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樹木希林のことば「一切なりゆき」

年齢を重ねる度に、重いテーマの小説や映画が苦手になってくる。
とにかくもう、ひたすら楽しくて美しいものを観ていたいと思う。

悲しいかな。現実でさんざん辛酸を舐めていると、結果こうなる(苦笑

家のプロジェクターで、ジュディーガーランドの『オズの魔法使い』を観て、夜中に一人でテンションが上がっていたりする。誰かが見ていたら
それはそれで怖い光景だろうな。

それなのに、昨年Amazon prime videoでうっかり
『万引き家族』を観てしまった。

案の定、その後1週間は重たい気持ちを引きずった。こうなるから嫌なんだ。
特に、樹木希林演じる老婆。これでもかというくらい、どろ〜っとした役どころだった。

こういう、独特の存在感のある女優さんは他にいない。

求めすぎない。欲なんてきりなくあるんですから。
モノがあるとモノに追いかけられます。
おごらず、他人(ひと)と比べず、面白がって、平気に生きればいい。
楽しむのではなくて、面白がることよ。楽しむというのは客観的でしょう。
中に入って面白がるの。面白がらなきゃやっていけないもの、この世の中。


本書に内田ファミリーの家族写真が掲載されている。


2017年に撮影されたものだ。前列の真ん中は、杖を持って座る内田裕也。
左右に孫の玄兎、伽羅。後列が左端から樹木希林、孫の雅楽、娘の也哉子
娘婿の本木雅弘。

見開きのページで右ページは、全員が前を向いている。左のページは少しリラックスした感じ。どちらも、映画のポスターのようだ。

少々大黒柱がひしゃげていても、歪んでいても、土台さえしっかりしていれば家は何とか立っていられる。(中略)私がしっかり土台をつくっておきさえすれば、この家族の絆はなくならないと、信じていられたのかもしれません。


私が物心ついて樹木希林を知った時には、彼女は既におばあさんだった。

なんと31歳から、老けメイクをして老婆役を演じていたのだ。
テレビドラマ「寺内貫太郎一家」では、指先の出る手袋をいつもしていたが
手だけが若々しいので、それを隠す為だったそうだ。

生前では最後の出演映画となる『万引き家族』では、入れ歯をはずし、髪もだらんと伸ばし、気味の悪い老婆をリアルに演じた。
歯のない口でミカンにかぶりつき、実を歯ぐきでしごきながら食べる光景は
何ともいえない気分になった。

人間が老いていく、こわれていく姿を見せたかったという。

勿論、普段の彼女は全く違う。

凛とした、間違ったことを言うと怒られそうな知的な女性である。


いい顔したおじいさんってのは多いけど
いい顔したおばあさんってのが少ないんですね。
そこが、やっぱり、女の許容量の狭さなんだろうと思うんですね。
女が徳のある、いいシワのある顔相になるためには
本当にとことん自分のエネルギーを使い果たさないと。
そこまで行きつかないとアカが取れないという
女の体質なんじゃないかと思うんですよ。
「私が」とをむいているときの女というのは醜いなぁ
生きるのに精いっぱいという人が、だいたい見事な人生をおくりますね。
人間でも一回、ダメになった人が好きなんです。
 
いろんな修羅場があっても人の責任にしないのは、女としての潔さ。


樹木希林は、徹底して始末のいい人だった。

 *始末・・・物事の始めと終わり。始めから終わりまでの細かい事情、または成り行き。いきさつ。顛末 (てんまつ) 。

家族の絆もつなぎとめ、独特な形ではあるけれど、存在をあるがままに認め合う夫婦として最期を迎える。

コミカルなおばあさん役に始まり、真に迫った老婆で締めくくる。

「おもしろうて、やがて哀しき」人生をかけて老婆を演じきった。

プレイベートの内田啓子(本名)も女優の樹木希林も
しっかりと始末をして、人生を全うしている。

ちなみに、若い頃の樹木希林と内田裕也の写真も掲載されているのだが、不良っぽいけれどもどこか品の良さのある、なかなかのイケメンだった。おもしろい夫婦だ。

また、娘の也哉子さんと、本木雅弘さん夫婦のちゃんとしている(?)感じが両親とは対照的で、しばらく見ていられる家族写真だった。



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