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雪どけのあんこ

この人のあんこには、どんな物語があるのだろうか。

ずっと行きたかった、美作の「あんこや ぺ」に行ってきた。先日テレビで取り上げられ、一躍有名になったあんこ卸屋さんだ。

美作なんてふだんは行かないけれど、私の住んでいるまちから意外にも近く、でも知らない景色やお店がたくさんあって、ちょっと小旅行気分を味わえた。

あんこや ぺ のある美作市古町は、江戸時代に栄えた宿場町で、当時の街並みが保存されている。

昨夜雪が降ったようで、建物の屋根や道路、木々にはあわ雪がちらほらと残り、それもまた美しい情緒を醸し出していた。

かつての宿場町通りの一角に、控えめにたたずむ古民家。それが、ぺ。ふっと笑ってしまいそうなネーミングなのに、一度聞いたら忘れられないインパクトがある。

いつもはカフェの営業もされているのだけれど、テレビで放送されてからお客さんが激増し、今はあんこの量り売りのみ。

店のたたずまいと同じく控えめな雰囲気の店主さん。お客さんが増え、きっとお忙しいことだろう。話しかけてもよいものか一瞬迷ったけれど、抑えてもあふれるあんこ愛を止められるわけがなく。

グイグイいくのはちがう。元来人見知りなわたしも、グイグイこられると困る。
でもやっぱり、その人を知りたいから、少し前のめりで話しだす。
ふところ…まではいけなくとも、ふところの手前でもいい、その柔らかい場所に、そおっと触れてみたいと思う。

あんこが好きなんで、あんこの本を出そうと思ってるんです。からはじまる、なんともマヌケな自己紹介。

すると、雪が弱い陽射しに晒されてゆるやかに解けてゆくように、ぽろぽろとしゃべりだしてくれた。

一度だけイベントでお団子をいただいたことがあること、また改めて取材させてほしいこと、店主さんの地元のこと(まさかの展開にびっくり)。矢継ぎ早にならないように語る。

次のお客さんが待たれていたので、ほんの数分しかお話できなかったけれど、そのほんの数分で、きっと雪は解けた、と思う。

はたから見たら、店主と客のただの世間話。でも、私にとっては、次につながる大事な会話だった。

あんこを作ることを生業にしているなんて、この人の人生に、いったいどんなあんことの出会いがあったのだろう。思いを馳せずにはいられない。

今度おじゃましたら、まずはそこから聞いてみたい。控えめそうな人だからこそ、ゆっくりじっくり、あんこをお供に。

買ったあんこは、800g。
それでもすぐになくなるよ。

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