映画の感想!「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

 今年のアカデミー賞を総なめにした「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」遅ればせながら鑑賞してきました。

 この映画の感想を短く表現するなら、シュールすぎて意味が分からないのに、何を伝えたいのかはハッキリと見えてくるそんな作品でした。

 あらすじを敢えてHPから引っ張ってきます。

――経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…!――

 もう、奇想天外、奇妙奇天烈で既に訳がわからないのではないかと思います。
軽く補足をすると「マルチバース」というのは、今生きている宇宙以外に、決して観測できない別の宇宙が存在しているという概念です。つまり、主人公のエヴリンは、通常は観測なんてできない“別の世界線で生きている自分の意識”と“今生きている世界線の自分の意識”の間を行ったり来たりするということ。別の世界線のエヴリンは、歌手だったり女優だったりコックだったり、今のエヴリンよりも“成功”を掴んでいるように見える人生を歩んでいます。

 SF好きの方ならば、割とすんなり入れるのかもしれませんが、僕は全くその素養が無いので、マルチバース周りの描写になると、セリフや演出も哲学的過ぎることも相まって着いて行けなくなるのです。恐らく何度も見返して、例えば「このセリフは有名な戯曲のどこどこのセリフから引用してる」とか「名作映画のオマージュがある」とか、あるいは「メタファー云々」とか……ひとつひとつリサーチすれば、より理解に深みが増すのだと思うのですが、とにかく速いテンポでグイグイ押してくるから訳が分からないんです。

 でもですよ、それなのにです。初見でも2時間20分全く退屈することなく、最後まで観られるんです。しかも最後はちょっと泣きそうになるくらいの感動を心に残していくのです。これってすごいテクニックだと思います。
 理由はどこにあるのか。
 映像は文句なし、一枚一枚の画角が美しく、テンポも良く魅力的です。訳が分からなくても“見れちゃう”んです。要はカッコいいってことですね。でも、やっぱりそれだけだとどうしたってダレてくる。その「あぁちょっと本当についていけないかも……」っていうギリギリのタイミングで、個性的な俳優陣の地に足の着いた、エモーショナルな演技が感情を揺さぶってくるんです。この話はアメリカで暮らす中国系アメリカ人一家の家族愛を描くヒューマンドラマだったんだって、そこに引き戻されるわけなんですね。そのタイミングが絶妙の一言。しょっぱい系のおやつと、甘い系のおやつを食べる手が止まらないみたいな2時間20分になるのです。

 その“やめられない、とまらないひと時”の最後にどんなメッセージが待っているのか、それはぜひその目で確かめてみてほしいと思います。ものすごく素敵なメッセージです。まぁ、もう公開終わりそうなんですが……。

 最後に素晴らしい俳優陣についていくつか。見ていない方すみません……。
 ミシェル・ヨーは言わずもがな、説明不要の素晴らしさです。夫役のキー・ホイ・クァンに関しては、とても感じ入るものがありました。「グーニーズ」「インディジョーンズ」など話題作に出演した子役として一世を風靡したのち、彼はアジア人俳優としてハリウッドで生きていくことの厳しさを感じたといいます。こんなにも優れた俳優を30年眠らせていたハリウッドという場所を思いました……。
 さらに、娘役のステファニー・スーのすばらしさ!YES!YES!YES!と何度心の中で叫んだことか。彼女のティーンエイジャー役へのアプローチ、完璧でしょう。怒りも笑いも、悲しみも一瞬で見るものを引き込むそのテクニック。この人も、ハリウッドではまだあまり知られていない俳優さんではないでしょうか(僕は知りませんでした)。実力はあるのに、中々表舞台に出られないアジア系の俳優たちの才能と、パワーを感じられるのも今作の魅力です。(もちろん、アジア系以外の俳優さんの演技も素晴らし過ぎましたけれども)

何度でも見て、もっと美味しく味わいたいと思わせるそんな作品でした。


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