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ミライノオトモニターNo.15「忘れてもいいこと」

そっと背中に手を当てると、硬い感覚が伝わってくる。
それは、筋肉の緊張と心の緊張、両方であるようだ。

そのままじっと当てつづけていると、だんだん緩んでくると同時に、微細な筋肉の動きや、この箇所の気の玉にも変化が現れる。

岩のように固く、外側を拒絶したような形、どんよりと重い色、泥のような匂い。
そうだったものが、じわりじわりと変化し続け、今は随分軽く、明るくなってきていることを感じる。

からだはとても正直だ。
心と密接に繋がっているから、からだから緩めることも、とても有効な手段であることを身をもって体感している。

その人本来の姿は、いつもそれだけで美しい。
例え、傍から見て大変そうに思えたり、不便そうであったとしても、それは今のその方には必要なことである。

その状態が見せてくれるもの、その状態だからこそ、見たい光があることに気づくチャンスがある。
からだを通して知ることもたくさんだ。

ふわっと暖かくなり可愛らしく緩んだその方の背中からは、なんだか楽しげな、喜んでいるような声が聞こえてくるようだった。

「あなたとのご縁をいただいてから、
なんだか自分がまあるくなったような気がするんです。
なぜでしょうね…」

なんと答えていいか、一瞬口をつぐんでしまった瞬間にまた声が続く。

「あなたに会う前のわたしは、わたしが嫌いだった。
何一つ思い通りに行かない人生を歩んできたと、諦めていることばかりだった。
いや、諦めていることさえも気づかなかった。
あの時、ちょっとしたからだの不調をお話したときの、あなたの言葉がとても響いたんです」

実は本当に申し訳ないのだが、わたしはなんと言ったか忘れてしまったのだ。
なんとなく、聞きづらくて未だに聞けていない。
それに対して罪悪感をずっと抱えていたが、もうそういう不要なことは終わりにしたい。
わたしは思い切って聞いてみた。

「あの……本当に失礼だと思うのですが、
わたし、なんと申し上げたか忘れてしまったんです……
どんなお話をさせて頂いたのでしょうか」

驚かれるかもしれない。
困ったり、呆れたりされるかもしれない。
そういうことへの恐れが、この言葉を紡ぎ出すことを長らくストップさせていたけれど、こんな状態を続けていることへの負担と、何を自分が話したのかの確認をしたい気持ちが上回った。

ドキドキしながら、目の前の方の反応を待った。
すると、意外な言葉が返ってきたのだ。

「えっと…
ごめんなさい。
実は私も忘れてしまったんです」

ええ…?と予想外の答えに、一瞬にして体の力がざあっと抜けた感じがした。

この、幾度となく繰り返されたやり取りの中心にあったはずのこと。
それを二人とも忘れていて、話が進んでいたとは…

思わず、プッと笑ってしまい、慌てて

「すみません、笑ってしまうなんて…」

「いや、いいんですよ。確かに笑える話です。
だって、何度もこれについて私からお話ししているくせに、当の本人が忘れているって、そんなことあるかって思いますし、自分でも」

なんと返していいかわからずにいると、その人はなおも言葉を続けた。

「でも、内容は覚えていなくても、その感覚ははっきりと思い出せるんです。
あなたがかけてくれた言葉で、私の全身の筋肉が緩み、涙が出そうなほどに、優しい感覚に包まれたことを。
ずっとずっと待っていたものが、今まさに与えられた、そんな気持ちになったことを。

そして、その時に気づいたんです。
なんと、自分は渇いていたのだろうと。
それさえもわからなかった私に、一気にたくさんの豊かさが押し寄せたようでした」

そんな感覚に包まれるようなことに繋がる何かを、私は話したのだろうか。
とても重要なことに思われるのに、何一つ思い出せない自分に、悔しささえ感じる。
これが何か分かれば、もっと必要な人に届けられるかもしれないのに。

私が考えていることが伝わったのだろうか…
その方はまた言葉を続ける。

「ね、どんなお話だったのでしょうね…
私もずっと気になっているんですが、どうしても思い出せなくて。
でも、あの短い時間でのやり取りの中で、きっとあなたから当たり前に、自然に出てきた言葉だったのではないでしょうか。
それこそ、朝起きた家族に「おはよう」と言うくらいのこと」

