今月のひと駅-2024年5月
駒込(山手線)
こまごめ駅 東京都豊島区
明治43年開業
ソメイヨシノはこの地から
巣鴨から駒込にかけては、東へほぼ一直線の掘割区間。だから、車窓の見通しは悪い。何も変化を感じることないまま、駒込駅に入ると、ホームの両側は掘割からツツジの花壇に変わる。5月には色鮮やかなピンクに染まる、沿線風景の名所。巣鴨側からだと、コンクリートの壁からいきなり変化するので、感動よりも驚きが勝る。
今でこそ、駅とツツジの関係を知る人も少ないが、駒込は江戸時代に遡る、造園職人のまちだったところ。駅のすぐ南、やはりツツジの名所である六義園(りくぎえん)にも象徴されるが、この界隈の旧称、染井村は当時「吉野桜」の栽培が有名だった。後に正式な品種として改名された「ソメイヨシノ」発祥の地だ。一方で駒込駅名物のツツジも、明治の開業時に職人によって植えられて以来、ずっと受け継がれてきたというから、さらに驚きである。
以前のマッチ箱みたいなコンクリート駅舎が改築され、なかなか洒落たデザインにはなったけれども、植木と造園のまち、ましてやソメイヨシノのふるさとというエポックが、強調される様子はない。ツツジから広がる駒込の魅力の奥深さは、5月の花盛りのみならず、通年で宣伝する価値のあるものだろう。
【2015(平成27)年取材】
『駅路VISION第21巻・東京都心』より抜粋
あかつき舎MOOK「RED SHOES KITA-Qクロニクル」もよろしくお願いします。