インタヴュー ウィズ オスプレイ ⑥
トビの真似はいけません!
―ただいま時刻は13時を回ったところ、再びミサゴさんにお越しいただきました。お子さんのフォローですが、どうもトラブルがあったようですね。
ミサゴ ちょっと参りました。息子が泣きながらダイブを嫌がっているうちに、次の家族がシビレを切らして来てしまったんですよ。しかも、その中に天才的な子がいましてね、息子と同い年なのに、一発で大物を仕留めるのを目の前で見せつけられて。これで息子が逆ギレですよ。その子の獲物を目がけて追い回すものだから、両方の親から「トビの真似はやめなさい!」と𠮟りつけられる始末で。恥ずかしいところを見られてしまいました。
―つまり、漁場でのルールが破られてしまったわけですね。
ミサゴ 息子の気持ちになると、いたたまれないですがね。漁場での譲り合いと、他人のものを盗らない決まりは絶対ですから。親としてのしつけは大事です。
―親子といえども、もう体格が変わらないので人間の目からは見分けにくいですが、声出しの様子から、なんとなく関係性が見て取れます。
ミサゴ 巣立ち雛とか、若鳥とか言われるうちは、翼の羽毛の一つ一つに白い縁取りがあるんですよ。なので、遠くからだと背中側が茶色に見えるはずです。大人になればなるほど、全体が黒っぽくなっていきますね。ちなみに、男女の違いも、体格差のほかにポイントがありますよ。
―ぜひ教えてください。
ミサゴ 胸元の茶色いスカーフです。模様が細くて白い体とのコントラストがはっきりしているのは男です。女性は茶色い部分が太くて体の色と混ざり、斑っぽくなります。
―なるほど。あと、やはりお話しのとおり、ホバリングとタッチアンドゴーばかり繰り返して、一向に飛び込もうとしないのも、子どもとみて間違いないでしょうね。
ミサゴ さきほどの子のような例外はいますけど、ほとんどの子どもは、まだダイブへの恐怖心が拭えないですよね。だから、家族で漁場に着くと、まず子どもに高度を下げさせ、親はその上から、ダイブのタイミングを教え続けます。いくら本能的に水面下の状況がわかっているといえども、その危険がどれほどのものかは、経験を積まないと理解できません。ましてや魚も種類ごとに体の特徴や運動能力も違うので、捕獲の確度をどうやって上げていくかは、結局のところ命がけで飛び込んで体で覚えるしかないのです。
―そこまでの危険と恐怖を克服してのダイブですから、どんなに小さい獲物であろうと、やはりお子さんが漁に成功すると、親としても嬉しいでしょう。
ミサゴ そう言いたいところですが、現場ではとにかく、獲ったらすぐ帰りなさいと。喜んでいる余裕はないですね。子どもがなんとか収穫を得たら、すぐさま親も飛び込んで、一発どりで引き揚げます。ですが、今回のようにいつまでもぐずぐずしている子がいると、仕方なく親が先に飛び込んで帰ってしまうことも。次の家族が来てしまいますからね。そうなると、子どもは焦って不安になるわけですが、とにかく自力で飛び込む覚悟を決めるしかない。こういうことも教育の一環です。
―それでも結局、自分で獲れない子どもはどうなるのですか。
ミサゴ 堪えきれなくなって自宅へ戻ってしまうのは、よくあることですよ。そういうときに備えて親はある程度、獲ってきた食材を残しておくものです。でも、時がたつにつれて、そんなことはしなくなります。これが本当の意味での巣立ち、親離れというタイミングですね。ですから、大抵の子どもたちは、午前中に成果を得られず、昼休憩を挟んで、午後の漁に明け暮れるという時期を経験します。
―それで納得がいきました。午前中にいるミサゴより午後の方が、明らかに漁が下手なのは、子どもの比率が高いからなんですね。なかなか飛び込まないし、飛び込んでも空振りのケースが多い。
ミサゴ 課題はそれだけではありません。ダイブよりむしろ捕獲後の飛翔技術の方が、習得は難しいのです。前に話した、いわゆる「魚雷持ち」は基本中の基本ですが、往々にして子どもたちは、獲ったときの嬉しさと、水面から早く離れたい焦りとで、ちゃんと魚を両脚でロックできないまま飛び立ってしまう。当然、魚が空中で暴れるし、飛行のバランスもとれないので、落としてしまったり、トビなどに横取りされたりするわけです。ちゃんと魚を体と平行に、おなかに密着させるように抱えると、襲撃をかわす技も自然と身につきます。脚が使えない以上、こちらはひたすら逃げるしかないですからね。
―さきほど、トビとカラスの対談でも、あなた方の逃げテクの凄さには感心していましたよ。質問も受けてきましたので、この後はいよいよ、あなた方の体のメカニズムに迫ってみたいと思います。
ミサゴ 私も彼らの話には興味がありますね。ちょっと怖いけれど、ぜひ聞かせてください。
(つづく)
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(発行・編集人:安藤進一)