ますます分からない…
それが何か分からなければ、前へ進めないような気がしてきた。
分かれば、ボンっと急上昇できるはずなのに。
そのスイッチはどこかにあるのに、どこどこどこ?とかくれんぼしているみたいに見つけることができない。

「いや…本当になんとお話したのか、ますます知りたくなってきてしまいました。
このままでは今夜眠れそうにないくらいです」

「すみません、混乱させてしまったかもしれませんね…余計なことを話してしまったかも。
でも、ふと思うんですけど、それを思い出すことはさほど重要じゃない気がしているんです」

「そ、そうなんでしょうか」

「さっきもお伝えしましたが、あまりにも自然に出たお話だったのじゃないかと思うんです。ここまで印象に残っていないことって。
そうだとしたら、あなたの「いつものまま」でいることでいいんじゃないでしょうか。
そのあなたから出てくる言葉や、体のことについてのもの…
ただ、出てきてしまう、自然に口をついてしまうことで、私はガラリと世界が変わったのですから」

私の、いつものまま。
何を話したか、やったかも覚えていないような、それくらいのこと。
それがこの方を心地よくさせていた。


それが何であるかを特定することよりも、ただのわたしでいること。
それを目の前の方は望んでいる。
ならば、それを出さずして、何を出すというのだろう?

この国内の人が多数集うコミュニティで、わたしよりもずっと豊かな方から、そんな言葉をもらったのだ。

先程のやりとりで、ざあっと音を立てて抜けた力は、わたしにはもう不要なものだった。

空いた部分に蘇ってきたのは、わたしというものが奏でる、いのちの歓喜のリズム。
そしてどこまでも広がる水平線の前にいるような、静寂の中にある情熱の香りだった。

このストーリーの後押しとなるように設定したアートを描かせていただきました!


「ミライノオト・モニターシリーズ」
MIERUKAアーティストAKARIが綴る、
お申込みくださった方の「勝手な未来の妄想ストーリー」
今回は、新しく始めたいこと(その人が心地よくいれるためのお手伝い)についてのストーリーのご依頼でした。

モニター募集時の記事はこちら
https://resast.jp/events/YjkwYzc3NWQ4M

<追記>
本募集が始まりました!
小さな本のタイプと、動画タイプをお送りしています。


現在こちらで受け付けています。
https://resast.jp/inquiry/ZjI3OTgyNzQwM

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以下は、お申込みくださった方のご感想です。

・今回お申込みいただいたきっかけ、何にピンと来たかなどお知らせください。


何か心に訴えかけるものがあって、どんなストーリーがやってくるのか、気になったから。



・届いた妄想ストーリーのご感想をお願いいたします

自分が施術(?)されてる側でもあり、施術する側でもあり。。。自分が癒されていくのを感じました。最初の一文を読んだ時点ですでにうるっときていて。なんだか不思議な感覚でした。
力む必要はなく、自然体でいることが次の一歩に繋がるのかな、と思いました。最後の、「歓喜のリズムと情熱の香り」という言葉。
それぞれの言葉が自分にとってのテーマに繋がりそうな予感がしました。
素敵なストーリーをありがとうございました。

・届いたアートのご感想をお願いいたします。

3年前に作った宇宙マップに貼ってある、宇宙の中心辺りから出てるのか向かってるのか、竜巻のようなものがある絵を貼っていて。。。それを目一杯、キラキラにさせた感じで、全てが循環していくようなそれでいて繋がっていくような、そんなイメージが湧きました。エネルギーが自然に動いていく。楽しみです。

・このミライノオトはどんな方にオススメしたいでしょうか?

自分の中にあるものを自分だけではイメージしづらい人に。あともうちょっとなのにな、というタイミングの人にも。

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モニターのご参加ありがとうございました。
未来への一つのヒントとなりましたら幸いです!

この度は本当にありがとうございました^^

さらにミライへ、そのオトを聴きならがら。

MIERUKAアーティストAKARI

ピコンと心が動いた時に、ぽっちり押してくださると、嬉しいです。 より良いものをお届けさせていただくともし火にさせていただきます^^