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ブラックニッカのウィスキー

僕がアイスを食べてるといつも「そんなもんばっかり食べてたらバカになるぞ!!」と叱責してくるじいちゃん。
すかさず僕も、「じいちゃんもウィスキーばっかり飲んどるやん!そっちの方が毒やろ!」とイキって言い返す。
じいちゃんは「酒はなあ、健康にいいんだよ」
と論理もへったくれもない返しをしてくるのがおなじみのくだりだった。

彼が亡くなってからもうすぐ20年になる。
じいちゃんがブラックニッカのウィスキーを飲むのが好きだったこと以外は忘れかけているくらい、もうほとんど記憶に残っていない。

僕が小学2年生の頃に癌で亡くなった。
当時学校で授業を受けていた時に先生に別室に呼ばれ、学校まで迎えにきた父さんの車に乗り込み、母親の実家である千葉まで大急ぎで向かったのを覚えている。
病院に到着してすぐ、医者にじいちゃんが亡くなったことを告げられた。
母親はじいちゃんの死に目に会えなかった。
霊安室に横たわるじいちゃんを見て、「こんなに硬く、冷たくなっちゃって」と母親が小さな声で呟いたのを今でも覚えている。
当時の僕は、正直何が何だかわかっていなかった。
冷たくなってるじいちゃんを触って、まだ生きてるんじゃないかと思ってたくらいに。

あとあと話を聞くと、癌は亡くなる半年前くらいから発覚していたが通院を拒否し、自宅で療養をしていたらしい。酒なんて飲んでる場合じゃねえだろとクソガキだった僕は思っていた。

ニッカのウィスキーの味を初めて知ったのは、大学の友達との宅飲みだったきがする。
アルコールで喉が焼ける感覚と、ニッカ特有の香りが鼻腔を駆け抜ける感覚がどうにも好きになれなかった。

いまだにニッカは好きにはなれないけど、お酒の飲み方や自分なりの楽しみ方がだんだんわかってきた。
漠然とした不安で眠れない夜をお酒で誤魔化すことも増えた。
あの頃のじいちゃんも癌で死に近づいていく不安を掻き消そうとしてたんだろうか。

今ならいろんなことをたくさん話せる気がする。あんたはニッカの味の何が好きだったんだ?
そんなことを問いながら、毎年お盆に仏壇で手を合わせてる。


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