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脱会しても生き残っていいらしい 後編

★前回のあらすじ★
宗教のおばさまから「選挙は◯◯さんに入れてね!あとその話をするために×日にお家を訪問していい?」というLINEがきたよ! 


うわー、またかあ。と思った。やっぱり来るよねえ。

今までの私だったら、嫌だなあ……と思いながらも対応していた。どうせあの人たちは私の話など聞かない。彼らに言いたいことがあるだけなのだ。だから黙って聞いていればいい、実際に投票するのは自分が決めた別の人にする、それでいいじゃないか。わざわざ波風立てなくても、と。

いやいや、私はこれからもこんな風に我慢しなくちゃいけないのか?私はいつになったら私の気持ちを大事に出来るんだ?

そしてふと思いついた。

親にいきなり脱会を申し出るのはハードルが高い。ならば、まずは、この「訪問をNOと言う」ところから挑戦してみればいいんじゃないか。

というわけで、悩みに悩んで以下のような内容を送った。
・連絡をくださったことへのお礼
・訪問したいと言われた日は仕事があり対応するのが難しいことへのお詫び
・現状、私としては積極的に活動する心づもりがないこと
・したがって今後このようなご連絡をもらってもお応えすることは難しいこと

文面を考えるのにかなりの時間をかけた。書き終わったあとも、送る勇気が出ずにLINEの画面を見続けていた。え、これほんとに送っていいやつ?相手のこと、傷つけないかな?今までなんだったんだよってキレられたりしない?同居人に迷惑がかかったらどうしよう?

ネット上にある脱会の体験談をひたすら読み漁り、震えた。

さんざん悩んだすえに、「いや!仮にこれで今後嫌がらせが起きたとしたら警察に相談すればいいや!えい!」とLINEを送った。そんなことを考えるくらい追い詰められていた。

返信に怯えた。ひどい言葉が返ってくるんじゃないか。かえって「話し合いましょう」みたいに突然訪問してくるんじゃないか。

LINEは、返ってこなかった。そして数日後、勝手に入れられていた地域のグループLINEからは外されていた。

あは、あはは。気の抜けた笑いが漏れた。

あんだけ気遣って書く必要なかったじゃん。あの人たちにとっては、票を入れてくれる人かそうでないかが重要で、後者なら、返信の必要すらない人と思われるんだ。ていうか、たぶん、もうこの人の世界に私は「いない」んだな、と思った。

色々構えていたのがなんだかあほらしく思えてきた。

よっしゃ!なんかもう親に何言われてもいいや!
脱会しよう。親に嫌われても死なない。私はNOを言って、この世界に生き残るぞ。

脱会届を出すことは、事前に親に言わないことにした。その理由は、相談したとてOKが出ないだろうこと(というか実は過去一メンタルが荒れていた時に「お願いだから脱会させて!!!!」と勢いで送ったら流されたことがある)、そもそも親の許可が要るものでもないと思ったこと、届けを出せば、システム的に親の知るところとなるはずだから、である。

あれほど無理だと思っていた脱会は、本部に紙を一枚郵送するだけで出来た。知ってた。手続きとしては、これだけで済むってこと。でも私は、その決断をするまでに何十年もかかったし、かける必要があったのだ。



そうして脱会したのが約1年前。今現在も、親から連絡は来ていない。一度、祖母が亡くなった時に兄妹経由でその連絡が来て、慌てて実家にかけつけたくらいだ。そのときは、両親も親戚もろくに話しかけてこず、腫れ物扱いだった。

いやいや、葬式の連絡くらい親からしてくれよ、あるいは私には実家の敷居をもう跨がせないくらいに突っぱねないのかよ、と思った。なんか、そういう中途半端な感じが、どこまでも自分の親らしいなと思った。

もしかしたら彼らは彼らで考えていることがあるのかもしれない。突き放さない、何も触れないのを、優しさと形容するならしてもいいのかもしれない。私とあの人たちは違う存在なのだから。優しさの形や思うことが違っていい。

いいじゃん、腫れ物。そう、私はあなたたちにとって異物です。私はこれから、異物として生きます。

祖母に手を合わせながら、もう二度とこの家には帰らないかもしれない、と思った。

あれから私は一度も、実家に帰っていない。悔いはない。私は私の人生を選んだ。それまでのことだ。

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