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その響きと色と波と。

手元の時計では、もう深夜一時を指している。
普段なら、もうぐっすりと寝ている時間。
でも、まだまだ寝るわけにはいかない。
だって、これからが本番だから。

ここはカナダのイエローナイフ。
オーロラが見られるスポットとしては有名なところだ。
冬は-30℃以下になることもあるらしく
寒さに弱くないとは思う私であるが、ちょっと勇気のいる温度だ。
でも、北海道でもこれくらいの気温になるところはあるみたいだし
そう思うと日本って、本当に多様な季節を味わえる場なんだな、と感じる。

海外に来るのは、久しぶりだ。
息子が小学3年生の時に、デンマークへ教育視察ツアーに行ってから。
その前は20年以上前。
大学の同級生たちと、タイに行った時。
そんなに海外旅行の経験もないし、自分から計画していくよりは
いつも誰かの企画に乗っかっているくらいで、積極的な方ではない。
日本語以外喋れないし、行ってはみたいと思っても、重い腰が上がりにくい。

だからこそ、その腰の重さを振り切ってしまうほどの、心の揺さぶりがないと動けないのだ。


今回も、そうだった。
別に行くつもりはなかったけれど、あれよあれよという間に、なぜかここに今いる。
そんな感じなので、ちょっとだけ現実感がない。
体は、ここにいる感じなのに、なんだかふわふわしている感覚もする。
長いフライトと、時差のせいかもしれないけれど。


「ね、オーロラ見に行こうよ」

とある日突然話が降ってきた。
いろんなことを考えてしまって、すぐに「うん」とは言えないなあ、と話だけ聞いてみた。
冬だとすごく寒いけど、夏ならそこまで寒くないし、湖に映る「ダブルオーロラ」も見れるかもしれない、という話と、その写真を見せてもらった時に


「あ、行くんだろうな」

と感じたのだ。

そう言えばうちの母って、行ったことがあるようなこと、言ってなかったかな。
どんなだったか聞いてみよう。
久しぶりに電話をして、話を切り出してみたら

「行ったことないわよ〜、フィンランドならあるけど。

でも、最近友達が行ったって言ってたのよね。どんなだったか聞こうと思っててん」

これはちょっとしたシンクロかもしれない。
オーロラの話が、情報が寄ってきている。

話を持ってきてくれた人含めて、食事をする機会があり、
ツアーについていろいろ聞く時間を持つことになった。
大人数での食事は久しぶりだった。
テーブルに運ばれるたくさんの料理を取り分ける音や、お酒が注がれる時に広がる香り、
お店のちょっと暗いけど暖かい照明、集った人たちの楽しそうな笑顔。


ここにいる人たちと一緒に、数日間を旅する。
そう思うと、なんだかじんわりとした暖かいものが、体の真ん中から
じわっと広がっていく感じがした。


「行くんだろうな」と思いつつ、家族3人で行くって結構なボリュームだなあ…
とあれこれ考えていたところ、不意に母から連絡があった。

「すっかり忘れてたけど、これ。渡しとく」

もらった封筒の中には、1冊の通帳が入っていた。
聞けば、私が小さい頃から積み立ててくれていたものが、
ひょっこり出てきたとのことだった。

「本当は、結婚する時に渡してあげようと思ったんだけど、
どこ探してもなくってねえ。
この間片付けてたら、ひょっこり出てきてん」

そこには旅行に出かけても、十分余りある金額が印字されていた。

以前なら、何か必要になった時のために、とって置いた方がいいんじゃないか、と思ったかもしれない。

でも、このタイミングでこの金額。
使うしかないでしょう!ということで、私たち3人は今ここ、
イエローナイフにいるというわけだった。

ここには、オーロラビレッジという鑑賞施設や、ティピーというテントもあって、オーロラの出現を待つ間も快適な場所がある。
私はちょっとしたスケッチができる画材を持ってきていた。
実際に描くかどうかは分からないけれど、描きたくなったのに何もないのは、嫌だなあと思ったのだ。

時計は2時近くになっている。
眠気があるような気もするけど、それよりも何か分からない、
不思議な感覚に包まれている。

地響きが聞こえ、体が震えるような感覚。
それと同時に、何かの音が聞こえそうな予感。
そして、時々、光のようなものがチラチラと見えるような気もしていて…

何かが、起こる。
そんな気配が漂っていた。

オーロラ鑑賞率が98%といわれる場所であるから、この気配はオーロラが
見えることなのだろうとは思うけど、もっと何か別のものも動いているような感覚がしていた。


空を見上げて、それが来るのを待つ。
だんだん首が痛くなってきたから、もう地面に寝転ぶことにした。
地面の固い感触と、その匂いを嗅ぎながら空をじっと見ていると、
その大きな空間に吸い込まれそうな感覚になり
なんだか目の前が暗くなってきたと思った時には、薄暗い空間の中に、私はいた。

あれ。オーロラ見るために、寝転んでたよね。
しまった、寝ちゃって夢でも見てるかな?
夢の中で夢って気づくのは、珍しいことだけど、でも多分そう。
だって、何もないんだもの。辺りを見回しても。

私は、薄暗い中をそっと歩き出した。
どこに向かっているかは分からない。ただ、こっちかもしれないと思う方へと感覚を頼りに足を交互に踏み出していく。

1、2、1、2、1、2…と小さく口に出しながら進んでいくと、足元に小さな光が見えた。
なんだろう?と顔を近づけてみるとそれは、小さな穴だった。
空間にできた、小さな穴。
覗こうと思っても小さすぎてよく見えない。


その穴にちょっと指を突っ込んでみたら、案外柔らかい感触がした。
さらに指を上へと押し上げてみたら、まるでカーテンが開くように
穴がぐわっと広がった。

あふれるような光が流れ込み、私の体をすっぽりと包んだ瞬間、大きな鐘の音が鳴り響いた。

それは、祝福の鐘の音だった。

それが何かと聞かれても分からないけれど、反射的に感じたのだ。祝福の鐘であると。
そしてより一層、光が強くなったところで、私の肉体の目が開いた。

わああ、という歓声があちこちで上がり、頭上には先ほどのカーテンのような柔らかなオーロラが広がっていた。



湖面にはそれと同じものが映し出されていた。
私は、その中央にいる。
上へも下へも、どちらへも行けるこの場所に、今いるのだ。

どっちに行ったっていい。

どこに行こうが、私はただ、私であることでしかできない。

この身がなくなるまで、それだけしかない。


ならば、今、たった今。
私にできることは何?


