライ!トライ!”しないでほしい。

 詰め物を施すことも無事に終了。この日の診療は20分ほどだった。1時間以上かかるかと思っていたら、美容室で過ごすよりも少ない時間で終わってしまった。

 子どものころ積極的に歯科医院へ通っていた人ほど、もしかしたら歯科医院へのトラウマは大きいのかもしれない。時代の変化か、はたまた自身の成長か。ひさしぶりの歯医者さんは痛みも小さく、所要時間も短いものであった。もちろん、わたしがお世話になった歯医者さんがとてもいいところであったことは言うまでもない。

 ただ、親知らずの治療はトラウマにまみれた記憶の外に続く未知の領域。残り7本の治療へ向けたわたしの冒険はこれからだ。

ご愛読いただきありがとうございました。次回作にご期待ください。たぶんつづきます。

治療の進行度:🦷🐜🐜🐜🐜🐜👿👿


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