(メモ)スタートアップと法律〜ファイナンス編その1〜
前回「(メモ)スタートアップと法律」というタイトルで,起業の際に知っておくと良いかもしれない法的知識をメモしました。
このnoteでは,もう少しフェースが進んでファイナンスを考えているスタートアップの役に立つかもしれない法的知識をメモしておきます。
※ なお,このnoteではJ-KISSに関するメモも記載していますが,J-KISSに関しては,草原先生のこちらのnoteがとても参考になると思います。
必ずしもエクイティファイナンスがデッドファイナンスよりも優れている訳ではない
起業後は,何かとお金が必要になることが多いと思います。
必要な資金を調達する場合には,大ざっぱに言えば,借入れという方法と,投資を受けるという方法がありえます。
デッドファイナンスとエクイティファイナンスです。
多くの起業家が,返済義務があるデッドファイナンスよりも,返済義務のないエクイティファイナンスを好むように思います。
しかし,エクイティファイナンスにも,いくつかのデメリットはあります。
エクイティファイナンスでは,お金をもらう代わりに会社の持分を人に渡してしまうことになります。
会社の持分を渡すことは,誤解を恐れずに言えば,経営に干渉する資格を与えることです。
企業の価値を見誤ると,不当に低い金額で,大きな権限を第三者に与えてしまうことにもなりかねません。
結果的にエクイティファイナンスを選ぶとしても,このデメリットは知っておく方が良いです。
株式の発行以外に有償新株予約権(JKISSなど)やCBという選択肢もある
エクイティファイナンスを選択するとしても,株式の発行以外に,有償新株予約権やCBを発行する選択肢があります。
会社にとって,株式の代わりに有償新株予約権やCBを使用するメリットは,出資者に対して出資時に会社の持分を与えることを避けられる点にあります。
有償新株予約権等の設計によっては,企業の価値がある程度明確になった時点で,(ある程度)正確な1株あたりの金額で,株式を発行できるため,その点では出資者にとってもメリットがあります。
また,特にJKISSについて言えば,特定の雛形をそのまま利用することを前提に設計されていることから,会社と出資者との間での交渉のポイントを絞ることができるメリットもあります。
JKISSを発行する際は転換価額に注意する必要がある
JKISSを発行する際には,慎重に転換価額を設定する必要があります。
JKISSは新株予約権の一種であるため,JKISSによる出資者は,株式を手に入れる権利を持っていることになります。
「じゃあ出資者は,それぞれ何株の株式を手に入れられるのか?」
これを決定するのが転換価額です。
出資者が手に入れられる株式の数は,各出資者の出資額を転換価額で除して得られる数です。
たとえば,300万円を出資した出資者がいた場合,転換価額が10万円であれば,その出資者は30株の株式を得られます。
転換価額が低くなればなるほど,同じ出資額で得られる株式の数は増え,転換価額が高くなればなるほど,同じ出資額で得られる株式の数は減ることになります。
ということは,出資者にとっては転換価額は低い方が望ましく,会社にとっては転換価額が高い方が望ましいといえます。
このような視点から,転換価額を慎重に設定する必要があります。
JKISSには9万円の登録免許税がかかる
JKISSは新株予約権の一種であるため,JKISSを発行したら登記が必要です。
この登記の際には9万円の登録免許税がかかります。
JKISSの発行後は新株予約権原簿に留意する必要がある
JKISSを発行した後には,新株予約権原簿記載事項証明書を出資者に交付する必要があります。
現在事項全部証明書も交付する必要があるのですが,現在事項全部証明書の交付を忘れることは多くないと思います。
これに対し,新株予約権原簿記載事項証明書の交付は見落としがちなので注意が必要かもしれません。
JKISSの発行後は優先引受権に留意する必要がある
JKISSで出資した出資者のうち主要投資家には,色々な権利が与えられており,その中には「優先引受権」も含まれます。
優先引受権は,会社が新規に株式等を発行しようとする際に,優先的に株式等を引き受けられる権利です。
仮に行使されたとしても会社にとって大きなリスクがある訳ではないものの,優先引受権を有する者に対しては,新規に株式等を発行する場合に事前に通知する必要があります。
JKISS発行後に新しく株式等(別のJKISSを含む)を発行する場合には,事前に主要投資家に通知しなければならない点に留意しておく必要があります。