オーロラが消え去った後、ティピーの中で湧き上がってきたものを
紙の上に全部、全部、全部出した。
瞬きすることすら、惜しかった。
これが、薄まらないうちに、早く。
その衝動から逃れることはできなかった。


次の日…と(言っても数時間しか寝ていないのだけど)
観光に出かけることになっていて、ショッピングやギャラリーを
回るスケジュールが組まれていた。

ここの地には、ギャラリーも多く、興味深いものがたくさん並んでいた。
私が作品を眺めていると、オーナーと思しき方が話しかけてきてくださった。
英語が堪能な友人に間に入ってもらって、様々な話をしていた時に


「ねえ、昨日のあれ見てもらったら?」
と提案してくれたのだ。

そうか、そうだね、とカバンから昨日描いたものを取り出して
その制作経緯を話していると、ずっと押し黙って聞いていたオーナーが口を開いた。


「このアートをぜひ、買い取らせていただけませんか?
そしてこのギャラリーに展示させていただきたいのです」


え、え、え…

それは、嬉しい。めちゃくちゃ、嬉しい!!!


「私はこれくらいの価値があると思っていますが、いかがでしょうか」


提示された金額は、私のアートの中でも、未だ頂いたことのない数字が並んでいた。


「もう日本に帰ってしまうのですか?
これからも、作品ができたら知らせていただきたい。
そしてここに飾らせていただきたいのです。
もっと多くの人に見ていただくために」


いきなりの展開で、これって本当?と言いたくなったけど
私以上に喜んでくれている友人がすぐそばにいる。
私の背中を左手でバンバン叩きながら、右手は私の手をぎゅっと握りしめて、ブンブン上下に振り回して

「やった、やった、やったーーー!!」
と飛び跳ねながらぎゅっと抱きついてきた。

「ちょっと、痛いよ・・」
思わず口をついて出てくるほどに、力強く振動と圧が私の体にかかる。

その痛みで、これは本当なんだな、と思うと同時に次に描くものがもう目の前に広がっていた。


ああ、どうしよう。
朝も昼も夜も
あの光と、あの真ん中にいて「どっちにも行ける」という感覚に
身を浸す時間だけを過ごしたい。


その時間が濃ければ濃いほどあのオーロラがゆっくりと動き、起こす波のように
目の前に現れる色彩と形は、私もあなたも、あなたたちも揺さぶられるのだろう。

くるくると変わる色と形をどのように表現しようか
私はまた、それを見つける旅に出る。
できるかどうか分からなくても、それをしないことの方がありえないから。

どこかから、またあの祝福の鐘の音が聴こえてくる気がした。
あの音も、次の絵には入れなくては。
その響きと色と波を体に染み込ませると、私の真ん中も小さく熱く震えてきた。



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はあああ〜〜〜〜いっ!!


今年もやりました


エイプリルフール成幸法!


この日に大風呂敷を広げて、そしてそれを

読んでいただく^^


数年間続けていますが、これを書くことが楽しくて(笑)

そして叶っていることもちょこちょこあるので

毎年のお楽しみです^^



これをもとにお届けしているのが


新生! 妄想ストーリーアート ミライノオト




Akariがお届けする

あなたのもう一つのパラレルの物語。


「今のあなたを、その向こうへ連れていく」


ストーリーとアートです。



書かせていただく方に同調し
その枠を広げて言葉を紡ぎ
未来を想起するアートをお届けする


これが、今までの「当たり前」から抜け出して
自分が想定していなかった未来へと運ばれる足がかりとなる・・・


今、破壊と創造というキーワードが響く方
未来ってよくわからない、という方
自分が想像しているものと違う未来を見てみたい方

今描く未来から
ちょこっと足をはみ出してみる
「ゆらぎ」を感じてくださった方からは
こんなご感想をいただいています。



素敵なデザイン気に入りました!

お話も素敵でした!

パラグライダーは僕のやりたい事リストに入っていたのでビックリ!

本当に自分の話みたいに引き込まれました。

この続きを自分で実現出来たらいいなぁというのが素直を感想です。


幸せな気分で眠りにつくことが出来ました。
素敵なストーリーですね。

アカリさんの音声を聞きながら、何度でもアファメーションできるなんて贅沢ですね!

自分の人生、後悔しないように
チャレンジしたいです。
パラレルワールドは直ぐ隣にあるのでしょうね!


読み進める程に目頭が熱くなって、今もまだじんわり涙が浮かんでいます。
 
これくらい大口叩いていいのか!
…というか、本音の奥底では正直思ってるやん!

と自分の奥の方を見事に見抜かれ引っ張り出されたような感覚でした。

でもそういうことを言ったとしたら、きっと周りからは滑稽にしか見えないだろうという恐れもあったのだと思います。


詳細はこちらから。
4/29までの受付です。
https://www.reservestock.jp/inquiry/89977


ピコンと心が動いた時に、ぽっちり押してくださると、嬉しいです。 より良いものをお届けさせていただくともし火にさせていただきます^^